ネットおくしょん
ネットおくしょん
バブルと言われる時代があったのをご存じだろうか。
1980年代、日本を襲った好景気時代のことを「バブル時代」だとか「バブル期」と呼ぶ。
この時期、日本中が浮かれていた。お金がどんどん舞い込み、使っても使っても儲かった。地価は天井知らずだったが、それを買うだけの資産を持つ者が次々に現れた。
「億ション」という名で呼ばれるマンションがめったやたらに建てられた。一億、二億、それ以上の金額で販売されるマンション。それがあちらにもこちらにも、ひょいひょい建って、がんがん売れた。
誰もがバカみたいに浮かれていた。
「ねえ、見て! ネットオークションにあのマンションが出てる!」
「あのマンションって、どのマンションだよ」
興奮した様子でリビングに飛び込んできた由香は夫の淡白な反応が面白くない。手にしていたスマホの画面を夫の顔のすぐそばに突き付けた。
「近すぎて見えないよ」
「野間四つ角の億ション。二十年も前に三億で販売されたマンションが、まさかの三千万円からのオークションスタートよ!」
「へえ。あそこまだ人住んでたのか」
「住んでいないから売るんじゃないの?」
「長年空き家だったら逆に売れなくないか」
「でも、億ションだもの。住んでみたいなあ。いいなあ」
「いいなって言ったって、うちはマンションなんか必要ないだろ、持ち家があるんだから」
「ここを賃貸にして、家賃収入で億ションを買うっていうのはどう?」
「そこまでしなくても」
「でも、億ションだよ」
「それは二十年前の価格だろう。今では三千万円台なんだろ、減価償却されて、本当の価値は三千万もないのかもしれないぞ」
「うーん。そう言われると、そうかなあって気もしてきた」
「それにオークションだろ。三千万からどんどん上がっていくんだ。人気があったら億に届くかもしれないだろう」
「そうかあ。そうよねえ。あー、でも見学くらい行きたーい」
「見学会なんかの手間がないからこそのネットオークションなんじゃないの」
「でも、家との出会いも億千万の胸騒ぎだよ。ドキドキワクワクを忘れたらダメなんだよ」
「由香は時々すごく古いことを知ってるよな」
「博学なの」
「億ションなんて、由香が小学生の頃の言葉だろ。なんで知ってるんだよ」
「博学だから」
「本当は年齢サバ読んでるんじゃないの」
「どき」
「縄文?」
「それは土器。あーあー、庭から縄文土器が見つかって三千万円くらいで売れないかなあ」
「土器ってそんなに高価なもの?」
「どうだろ、オークションに出てるかな。…………………にまんえん」
「え、出てたの!?」
「億ションじゃなくて万ションなら買えるわね」
「ハムスター用の豪華万ションだな」
「それもいいか。じゃあ、庭を掘ってみようか」
「え、本気で?」
「もちろん。万ションのためよ、がんばろー!」
バブル期じゃなくても浮かれていられる由香の性格をうらやましく思いながら夫は庭に連れられて行った。




