おどる、おどる 「24」
結局、弓子に話を聞いて貰う機会もないうちに浅井ひろみに何度もせかされてとうとう2月の最初の日曜日に二人で出かける約束が出来上がってしまった。10時に横浜駅で待ち合わせをして映画を見に行くことになってしまった。浅井に見る映画は任せることにしていた。
「何の映画にするんだい?俺は加山雄三の若大将シリーズとゴジラやモスラの怪獣映画しか見たことないけどな」そう言ったが「あたしに任せといて、おねえちゃんが映画好きだから相談してみるよ。ユウちゃんには当日まで内緒、そのほうがワクワクするでしょ?」ホントに勝手な奴だと思った。俺は浅井の手のひらの上で踊らせているようだが今回は浅井の計画に任せてみようと思った。
その日曜日は雪が降りそうな寒い日だったが横浜駅の改札で10時前に落ち合った。
「おはよう、なんかすごい寒いけど映画館に入っちゃえば大丈夫だよな?どこに行くんだい?」
「おはよう寒いねー、調べたら相鉄ムービルでやってるのはわかったけどユウちゃん場所分かる?」
「ああ、ムービルは行ったことあるから分かるよ、5分位でいけるよ」
そう言って二人で歩き出すと俺の腕に浅井が腕を絡ませてきた。俺は腕を組んだことなんて無かったからちょっと緊張してしまった。
「何だよ浅井、歩きにくいじゃんか」
「いいの、あたしは場所が分からないんだから迷子になったら困るでしょ?それよりひろみって呼び捨てにしてよ、他人行儀なんだからー」
俺たちは立派な他人だよ!と思ったが余計な事は口に出さない事にした。
ムービルの入り口に着いて上映中のポスターを見ると四つの映画をやっていた。
「ムービルに着いたけど、どれをみたいの?」
浅井が一番右のポスターを指さしながら
「これこれ、おねえちゃんがオススメって言ってたの、ほらこのヒロインが最近プリンのCMとかテレビドラマに出てるの。知ってるでしょ?」
「あー、よくわかんないけど浅井が見たいんならそれでいいよ。今日はお任せします」
「なんかその気が無いみたいね、もっと盛り上がってよ」
「はいはい、分かりました。チケット買って飲み物とポップコーン買って中に入ろうぜ、あと10分で始まるぜ」
席に着いて見回すと半分くらい席が埋まっていた。CMのあと本編が始まったのでおとなしく見ることにした。俺はコーラとポップコーンを持たされて、時々左から手が伸びてきてポップコーンをすくっていく。横をそっと伺うと真面目にスクリーンを見ているようだ。
どうにも暗い映画でヒロインが不治の病で死んでいくらしい。かなり飽きてきたが途中で席を立つ訳にもいかず、じっと我慢していた。クライマックスになってヒロインがベッドで死んでしまう所でそっと浅井の様子を見ると、なんと涙を流して泣いている。鼻水まですすっているようでズー、ウンって音も聞こえる。
女子って奴はみんな、こんなに白々しい場面で泣けるのかと俺は驚いた。
尻が痛くなった頃やっと映画が終わった。俺は後半は浅井の様子をうかがうのに夢中で後半のストーリーは頭に残っていなかった。最後はお墓の前にひざまずく両親のアップで音楽が流れて終わった。周りの観客が立ち上がりだしたころそっと声をかけてみた。
「どうだった?面白かった?俺はあんまりピンとこなかったけど途中で泣いてたろ?」
「こんな悲しいお話見たらふつうは涙くらい出るわよ。でも少し泣いたらさっぱりしちゃった。お腹すいたからなんか食べにいこうよ」
なるほどこいつは切り替えが早くていつまでも引きずるタイプじゃない事はわかった。
「じゃ、ここを出て駅のほうに戻ろうカレーでも食べようか?」
「ううん、あたしはユウちゃんと暖かいおうどんが食べたいなー ダメ?」
「いやうどんでもいいよ、寒いもんな」
映画館を出るとまた浅井が腕を組んできた。すっかり恋人気分なのかと思った。いままで女子と腕を組んだことなんて無かったので誰かみ見られたらどうしようと余計な心配をしている自分がかえって恥ずかしい。駅のそばに蕎麦屋を見つけたので「ここでいいかな、どう?」尋ねると「うん、ちょっと歩いただけで寒くなっちゃったからここにしよう。おうどんあるよね?」
店に入るとすごく暖房が効いていて暖かい。席は半分くらい埋まっていたがが奥の方に二人がけのテーブルがあったのでそこに座った。
浅井がベージュのコートを脱ぐと真っ白なフワフワのセーターで膝より短い真っ赤なスカートをはいていた。どうもサンタクロースを連想してしまうが、俺はいつものジーンズに茶色のセーターにG
ジャンだ。俺はサンタの連れのトナカイみたいだと自分で思った。
「雪みたいに白いセーターだな、暖かそうだな」
「へへっ、似合う?実はお姉ちゃんのお気に入りを借りてきたんだ。汚したら怒られるから気をつけないといけないんだけどね」
メニューを見ながら浅井は山菜うどん、俺は鴨南蛮そばに決めた。
「あと、俺はこのおいなりさん3個も頼もう」「えー、おいなりさん1個あたしにちょうだい。食べたいー」「しょうがないなー3個食べたいけど1個浅井にあげるよ」
注文してから高い場所にあるテレビを見ていた。北陸地方で大雪のため電車が不通になっているところがある、とニュース番組が流れていた。
しばらくしておばさんが料理を運んできた。「さっきの二人の話し声が聞こえたから1個おまけだよ、はいどうぞ」
皿の上には稲荷寿司が4個乗っていた。
「わーい、あたしの食べる分おまけしてくれたんだ。おばさんありがとう」
すぐにうどんとそばが運ばれてきた。
「おっうまそう、食べようぜ」「うん、いただきまーす」
フーフー言いながらそばを食べながら稲荷寿司を食べると体も温まってきた。
「なかなかうまかったな、じゃこれでそろそろ帰るか?」
「エー、せっかく来たんだからもう少し一緒にいようよ、せっかく横浜まで来たんだからー」
結局 2時間近くもあちこち靴屋や女性服売り場に付き合わされて店の前でブラジャーやパンツの前でウロウロしながら待たされている俺は目のやり場に困ってうろたえるばかりで情けない状態でじっと待つしかなかった。
やっと3時前に横浜駅の改札口で浅井と別れた俺はどっと疲れてしまった。
浅井には悪いけど片岡とやった模擬デートのほうがずっと楽しかった気がした。どうも浅井とは向いている方向が違うというか、テンポが合わないというか、悪い奴ではないと思うがもうデートはしないことに決めた。




