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ずるいだろ

ずるいだろ

 上田ちゃんは可愛い。くりんとした目も白い肌もピンクの唇も小さな背丈も、なにもかも可愛い。なのに上田ちゃんは男だ。いつもネクタイを締めているし、ちゃんと男子トイレに入る。その背中をわたしはかるくにらむ。私は上田ちゃんが大嫌いだ。


 私と上田ちゃんはデスクを並べて働く仲だ。私も大人だ。上田ちゃんが隣にいてもヘンな顔は表に出さないだけの分別はある。いつもにこやかに、表向きはなごやかに私たちは仕事をしている。上田ちゃんは仕事もできる。そこも嫌いという感情に拍車をかける。運動神経もいいらしく、ボーリングもストライクを連発するし、ダーツも恐ろしくうまかった。

「コツがあるんだよ。運動神経は良くないさ」

 そう言って手取り足取りコツを伝授してくれる。よけいな世話だという気持ちは飲み込む。笑顔を作ってお礼を言っておく。


「美代ちゃん」

 上田ちゃんが私を呼ぶ。その呼び方も大嫌いだ。私の名を呼ぶなと怒鳴りたくなるのをぐっとおさえる。大人なんだから。大人なんだから。大人なんだから。呪文のように呟いて。


「最近、美代ちゃん、イライラしてるよね」

 それはみんなあんたのせいだよ。腹の中で毒づいて顔は笑う。

「そんなことないよ。気にしないで」

「そんなことあるよ。僕にはお見通しだよ。これで機嫌が治るといいんだけと」

 上田ちゃんは小さな紙袋から小さな箱を取り出した。あからさまに、あれだ。私の機嫌は急降下だ。上田ちゃんは箱をかぱっと開けると私に差し出した。

「結婚してください」

 ああ、とうとうこの日が来たか。私は覚悟を決めて笑顔を浮かべた。

「私、上田ちゃんのこと、嫌いよ」

「知ってるよ」

「愛してないよ」

「知ってるよ。でも美代ちゃんは僕のわがままをなんでも聞いてくれるもんね」

 そうだ。私は上田ちゃんの笑顔に逆らえない。惹き付けられてとらわれて、私は上田ちゃんのしたいように流される。

 上田ちゃんは私の手をとると、小さな箱から指輪を取り出し私の指にはめた。ピッタリのサイズだ。そんなところも腹が立つ。

 でもなんだろう、お腹のそこから幸せな気持ちがわいてくる。私にこんな思いをさせる、上田ちゃんが大嫌いだ。私はにやにやと笑い続けた。

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