おどる、おどる「20」
俺たち高校生にとって12月というのは特別に意味のある月ではなく普通の1ヵ月だ。期末テストがあって、新聞部のちょっとした納会があってから冬休みになるだけだ。
あれから池口先輩は一度も部室に顔をだすこともなくこのまま終業式の日が来てしまうだろう。黒田とも話し合ったが、きっと池口さんも引っ越しの準備とかで忙しいんだろうと言う事で話が終わってしまった。
明後日が終業式という日の昼休みに岩下が近づいてきた。
「おう、岩下、秋のツーリングは途中であきらめたんだったよな。冬はまたどこかに行くのか?」
「いや、冬は野宿は寒すぎるし、道路が凍ってたりするから行かない。春休みに名古屋か大阪に行こうと思ってるんだ。それより泉、正月に初詣とか行くのか?」
俺は小学生のころ、よく両親と川崎大師に初詣に行ったことを思い出しながら答えた。「いや別に考えてないけどお前は行くのか?」
「色々と考えたけどバイク乗りは事故のことも考えて初詣くらい行ってお守りとか貰っとこうかなって思ってるんだ。誰かと行く予定ないなら俺と明治神宮に行かないか?きっと御利益があるぞ」
「フーン お前も縁起なんかかつぐんだ、明治神宮ってたしか原宿の近くだよな。行ったことないけど付き合ってもいいよ」
「よーし決まりだな。いつにしようか?」
そのとき近くにいた女子が声を掛けてきた。
「オイ、岩下、あたしも連れてっておくれ、明治神宮に初詣に行きたいと思ってた所だよ。二人より三人か四人のほうが心強いだろ?もう一人くらい集まって行った方が正月らしく賑やかで楽しいぞー」
なんだかいきなりなれなれしい奴だと思ったが、岩下が言うには小倉祐子は近所の子で幼稚園からずっと一緒で、男っぽい女で思ったことは何でも口にするが,おかしな奴じゃないそうだ。
「俺は泉って言うんだけど、誰かほかにあてはあるの?」
「ああ泉くんって言うんだ、あたしは小倉って言うのよ、よろしくね。うん、きっとモモちゃんならいけると思うよ。あたしが行こうって言えば絶対来るから」
なんか女王様みたいな気分の女だが多分こういう性格なんだろうと思った。
「じゃ、モモちゃんに聞いとくから日にちが決まったら教えてね。どうせ一日から五日くらいの間でしょ?」
どうやら4人で行く事になりそうでダブルデートみたいだがコイツは絶対カノジョにしたくないタイプだ。こうなったらモモちゃんとかいうのに期待を掛けようと思った。
結局、翌日に俺、岩下、小倉祐子、それに小倉が誘った大仁田桃恵の4人で1月3日10時に渋谷駅集合で明治神宮に行く事に決まった。小倉が決めた10時にハチ公の銅像の尻尾につかまれ!と言うのがよく分からなかったが、
終業式の日、廊下で黒田とバッタリ会った。
「とうとうあれから池口先輩に会えなかったな。あの人の事だから自分の道をしっかり考えているだろうから心配いらないと思うけど、ちょっと寂しいなぁ」黒田は珍しくしんみりしている。
「まぁ、きっと強い人だから大丈夫だろうけど1人大事な先輩が減ったみたいな気になるな。きっと連絡くれるだろうから手紙出してやろうぜ」
俺にフォークソングの楽しさを教えてくれた人だ。おかげでこれからも音楽を聴き続けることになるだろう。
あっという間に年が明け3日になった。朝から気温は低いようだが風も弱く日差しが暖かい日になった。早めに行ったつもりだったが渋谷駅は人出が多くハチ公の前に着いたのはちょうど10時だった。ハチ公の尻尾につかまる迄もなくすぐに3人を見つけた。どうやら先に来ていたらしい。
俺は「あけましておめでとう。みんな、今日はよろしくな」
口々におめでとうを言い合いながら少し人の少ない場所に移動した。小倉祐子が「あたしが明治神宮までの道は調べてきたからついてきて、30分ぐらいかな?ただすごく人出が多いみたいだからはぐれたら自己責任でなんとかしなさいよ、置いていくから」どうもコイツは独裁者みたいで好きになれそうもない。
隣にいた大仁田が「あのお、私は大仁田桃恵って言うんですけどよろしくお願いします。でも小倉さん、私渋谷や表参道って初めてだから迷子にしないでね。お願いよ」
オドオドしながらヒョロっと背が高く、白っぽい顔をした大仁田と名乗った子はどうもハズレみたいだ。自主性がないようでどうも小倉のいいなりになっているようだ。
いまさら一人で帰るわけにもいかず、仕方なく歩き出した小倉の後をついていく。背はあまり高くないが白い毛糸の帽子をかぶった小倉は目印にはちょうど良く、ついて行きやすかった。
俺は後ろを振り返り大仁田に「おはよう、俺は泉祐二。あんまり寒くなくてよかったね。小倉さんはいつもあんな調子なの?」聞いてみた。「はい、私は自分でいろんなこと決めるのヘタでいつも助けてもらってます。言い方は恐いけど頼りになるひとです」
どうも家来のような存在かと思っていたが小倉を頼りにして友達続き合いが成立しているようだ。
しばらく坂を登るとさらに人があふれてきたようで先の方に表参道と屋根に書かれた駅舎が見えてきた。横断歩道の前に人だかりが出来ていて一度の青信号では半分くらいの人たちしか渡りきれなかった。晴れ着を着た女性も多く和服の男性もいてなんだか正月らしい雰囲気になってきた。先に1人で横断歩道を渡ってしまった小倉もさすがに振り返って俺たちを待っている。
横断歩道を渡りながら岩下に聞いてみた。「小倉っていつもあんな調子なの?なんか女子っぽく無い奴だなー」「うん、最近はあんまり話すことなくなったけど昔から変わらないなぁ。小さい頃は大勢で近所の山に探検に行ったりしたけど女のくせに先頭をどんどん歩いてく奴だったよ、カノジョにしたいの?」「バカ、全然ハズレだよ」
渡りきると小倉が「どうやらみんな迷子にならなかったみたいだね、良かった、良かった。でもこれからが本番だよ。もう少し歩くと参道に入るから人は増えるけど流れは一方向だから一緒に歩けば本殿までたどり着けるよ。よし、行こう」
参道は舗装されているようだが端の方は砂利が敷いてあるようだ。人が多すぎて自分の足元もよく見えなかった。
また小倉が振り返って「このあたりが大鳥居があった場所だよ。あたし達が小学生だったころ落雷で壊れちゃったから今はないけどホントはここで鳥居をくぐるときに一礼するのが作法だけどないものはしょうが無いよねー、どんどん進もう」
岩下が「お前はどうでも良いことよく知ってるなぁ、まあ覚えておくよ」「こら、礼儀知らずはバチが当たるよ。バイクでこけて死んでも知らないよ」「恐いこと言うなよ。じゃ、ここでお辞儀をしよう」「この先にも鳥居があるから忘れずに一礼しなさいよー」
小倉というのは博識というのか知らないがいろんな事を知っているようだ。ワイワイ言いながらだいぶ歩いた所で鳥居が見えてきた。鳥居の下で先頭を歩いていた小倉が立ち止まったので俺たちも立ち止まった。正式な作法なんて知らないから横目で小倉を見ながら一緒にお辞儀をした。
「小倉、なんか色々と詳しいみたい神社の作法なんてなんで知ってんの?」俺が聞くと「別に詳しくないけどおととしまで両親と毎年ここに来てたの。去年はあたしが年末からひいてたカゼが治らなくて置いてかれちゃったの。それで今年は高校生になったし、親と行くのはやめにして友達と行くって決めてたのよ。何年もここにきてたから自然と覚えただけだよ。もうすぐ拝殿が見えるから、ホラ、どんどん行くよー」俺はなるほどと納得した。
だんだん行列進み方が遅くなって来た頃に前の方に大きな屋根が見えてきて人だかりというかアリの大群が固まっているように見えるところが拝殿らしい。
岩下が「どうやら目的地に到着出来そうだなぁ。みんな、ここから先は団体行動は無理みたいだからそれぞれに賽銭投げてお参りして左手の札所って書いてあるところに集合な。俺はそれからお守り買って、おみくじ引くからな」
「馬鹿者!お守りっていうのは買うんじゃなくていただくものだ。お金は払うんじゃなくて納めるもんだ」小倉の一言に「うるさいなぁ、結局同じだろ。あんまり口うるさいと嫁に行けないぞ」「お前こそ常識を知らないと小姑に笑われるぞ」
二人の口げんかが続きそうなので「まぁ、まぁ、新年早々やめとけよ、神様が呆れるぞ」俺が止めに入った。
「そうだねぇリュウちゃん、ごめんね」「おう、俺も言い過ぎたな、ごめん」
この二人の関係はどうやら俺と弓子の関係とは少し違うようだ、結局仲が悪い訳じゃないがパターンが違うだけらしい。
それから俺は人混みをかき分けるようにして階段を上がり賽銭を投げ入れた。目をつむり両手を合わせているが横から後から押されまくり願い事を思いつかないうちに横へ押しやられてしまった。まぁ、神様も一度にこんなに大勢の願い事聞くこともできないだろうからあとでゆっくり願い事を考えることにした。
冬だというのに背中にうっすらと汗をかいていたが少し人混みから逃れると首筋に風が入って気持ちがいい。そのうち4人が揃ったのでおまもりを買って、いや頂いてか?おみくじを引いた。
岩下が「なんだコレ、大吉とか凶とか書いてないぞ、あたりかはずれか分からないじゃん」「リュウちゃん、これはミコトノリと言って昔の人が作った和歌だよ。分かりやすく現代文が後に書いてあるからよく読んで自分の心の糧にしなさいって事だよ」さすがに小倉は詳しい。
「まぁいいや、交通安全のお守りが手に入ったからこれで一年無事故で過ごせそうだな、よしよし」
珍しくここで大仁田が言い出した。
「あのぉ、無事に参拝出来たみたいだし、もうお昼過ぎたからみんなで御飯食べに行きません?この近くで美味しいお店あるかしら?私、昨日から緊張してて朝御飯食べてないからお腹すいちゃったんですけど」
「むりむり絶対むり!お腹はすいたけど別の方法考えなくちゃ」小倉が言い返した。




