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おどる、おどる 「19」

冬の夕暮れは早く訪れるが、たしかあの公園は外灯があったはずだと思い出しながら3人で公園に向かった。池口も泣きやんだようでおとなしく黒田と一緒に俺の後をついてくる。今日も公園には誰もいなかったのでベンチとブランコの周りの柵に座った。風が少し冷たいが手紙が気になって3人ともそれどころではないようだ。

黒田が「早く見せてみろよ、池口先輩のホントの気持ちが書いてあるのかなー?」

俺は「ちょっと待てよ、俺が先に一人で読んでみるから、それでお前達に読ませてもいいと思ったら見せるから」

思った通り外灯が点いていたから、少し薄暗いが手紙が読めないほどではなかったので封筒から手紙を取り出した。ここからは池口先輩の手紙を原文のまま書いて見る。

『 泉君、多分コレを読んでくれてる時は、もう私のこれから先のこと話したあとだと思うから続きを書くね。みんなの聞いているところでこれ以上話を続けるのはさすがの私でもちょっと恥ずかしいから、泉君に読んで貰ってからなら、みんなに読まれてもいいと思ったの。なんで泉君が一番だと思うだろうけど、覚えているかな?前にレコード貸して上げた時のこと。いろんな友達とレコードの貸し借りをしてきたけどレコードを返すときに感想文をくれたのは泉君が初めてだったのよ。

すこし驚いたけどあんなにたくさん真面目に思ったことを書いてくれて、

自分で調べたんでしょ?グループのことや誰が何を考えて詩を作っているのか私の知らないことまでたくさん書いてあって感心しちゃった。こんな泉君なら私の気持ちを分かってくれるだろうと思ってこうして今書いてるの。

泉君は来年の部長候補ナンバーワンだと思うわ。新聞部の仲間と別れることになって、本当はとても悲しい。

本当はみんなと別れるのはとってもつらい、寂しい。だけど人はいろんな人生があっていろんな分かれ道があると思うの。それを自分で選択して道を切り開くのって大切なことだと思うの。

神様がいるとしたら自分で乗り越えられない難問を私に与えないと思ったわ、つらいけどがんばる。日本の今だって民主主義とか資本主義とか言うけれどおかしな事がたくさんあると思うわ。私も少しづつ大人になって世の中のおかしなことや、間違ったことに立ち向かってみせるわ。

寂しいけど時々私の事思い出してね、私もみんなのこと絶対にわすれないから、、、

最後に泉君に私の大好きな歌をプレゼントするわ。この曲は私の貸したレコードに入ってなかったから機会があったら聴いてみてね。

五つの赤い風船 ってグループの「これが僕らの道なのか」って曲よ。

みんなも聴いてね、いままでありがとう 』

一枚目の白い便せんにはこう書いてあった。2枚目は水色のノートを切り取ったような紙にこう続いていた。


『       「これが僕らの道なのか」

                       五つの赤い風船

オォ 今も昔も変わらないはずなのに

なぜこんなに遠い

ほんとの事を言ってください

これがボクらの道なのか


あらい風に吹かれても

つづくこの道を

ボクらの若い力で歩いていこう


オォ 今も昔も変わらないはずなのに

なぜこんなに遠い

ほんとの事を言ってください

これがボクらの道なのか


輝く大きな森の中に

足をふみこめば

若い力のかけらもなく

あるのは死にたえた草木


オォ 今も昔も変わらないはずなのに

なぜこんなに遠い

ほんとの事を言ってください

こらがボクらの道なのか         』

挿絵(By みてみん)


2枚の手紙を読み終わって俺は池口先輩の強さと弱さを同時に知ったような気がした。黙って封筒ごと手紙を黒田に差し出した。下を向いている俺は自分の膝がユラユラと潤んでいるように思えた。でもそれだけで涙は出なかった。黒田は恐い顔で手紙を読んでいる、と思ったら肩が震えだして小さくオエオエと声を上げている。折りたたんだ手紙を片岡に差し出すと立ち上がって奥の植え込みのほうへ行って背中を向けている。

手紙を受け取った片岡は黙って手紙に目を走らせている。

様子をみていると、しばらくして手紙をたたんで封筒に入れたので読み終わったらしい。また泣き出すんじゃないかと思っていたが口を結んだまま黙って正面を向いている。

「どうだった?また泣くのかと思ってたけど、」

「さっき泣いたからもう泣きません。池口先輩のほうがよっぽど泣きたい気分なのに気がついたから私は泣いちゃいけないんです。それよりこの手紙、先輩達に読んでもらいましょう。明日、私が上村先輩に渡しますから持って帰っていいですか?」

「ああ、頼むよ。それより おーい黒田。どうしたお前も泣くことあるのかー?」

黒田は振り向いてベンチの方へ戻りながら「バカ、泣いてたんじゃないぞ、寒くなってきたから少し鼻水が目から出てきただけだ。雨が降りそうだからそろそろ帰ろうぜ。池口、手紙は先輩達に渡してくれ。頼んだぞ」

負け惜しみを言いながら鞄を掴んだ黒田を先頭に俺たちはバス停に向かった。それから先は誰も話をしようとせずに黙って歩いた。




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