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おどる、おどる 「4」

おどる、おどる 「4」

まだ三月のなかばなのにわりと温かく、曇りがちだったが風も弱いのでので俺たちはのんびりと坂を下って行った。しばらくすると左手に池が見えてきた。大きな池で、近くに俺たちが入った入り口と別の南口があった。売店を見つけたのでカラーボールを一つ買った。池から先に進むと木道があつて葦が水面から顔を出している。亀が小さな岩の上に登って甲羅干しをしている。大きな鯉がたくさん泳いでいるのが見えるし、鴨も悠々と群がっていた。太田悦子が「いっぱいいるねー、みんな何を考えているのかなー?」俺はそんな事より、アンタが何を考えているか聞きたいよ、と思ったが黙っていた。


木道を過ぎると菜の花畑たぶんが見えてきた。原っぱになっている場所にたどり着いたらすぐに国枝がこのあたりで「そろそろ、昼飯にしようよー 俺、腹が減ってきたみたいだ」俺は「いや、まだ11時にもなっていないだろ?昼飯はもう少し先に行ってからにしようぜ」言いながら進むと左手に菜の花畑が見えるし、白い花がたくさん咲いている木もあった。あとで聞いたがハクモクレンの花らしい。草地になっているが立ち入り禁止のロープが張っていないから、ここで草野球みたいな事をやりたいと思って、オレは「ここで野球しないかー?さっき買ったカラーボールがあるから国枝のゴザをきつく巻いてバットにしてさー?」提案すると男子は乗り気、女子は「エー?やるのー?」特に一ノ瀬は「私、野球のルール知らないしバットって持ったことないんだけど…」困っているようだ。横山が「大丈夫、大丈夫、オレが教えてあげるよ。難しくないからー、野球知らないの?」聞くと一ノ瀬が「お父さんがテレビでよく見てるよ、阪神とタイガースが好きみたいで夢中になってるけど、私は興味ないから…」横山が「阪神とタイガースは一緒だよ」あきれているが、男子は皆、三角ベースだとか、草野球は小学生の頃から慣れているから、ルールをその都度決める遊びは得意だ。


太田悦子が「イッチー、やろうよ大丈夫、難しくないからやろう!」というと渋々「うん、わかったやってみる」返事が帰ってきたので試合開始になった。女子がバッターに入ったら下手投げ、男子相手は上手投げに決まった。国枝が「よーし、オレがトップバッターな!」きつく縛り直したゴザを振り回している「じゃ、俺が投げるぞー、。一ノ瀬、打ち方をよく見ててな?」残りの女子が1塁と3塁、横山が外野、一ノ瀬がキャッチャー兼守備で始めた。ビニールボールだから上から投げても、たいしたスピードは出ない。国枝は1球目を空振りした。「ゴザバットは打ちにくいなー。よし、もう一球だ」俺が投げた次のボールを国枝が3塁側に打った。弓子が転がるボールをつかんで悦子に投げたが、後ろにそらす。「へへー、セーフね。シングルヒットー!」嬉しそうに国枝が叫ぶ。

横山が一ノ瀬に「な!難しくないだろ?バッターボックスに入って打ってみなよ?」「えー、できるかな? んー、やってみる」ござバットを振っているがどうもおかしい。弓子が「イッチー、手が逆、逆、右手を上にもつんだよー」なるほど、それで変なのか、弓子は構え方を知っているようだ。俺は今度は下手投げでなるべく打ちやすいようにボールを投げた。やっぱり最初は空振り。横山が一ノ瀬に「よーく球を見て、ゆっくり振れば当たるから、、、」2球目がバットに当たった。「キャ、当たった当たった」喜んでその場でピョンピョンしているが走らない。弓子が「イッチー、前に転がったら一塁に走るのよ!国枝君みたいにー」「えー、なんでー?当たったら勝ちじゃないの?」頭が痛くなりそうだ。俺は一ノ瀬が打ったボールを拾って1塁に投げた。国枝は3塁に進んでいる。外野から横山が俺の所へやってきて「泉、外野なんかボールがこないじゃん、今度はオレが打つから」そう言ってゴザバットを掴んだ。俺は「一ノ瀬、アウトだから今度は外野に行って、ボールが来たら1塁かホームに投げるんだよ?」弓子と悦子が一ノ瀬に身振り手振りを交えてルールを説明しているようだ。

「じゃ、投げるぞー」横山は俺の頭を超えるヒットを打った。結局ランニングホームランになったが、どうやらなんとなく野球らしくなってきた。そのあと弓子がヒットを打って面白くなってきた。みんな夢中になりだして気がつくと1時間以上草野球をやってしまい汗までかいた。「そろそろ終わりにして、もう少し先にいくとトイレと水飲み場があるからそこで昼飯にしようぜ」俺が言うとみんな荷物を持ってぞろぞろと歩き出した。石で組んだ橋とトイレが見えてきた。


国枝が「この辺でいいだろ?オレもう喉が渇いて、腹が減って死にそう!」情けない声を出す。「よし、ここにしよう」みんなでゴザを広げ、女子が弁当を開く。三角と俵型のおにぎりとマカロニサラダや唐揚げが出てきた。国枝がおおげさに「うわー、うまそー!さすが女子、いい物作るねー、いただきまーす」もうおにぎりを一つ食べ終わる勢いだ。横山が「飲み物は日本茶と麦茶があるから、このコップで好きなほう飲んで」弓子が「横山君エライねー2種類持ってきてくれたんだー」褒めている。

俺もマカロニサラダをつまんで見るとなかなかうまい。「コレ、誰が作ったの?おいしいよ、唐揚げもおいしそうだなー」一ノ瀬が「マカロニサラダと肉じゃがは私が作りました。あと、俵のおにぎりも、、、あとはお母さんが漬けたナスとダイコンのお漬け物を持ってきました」横山が「ウン、みんなおいしそうだよ、一ノ瀬はいいお嫁さんになると思うよ」褒めると「そんな、こんなの誰でも作れますよ。いいお嫁さんだなんておおげさですー」恥ずかしがっている。最初は口数が少なかったが、だんだん話すようになってきた。野球を知らないのはまいったが、なかなかかわいいなと思えてきた。国枝は口も聞かず夢中で食べ続けている。コイツは朝飯食べていないのか?

悦子は「私だって一生懸命作ってきたよ!なんかイッチーだけほめられておもしろくない」横山が「いや、ハンバーグもイチゴもおいしいよ。みんな料理がうまいなぁ」あわててフォローする。


俺はふと敷いているゴザを見ると、一文字に黒い焦げ跡がいくつかあるのに気が付いた。「国枝、このゴザ何か焦げた跡があるけど何だ?ウチの仏壇の前にもこんな跡があるけど、、、」

すると国枝が「あー これは大善寺の本堂の畳表で、すごくいいモノだって母さんが言ってた。ホントに硬くて厚いもんなー」「おいおい、じゃこれはやっぱり線香が倒れて付いた焦げ跡かー、なんか縁起がいいんだか悪いんだか、、、」ゴザバットでボールを打ったりしたが、バチは当たらないだろうかと俺は思った。一ノ瀬が「そう言えば卒業式の少し前に大善寺でおじいちゃんの法事があったけど、なんか畳が新しくていいにおいがすると思いました」なるほど、先月までお寺の本堂にあったのか、この畳表は、、、まあビニールシートより座り心地がいいから文句を言うのはやめることにした。

みんなは俺と一ノ瀬を残して手を洗いに橋のほうのトイレに行った。


俺は一ノ瀬に「なあ一ノ瀬、花に詳しいようだけど好きなの?」聞いてみると「泉さん、よかったら私のことイッチーって呼んでください。みんなそう呼ぶから、イチノセって呼ばれると自分じゃないみたいだから。私、名前がサクラでしょ?そのせいか小さい頃から花や木が好きで幼稚園の頃から植物図鑑を買ってもらって一日中眺めてました」「じゃ、俺のこともユウジって呼んでくれればいいよ。なるほどねー、イッチーはそれで植物に詳しいんだー。すごいなぁ、じゃぁ、あのトイレと石橋の間にある白い花はなんだか分かる?」「あー、あれはユキヤナギでしょう、橋の先に見える黄色いのはさっきも花畑があったけど菜の花です。それに橋の右上のピンクは彼岸桜でしょ?ソメイヨシノはもう少し先だから、、、」

話しているうちに弓子たちが戻ってきた。太田悦子が「泉君、弓子がいるのにイッチーに手を出そうとしてたんじゃないのー?楽しそうに話してたの見てたよー」

オレは「違うよ!イッチーに花や木、植物の話を聞いてただけだよ。なー?」

「はい、そうです。別に手は出されませんでした」

弓子が「まあ、別に手を出してもいいんじゃないの?イッチーが良ければ。私はどうでもいいけど、それより留守番ごくろうさん、二人で手を洗いに行ってきていいよ」悦子がどうも釈然としない顔をしている。 

「じゃイッチー、今度は俺たちも手を洗いに行こうぜ。みんな、食べてていいから」二人で靴を履いてトイレの方へ歩き出した。一ノ瀬が「ユウジくん、エッちゃんがあんな事言ってたけど私は気にしてませんから、でもユミちゃんが気にしてるかなと思うけど、、、」俺は「だから弓子とはそんなんじゃないから、恋人とかアツアツとかなんかじゃないよー、ただ話しやすいから時々話してるだけだから」トイレの右側の水飲み場で手を洗いながら説明するが、本人達でなければ、きっと分かってもらえないだろうと思う。


イッチーが「ユウジくん、この橋の手前で咲いてるのはやっぱりユキヤナギでしたねぇ、橋のたもとにある小さい木はツツジですよー、あと1、2ヵ月で何色か分からないけど可愛い花がたくさん咲きますよ、何がいつ頃咲くか分かっていれば季節の花は簡単なんですよ」「なるほどねー、俺も少しは花のこと覚えたいなぁ、今度チャンスがあったら教えてよ、またみんなと一緒でいいから植物園でも連れてってよ、それと来月プロ野球が開幕するからみんなで川崎にホエールズとタイガースの試合、見に行こうよ!色々教えてあげるから、、、」

「分かりました、これからいろんな花が咲くからみんなで花を見に行きましょう」

そんな話をしながらみんなの座っている場所に戻った。


挿絵(By みてみん)




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