エピローグ
いつから人は偶然のことを運命と呼ぶようになったのじゃろうか。
ワシがそう訊くと男は肩を竦める。
16年ぶりに逢うひねくれた友人は深い皺を顔に刻み笑って言った。
「面白いです。私にも、盗めないモノがありました。一度捨ててしまったモノです」
捨てたモノ…。
ワシはこの男がよく分かる。
ワシとコイツは同類である。
「二度、息子に会いました。一度は公園で、腹から血を流し倒れていました。二度目はおもちゃ屋の側で、空から降ってきた息子をトラックで受け止めました」
そう言って藤井は嗤う。
ワシは黙って彼から写真の束に目を移した。
藤井がピアスと共に拾ったマイクロフィルムを現像したモノだ。
「私は初めて見ますよ。ミスター」
藤井は決して戻らないモノを後悔混じりに呟きながら、ようやく幼い息子の笑顔から目を離した。
その時、ワシはフィルムのケースに刻まれた小さな文字に気が付いた。
“LOVE MY ANGEL”
愛する私の天使。
幼い服部を写した写真は彼の養父のモノだった。
ワシは人の不思議さに目を細める。
僅かに視える運命にワシ自身が引きずられる。
この友人が残してくれた偶然はワシの記憶の一部となり、これからもワシを変えていくじゃろう。
File1(Winter)No.051 ダイアモンド(偽物)
File2(Spring)No.064 絵画(名称及び作者不明)
File3(Summer)No.079 角膜
File4(Autumn)No.080自筆遺言状
File5(Winter)No.081マイクロフィルム
File6(Spring)No.0XX XXXXX…………..
老人は、ファイルをゆっくりと閉じた。
長い間、この愚作にお付き合い下さいまして誠にありがとうございましたm(_ _)m
また、番外編で「ツキヨミ!」「Blue Moon under the Bridge」も掲載しています。宜しくお願いします。
では、皆様の明日がステキな一日でありますように☆
山田木理