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おどる、おどる [11]


おどる、おどる 「11」

関東地方はジリジリとする暑さをそのまま残し9月になった。始業式の日が来て俺は当たり前に高校に行った。

ホームルームが始まる前に教室を見回すと岩下の姿が見当たらない。そういえば夏休みの登校日にも姿を見なかったことを思い出した。

始業のチャイムが鳴って担任の奈良が入ってきたが後に誰かついてくる。岩下だ、なにかぶら下げているようだ。いや違う、松葉杖だ。

担任が「おはよう、みんな元気だったか?後にいる岩下が休み中に階段から落ちて足を折ったそうだ。みたとおりで何かと不自由なようなんで、みんなサポートしてやって欲しい。泉、きみは特に親しいようだから何かと面倒をみてやってもらいたいんだがいいかな?」俺は頷いて岩下がゆっくり歩いてくるのを見ていた。斜め後ろの席に着くと照れくさそうに俺に視線を送る。

担任の話が続くので俺は岩下に黙ったまま頷いて見せた。

1時間目が終わり休み時間になったので小声で岩下に聴いてみた。

「オイ岩下、大丈夫か?ホントに階段から落ちたのか?」

「へへっ、先生には言うなよ、実はな、スーパーカブでこけたんだ」

照れくさそうに小声で岩下が続ける。「8月になってからスーパーカブで新潟に行ったんだ、長野を廻って新潟まで、日本海は雄大だったなー。柏崎から長岡を通ってから南下したんだ。長岡まで六日かかったよ。四日間は屋根のあるところで寝袋で野宿さ。民宿に一泊して新潟で大学生のライダーと知り合いになってアパートに一泊させてもらった。風呂も三回入ったなー。新潟から湯沢に下ってきたんだけど、湯沢温泉はよかったなー。無料の町営温泉があったんだ。ゆっくり温泉に浸かってから駅で野宿さ。次の日に三国峠をこえて沼田で一泊。前橋、所沢と順調に帰り道になったけど川崎の第二京浜でオレを追い越そうとしたトラックの荷台シートのゴムバンドにハンドルが引っかかって倒れちゃったんだ。トラックはそのまま行っちゃったんだけど後を走ってた郵便配達のスーパーカブのオジサンに助けられたんだ。バイクはホイールが曲がったしオレも救急車に乗せられて大変だったよ。後で警察が現場に来たらしい。郵便やの証言で相手の運送屋も分かって治療費も出たし、バイクも直してもらった。めでたし、めでたしだな」

俺はあきれてしまった。「バカ!なにがめでたし、めでたしだよ、運が悪けりゃ死んでたかも知れないだろ。その足だって骨折してるんだろ?一生うまく歩けなくなったらどうするんだよ」

岩下は涼しい顔で続ける「足は単純骨折だから今月中にギブスは外せるって、少しリハビリすれば元に戻るって医者が言ってたよ。それに10月に連休があるだろ?それを使って伊豆半島を1周しようと思ってるんだ。母さんは泣いて、もう危ないことはしないでくれっていうけど、兄貴と父さんは人をはねたりしなけりゃ好きなことをしろって応援してくれてるから大丈夫だよ」思わずため息がでる。こいつはどうも俺とは頭の中の構造が大きく違っているようだ。楽天的だが、がむしゃらな情熱があるようだ。楽天的な部分はともかく、なんにでも情熱的ってのは見習わなければと思った。

挿絵(By みてみん)



9月の半ばになって昼休みに黒田が教室に飛び込んできた。「泉、知ってるか?平山先輩が職員室に呼び出されたって、何でも警察に捕まって補導されたんだって」「本当か、それ?いつのことだ?なんでだ?」「詳しいことはわからないよ。とりあえず放課後に部室に行ってみようぜ、臨時部会になるんじゃないかな」

放課後になって片岡と三人で部室に行ってみた。高島先輩たちが少し遅れてやってきた。黒田が「上村先輩、平山さんのこと聞いてますか?どうしたんですか。まさか万引きとか、、、?」

「私も詳しいことは聞いてないのよ、でも平山君が必ず放課後部室に行くからみんなを集めといてくれって言ってたから私もこうして顔を出してるの。きっと来るからもう少しこのまま待っててみましょうよ」

そんな話をしていると部室の扉が開いて平山先輩が現れた。

「おう、だいたいみんなそろってるな、悪いな、いちいち一人ずつに話をしてたら大変だから集まってもらったんだ」

池口先輩が切り出した「平山君、なにがあったのよ?職員室に呼び出されて、おまけに警察のやっかいになるなんて、そんなに問題のある人だなんて思ってもみなかったわよ。どうしたらそんな問題がおこせるのか、最初から順番にわかりやすく話してよ」

なぜか最初からけんか腰でたたみかける。ゆっくりと平山先輩が机の前に椅子を運んで腰掛ける。もう夕日が窓から入ってきてみんなの顔を赤く染め始める。

「そんなにがんがん言うなよ、これでも警察や先生に色々絞られて参ってるんだから、泉、悪いけど水を持ってきてくれ。ちょっと時間がかかるけど最初から話をするよ」

俺が渡したコップの生ぬるい水を一気に飲みほすと指を1本立てて、俺に目で合図する。おかわりだ。

「ふー、何から話すかな?えーと、オレにS大学2年生の兄貴がいるの知ってるよな。兄貴の学校の友達でシュウさんてのがいるんだ。前からよくウチに遊びに来てたからオレも仲良くなっていろんな話をしてるんだ。そのシュウさんが先週もウチにいて週末に新宿で学生集会があるから一緒に行かないか?って言うんだ。兄貴は別のコンパがあるから行けないんだけど、オレはどんな人たちが集まってどんな話が聞けるのか興味があったんでシュウさんと行くことにしたんだ。土曜日の午後に待ち合わせて集会に行ったんだ。男女併せて15人位いたなー、みんな普通の大学生に見えるんだけど、話し出すと本土の米軍基地の問題や沖縄がいつまでも返還されないことが問題だと言う。おまけに国の政策でそんな問題を先延ばしにして我々学生を含めて国民を欺こうとしていると言うんだよ。」

俺はなるほどなーと相づちを打った。平山先輩が話を続ける。

「それで明日、日曜日に他の大学の連中と国会周辺をデモ行進するって事だった。出来るだけ全員参加ということで集合時間と場所を確認して解散になったんだ。帰り道の途中で駅の近くの居酒屋でシュウさんに夕飯をおごって貰ったよ。そこでシュウさんに聴いたら、もちろん俺も行く。出来たら一緒に行こうって話になったから、このあいだの日曜にシュウさんと行ったんだよ。そしたら、驚いたなー 500人を超えたんじゃないかなー?集まった学生達は。何人かハンドマイクを持ってて大声で叫ぶんだよ、みんなが連呼してそのうち歩き出すんだ。オレも付いて歩いてたんだけど、シュウさんとはぐれてしまってさ、知らない学生のなかにまぎれちゃったんだ。そしたら近くにいた男が回りを囲む警官隊に石を投げたんだ。それから回りはグシャグシャになってオレも警官に捕まったという訳さ、警察署で色々聞かれたんだけど、一緒に捕まった男が(こいつは俺たちの同士じゃない、よそ者だし投石もしていない)って言ってくれたんだ。それで住所や学校名や連絡先を聴かれて、結局そのまま釈放になったって訳さ。でも、やっぱり学校に連絡されてて、今朝、職員室に呼ばれて副校長たちに事情をあれこれ聞かれたよ。もう学生運動には参加しないって誓約書を書かされて、そこも釈放されたって訳だ。どうだ!これで大体解ったか?」フーと大きな息をついて平山先輩が話を区切った。と、同時くらいに池口先輩が大きな声を上げる「エェー!そんなのおかしいじゃぁないですか。だって朝刊で読んだんだけど、ちゃんと届け出を出したデモ行進だって書いてありましたよ。それに未成年だから参加しちゃいけないなんて事ないんでしょ?平山君は暴力を振るったわけでもないし、賛同するデモに参加するのは国民の権利なんじゃないですか?これだから日本の司法だとか警察だとかが非難を浴びるのよ 。まるで高石ともやの歌の世界みたいね、フン!」興奮してボールペンを振り回しながら池口先輩は部室を歩き回る。

俺もおおかた二人の思っていることに共感できる。大人のやり方には欺瞞を感じる。

ふと横を向くとどういう訳か片岡が俯いたまま鼻をすすりながら泣いている。

高島先輩達も口々に不信感をあらわにして「おかしいよな、それって」「平山はどこも悪くないよな?」「ひどいわねー」部室はちょっとした騒ぎになった。

俺は小声で片岡に「なんで泣くんだよ?意見があるなら言ってみなよ」なるべく優しく聴いてみたがタオルで顔を覆うだけで返事がない。こういう時はほっておけばあとで落ち着いた時になにか話すだろうと思ってそのままにしておくことにした。

上村先輩が「大体成り行きは解ったわ、平山君は何も問題になることをしたんじゃない。万引きでも痴漢でもないことがはっきりしたんだかから、少なくとも新聞部の仲間は今まで通りってことで今日は解散にしましょ、いい?」

ミーティングはそのままお開きになって、ばらばらとみんなが部室を出て行った。

俺は気になって最後に部室を出て行こうとした片岡を引き留めた「どうした?大丈夫か?」タオルを握ったまま片岡が「ごめんなさい、ありがとう。自分でもよく分からないけど平山さんの話を聞いてたら悲しくなっちゃって、鼻水と涙が止まらなくなっちゃったの、もう大丈夫です、たぶん、、、」

分かったような分からないような返事が返ってきたが女子達、特に片岡の気持ちは分からないままだった。





















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