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おどる、おどる 「23」

始業式から4日後の月曜日、俺たちのクラスにちょっとした変化があった。担任の奈良が女子を一人連れて教室に現れた。「おはよう、今日からクラスメイトになる あさいひろみクンだ。ご両親の仕事の都合で東京から越して来たそうだ。この学校の事で分からないことがあるだろうから、みんな、親切にしてやってくれ。あさいクン、一言あいさつ、いいかな?」「はい先生、黒板使ってもいいですか?」「あぁ、構わないよ」

その子は白いチョークを握って大きめの丸い字でこう書いた。浅井ひろみ 7月7日生まれ 。「えーと、東京の立川から引っ越してきた浅井ひろみです。ひろみはひらがなです。米軍基地のわりと近くに住んでいたんで時々飛行機の騒音がすごくて、でもここよりは少し都会っぽかった所から来ました。よろしくお願いします。」そう言って少し頭をさげた。

「うん、みんな仲良くやってくれ。それからもう一つ報告がある。このクラスにほ出席番号33番に坂本邦子君と言うのがいたんだが、病気療養中と言うことで1学期から一度も登校したことがなかったから誰も会ったことがなかったと思う。年末に坂本のお母さんが学校にやってきて面談したんだが、どうも回復が思わしくなくて、いや退院はしたんだが、まだ登校出来る状態にならないので留年したいということだ。残念だが4月から新1年生でやり直すことになった。以上だ。一度も使っていない坂本君の席は今日から浅井君の席になる、浅井君、あそこの席についてください。きょうのホームルームはこれで終わりだ」

俺は浅井ひろみが2列斜め後ろの席に着くのを首をひねってそっと様子をうかがった。背は高くも低くもなくふつうぐらい。肩まである髪は少し茶色っぽくくせ毛なのかパーマをかけているのかウェーブがかかっている。顔は特にかわいいのという訳ではないがちょっと派手め、勝手を言わせて貰うと俺の好みのタイプとはちょっと違う。そんなことを考えていると思わず目と目が合ってしまった。彼女ははにかんだ様子で少し俺に微笑んだように見えた。俺はすぐに前を向いて気づかないふりをしたが自分の顔が赤くなっている気がした。


転校生が現れてから数日後、昼休みにその浅井が俺に近づいてきて話し出した。

「こんにちは、泉祐二くんでしょ?あたしは浅井ひろみ。東京から引っ越して来たの、よろしくね。ここで初めて友達になったみどりちゃんから祐二君のこと聞いたの。新聞部なんだって?あたしは新聞に興味ないけど祐二君は最初に見たときかっこいいなーって思ったの。あたしと友達になって学校の事いろいろ教えて欲しいんだけどいいよね?」

なんだかいきなりなれなれしい奴だと思ったが、まぁいいかと思い

「ああ、お世辞にもかっこいいなんて言われたことないけど友達になってもいいよ。なんかクラブにはいるつもり?兄弟はいるの?」

「うん、音楽は好きだけどコーラス部なんてガラじゃないからとりあえず、どのクラブにも入るつもりはないの。それと兄弟は大学生のおねえちゃんがひとりいるだけ、おねえちゃんはここから東京の大学に通い続けるって言ってた。あたしは立川の高校に通い続けるのは無理だからここに編入したの。祐二君は兄弟いるの?」

「いや、俺は一人っ子だよ」

「フーン、あたしは前の学校で付き合ってたケンちゃんとさよならしてきたんだけど、祐二君って何となくケンちゃんとイメージが重なるんで気になってたのよ」

なんだ、俺はケンちゃんの代役で目を付けられたのかと思うとちょっと気に入らないが、まぁ向こうが気に入ってくれたのなら悪い気はしない。とりあえずもう少し話を聞いてもいいかな、と思った。

「ねぇ、ねぇ、あたしの名前はひらがなで、ひろみって書くんだけどどうしてひらがなになったか聞いてくれる?」

「ああ、なんでひらがななのさ?」

「うん、きっと面白いと思うよ。おねえちゃんが生まれた時は市役所にちゃんと、里美って漢字で届けを出したんだけど、あたしが生まれる前に両親が、また女が生まれたらどういう漢字にするかいろいろ考えたんだって。それでいくつか候補が出来て生まれるのを待ってたんだって、そしたらホントに生まれた女の子がのがあたしよ。その日は七夕でお父さんは近所の人たちと昼間からお酒飲んでたんだって、お昼過ぎにあたしが生まれたんでお父さんは自転車で市役所に届けを出しに行ったんだけど、途中でタイヤが溝にはまって思いっきり転んだんだって。その時、病院で貰った書類はリュックに入ってたから無事だったんだけど握ってたメモがどこかにいっちゃったんたんだって、でもとりあえず市役所に行って ひろみ ってひらがなで届け出したんだって。あとで漢字に直せばいいと思ったらしいの。病院に戻ってお母さんに話したらずいぶん怒られたらしいわ。それにあとから名前を漢字に変えるってすごく大変な事って分かったんだって、それであたしはずっと ひろみ のままって訳よ、ひどいでしょう?」

「なるほどね、面白いけどお父さんは恥ずかしい思い出なんじゃないかな?そう言えば俺は一人っ子で長男だけどユウジってなんでなんだろ?今度聞いてみるよ、それより次は選択授業だろ?俺は美術だから美術教室に移動するよ。浅井は何の選択?」

「あたしは音楽室に移動よ、また今度お話しようね」

ニコニコしながら勝手にしゃべりたいことだけしゃべって行ってしまったが、きっとまた現れていろいろ話し出すんだろうか、まあいやな奴って訳でもないので成り行きで相手をしてもいいか、と思いながら教材を抱えて美術教室に移動した。


その二日後も浅井は昼休みに俺の前に現れた。

「ねえ泉君、ユウちゃんって呼んでもいいでしょ?あたしはひろみって呼び捨てでいいからさ。今度お休みの日のどっか行こうよ、ユウちゃんの友達と一緒でもいいからさー、東京は新宿や池袋に遊びに行ったことあるけど横浜は行ったことないのよ。なんか面白いところ知ってたら連れてってよ。」

「浅井のいう面白いところってどんなところだよ?横浜駅の近くのレコード屋は時々行くけどそういう所か?それとも山下公園とかマリンタワーとかあと三渓園なんてのもあるぞ。ちょっとアベック向きか親父くさいかなぁ?」

「なんでもいいの、ユウちゃんと話しながらいろんなお店のぞくとか、喫茶店でお茶飲むとかおいしい物食べるとか。とにかく面白いところよ。あっ、あたしはボウリング場でも映画館でもいいよー」

「まぁ急に言われてもすぐ思い浮かばないから考えてみるよ。俺の友達も一緒でもいいんだな?」

「うん誰か誘ってもいいけど、出来ればユウちゃんと二人がいいなー、あたしは」

どうも勝手な奴でデートが一番いいらしい。このまま行くとデートは練習したことはあるけど初めての本番になってしまいそうだ。まぁ女子に気に入られて悪い気はがする奴はいないだろうし、それほど嫌いなタイプでもないからこのまましばらく付き合ってもいいかと思った。


放課後、部室に顔を出してみたら片岡が一人で本を読んでいた。片岡でもいいか?と思い浅井の事を相談してみることにした。

「片岡、しばらく会ってなかったな、何読んでるの?」

「ああ、泉君こんちは。授業の世界史に出てくる植民地政策の資料よ、なんか実感わかなくてピンと来ないのよ」

「あぁ真面目に勉強してるんだな。悪いけどちょっと話を聞いてくれるかなー?」

「いいけど、どうしたの?カレーライスの作り方とかガールフレンドができたとか、そんなの?」

「まぁ半分くらい当たりかな。今月クラスに浅井って女子が転校してきたんだけどどういうわけか気に入られちゃったみたいで、よくそばに寄ってくるんだよ。あんまり好みのタイプじゃないんだけどデートしようって言われて考えてるんだ」

「なんだ、そんなことですか、模擬デートその2ということでデートしてみたら?でも今は寒いから公園はダメですよ。嫌われちゃうから」

「公園は行かないけど、どうもピンとこないんだよなー。なんか自分勝手にどんどん話を進められちゃって片岡とも違うタイプだしな」

「マイペースができないって事ですか。でも、付き合ってみれば新しい発見もあるかもしれないし、いいんじゃないですか?私なんて模擬デート以来さっぱり新しい男子との出会いなんてないんだから、贅沢ですよー」

「わかったよ、片岡に話をしたのが間違いだったかもしれない、自分で考えてみるよ」

そう言って話をする相手として不適当だったと思った。そのうち弓子にでも話しをしてみようと思った。

 


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