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File4:LAST PRESENT(2)

 ジリリリリリリリ………

 凄まじい警報音が店内に鳴り響く。

 服部は次々に現れる警官達に頬を引きつらせた。

「げっ。マジ?」

 警官達から素早く身をかわし、今夜の獲物を握りしめた。

「ロビンの奴、しくじったのか?」

 高級デパートの紳士服売場は、警官の制服でごった返した。

「は〜、はっ、はっ、はっ。これでハットリも袋の鼠だ」

 長谷川宣雄は意気揚々と、ハットリのいる紳士服売場へと走った。

「自分で予告状出しといて、そりゃないぜ。ロビン」

 ハットリ君のお面が、ライトでその顔を露わにする。

 この時間に来るはずのない警官達と、来るはずのロビンにイライラしながら、内ポケットに手を突っ込んだ。

 大勢の警官達の後ろに長谷川が追いつき、ハットリに向かい叫ぶ。

「観念しろ」

 長谷川が服部を威嚇するため、銃を構えた。

 ポケットに突っ込んだ服部の右手が空を切る。


 カッ


 目が潰れるほどの光の渦と共に轟音が長谷川の耳の鼓膜を振るわした。

 光と音のみの爆弾である。

 特殊閃光音響弾はかなりの威力だ。




「太一。昨日の夜どこか行ってたのか?」

 父親の思いがけない言葉に、テレビの画面から服部太一は顔を上げた。

「夜中に長谷川鉄郎君から電話があって、部屋に起こしに行ったがいなかったぞ」

「その時間、たぶんコンビニに行っていた。お腹空いたから…」

 嘘が自然に口をつく。

「そうか…」

 父親は納得したように読みかけの新聞に目を戻した。

 新聞には『怪盗ハットリ』の記事の隣に大道グループ会長入院の記事が並んでいた。


 水晶が暗闇に不気味に光る。

 黒に身を包んだ女が目を瞑り、両手を重ね合わせぶつぶつと口の中で何かを呟いている。

 その女と水晶を挟んだ向かいには、落ち着かないように中年の男が座っていた。

「大きな霊の力があなたを包んでいます。今はその力に身を任せるときです。さすれば、迫り来る波に呑み込まれる事はないでしょう。しかし、油断はなりませぬ。今は大きな変革の時です」

 中年の男は固唾を呑み込んだ。

「先生の言った通り、女房と娘には逃げられましたが、今まで何とか会社を潰さずやってこられました。ありがとうございます」

 男の自分に対する畏怖と敬意を読みとると、女はゆっくりと頷き、袋に入った札束を受け取った。

「実は、夏頃知り合いに紹介された方に先生の事をお話ししましたら、是非お会いしたいとおっしゃりまして」

 女の目がキラリと光った。

 そこに入って来たのは、贅肉で満たしたお腹重たそうに抱え、どこかおどおどした目つきの小物だった。

「大道グループ会長の弟、大道健次郎さんです」

 女の口元が僅かに弧を描く。

 自分の判断の正しさと妹の調査の正確さに満足し、絵里は頭の中で新しい獲物の顔を値踏みした。

 全てが予定通りだ。

(次は理真にも、働いて貰わないとね)



 大道グループ自社ビルの最上階、社長室の椅子に座った大道虎之介が、新聞をパサリと投げつけ一人呟いた。

「怪盗ハットリ本人でさえ出したことのないオレの専売特許を。いい度胸じゃないか」

 虎之介は新聞を投げつけた拍子に舞い落ちた一枚のカードを、睨み付ける。



「おい。ロビンはどこだ?」

 服部は景気よく『日本占い師協会本部』の扉を開いた。

「どうした?ハットリ。ロビンはいないぞ」

「どうしたも、何も…」

 服部は今日付けのスポーツ新聞を、老人のデスクに叩き付けた。

 老人はその見出しに目をやり記事を読み上げた。

「怪盗ハットリ。次は大道グループ会長の遺言状か。先日、入院した大道グループ会長宅と警察に、怪盗ハットリから予告状が届き、会長が万が一の時のためにしたためた遺言状を盗むと…」

「オレはこんな話聞いてねぇぞ。ロビンか?」

「私も知らないわ」

 ロビンの声に服部は振り返った。

「ロビン!前回はよくもバックれてくれたな。お陰でかなりやばい状態だったんだよ」

「悪かったわね。急用が出来たのよ。でも、あんな仕事ハットリなら余裕でしょ。それより、その予告状は…」

 ロビンはソファにその美しい肢体を滑らせた。

 老人は白い髭に包まれた口元を動かす。

「怪盗ハットリの名で、大道家に予告状が本当に出されており、ロビンが何も知らないとなるといったい誰が」

 老人がロビンに対し言葉を選び尋ねる。

 珍しく少しいらだったロビンはその美しい顔を歪めた。

「だいたいの想像はつくわ。ただ、問題はあの小心者がそんな事を考えつき、実行に移すか、よ」

「裏に誰かいると?」

 老人は顎髭を撫でる。

「何だよ。知ってるのか?誰だよ、勝手に人の名前使った奴」

 服部はムッとして、ロビンに突っかかった。

「これは、私達に対する挑戦ね。受けてあげましょう」

 ロビンの瞳が冷たく光った。

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