おどる、おどる「21」
「むりむり絶対むり!お腹はすいたけど別の方法考えなくちゃ」小倉が言い返した。
「えー、なんでよ?俺も腹へってきたから近くの店で昼飯にするのに賛成なんだけど、、、」岩下も不満そうな顔をする。
「よーく考えてみなさいよ、これだけの人が参拝に来て、お昼ぐらいになったらみんな食事しようと思うでしょ。おまけにまだ3日なんだからお休みの店が多いのよ。前に両親とここに来た時もお店を探すのに苦労して、30分以上並んでやっと席に案内されたの。そしたらお正月だから限定メニューしかないし、すごく値段が高かった事があったの。何年か前の事だけど、きっと今日も同じだと思うよ。どうしても今食べたけりゃ、ここの入り口と原宿駅の間に何件か屋台が出てたからそこで食べるくらいしかないわよ。そうじゃなきゃここから移動して初詣に関係のない駅の近くで探したほうがいいと思うよ」
初詣にここに何度か来ている経験者が言うんだからその通りなんだろうと思ったが腹が減っているのは俺も同じだ。
「祐子ちゃん、わかった。ここでお店に入るのはあきらめるわ。でも本当にお腹すいちゃったから屋台でもいいからここで何か食べたいわ。でも大丈夫かしら?ちょっと恐いわ」
「モモちゃん、何が恐いの?恐い人なんていないよー」
「そうじゃなくて屋台の店で売っているものを食べるのが恐いのよ。前にお祭りに行って友達とお好み焼きを食べたのをママに話したら、あんな不衛生な所で食べたらモモが病気になったりするのが心配だって、言われたの」
大仁田って奴は過保護で潔癖症なのかと俺は驚いた。だいたい16歳にもなって母親を「ママ」って呼ぶのがすごい!コイツはイイトコのお嬢さんなのかと思ったがさすがにこれは口に出して言えなかった。
「モモちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫よ。ほとんどの食べ物は火を通してあるし、あたしは一度もお腹壊したり食中毒になったりしたことないもん。リュウちゃん、平気だよねー?」
「おう、大丈夫だよ。俺なんか串から落ちたフランクフルト、急いで地面から拾って食ったけどなんともなかったぞ」
「それは汚すぎ!モモちゃん、あそこの焼きそば屋からいい匂いするからみんなで食べてみようよ。きっと美味しいよ」
たしかに岩下は問題ありすぎだが、小倉の言うことに俺も賛成だ。とにかく腹がへってきたし、それ以外にいい考えも浮かばない。
「わかった、祐子ちゃんが大丈夫って言うんだから平気よね。みんなで焼きそば食べましょ。あと、隣の屋台のたこ焼きっていうのも食べたいわ。たこ焼きって食べたことないの」
「えーモモちゃん、両方食べるつもり?さっきまで恐いなんて言ってたのに思い切ったわねー。じゃ、あたしがモモちゃんの分も焼きそば買っといてあげるからたこ焼き買っておいでよ。ここで待ってるから」
「よし、俺は泉と二人で飲み物買ってくるよ。手分けして買ったらここに戻ってきて、みんなで昼飯にしようぜ」
コーラとジュースを買って戻って来ると大仁田がビニール袋を下げて待っていた。小倉も焼きそばを段ボールに乗せて戻ってきた。
「おまたせー、焼きそば売ってるおじさんに段ボール貰ったの、四つ乗せるのにちょうどよかったし地面に敷けば座って食べられると思って。いらなくなったら返しにおいでって言われたよ」
歩道の端に女子は段ボールを敷いて、俺たちはそのまま座って焼きそばを食べ始めた。大仁田が「ウーン、祐子ちゃんの言うとおり暖かくて美味しいわ。ウチでママが作るのは塩味だけどこれはソース味でクセになりそう。たこ焼きも作るところ見てたけどちっとも不衛生な感じじゃなかったわ。鰹節のイイ匂いがしてこっちも美味しそう」
どうやら大仁田は俺たちが普通に食べているものに感激しているようだ。同じ高校生でも人それぞれに感じ方が違うんだとあらためて思った。
四人ともしばらくすると昼食代わりの焼きそばを食べ終わり、大仁田はたこ焼きも全部一人で食べきってしまった。
岩下が「うん、これで一応初詣もしたし、お守りも買えたし、お腹も一応満たされたし順調な年明けスタートになったな。で、これからどうする?」
「あたしは原宿に行ってみたいお店があるからモモちゃんと行こうと思ってたの、かわいい洋服と靴のお店だけど、どうせリュウちゃん達は興味ないだろうからここで解散にしようか?」
「そうするか、俺は渋谷の駅前の大きい書店に行ってみるよ、今日からオープンするはずだから。そこでバイクの本のコーナーを覗いてから帰るよ。夕方親戚のおじさん達が来るけどまだ時間あるから、泉はどうする?」
「俺も本屋ならつきあうよ。音楽の本なら買いたいのもあるから」
岩下と俺は相変わらず参拝客で混み合う坂道を下って渋谷に向かって歩いた。
流れに逆らって下り坂を二人で歩きながら聞いてみた「あの小倉って子は昔からあんな調子だったの?分かりやすくて悪い奴だとは思わないけどなんか調子が狂うなぁ」
「俺は昔から知ってるから平気になっちゃったけど初対面であんな感じだと驚く奴も多いだろうな。まぁ気にすんなよ、あんな奴もいるんだと思っていればいいさ。無害じゃないけど特に毒にもならないと思うよ。それよりあの大仁田って子は何だろうね?あれも無害なんだろうけど、、、」
「無害というより俺はうちの高校にあんな子がいることが驚きだよ。育ちが違うんだかなんだか初めて出会うタイプだと思ったよ」
「出会うって言えばバイクで一人旅するといろんな人に出会うぞ。悪い人には出会ったこと無いけど親切すぎて恐いくらいのオジサンに出会った事もあるよ。食堂に連れてかれて飯をおごってくれるだけじゃなく夕飯代っていってお金を渡そうとされたんだ。昼飯はごちそうになったけど、さすがに現金は遠慮したよ。それから1時間待ってろ、すぐ乾くからって俺の着てた服を洗ってくれようとしたオバサンに出会ったこともあったなぁ。確かにその時俺は汚れた服を着てたけど。親切心で言ってくれたんだと思ったけどちょっと恐かったよ。まぁこれからも人生長いんだからもっといろんな体験をすると思うぞ」
そんな話をしながら歩いていくと渋谷駅前の大きな書店の前に着いた。
「たしか右奥が雑誌コーナーだったから俺はそこでバイクの本を見てるよ。たぶんそのそばが音楽関係の本だったから泉はそこだろ?用事がすんだらまた合流して一緒に電車で帰ろうぜ」岩下と一緒に奥へ入っていくといろんな音楽関係の本が並んだ場所を見つけた。欲しかったのは12月に発売された月刊誌だったが1冊だけ残っていた。その本を抱えてレジで支払いを済ませバイク本の所へ戻ってみるとまだ立ち読みを続けている竹下を見つけた。
「俺は1冊買ったけど、そのへんにいるから用事がすんだら声かけてくれ、それから一緒に帰ろうぜ」
「あぁ、もういいや、欲しい本がなかったから帰ろう。お前は確か東横線のT駅だったな、俺はO駅だからもう少し先だ。今日はなかなか面白かったよ。また今度一緒に出かけようぜ」そう言いながら一緒に店を出て渋谷駅に向かった。
おかしな女子二人との初詣だったが、まぁ正月らしくて良かったかなと思った。




