角質
角質
手のひらに角質のツノがはえる。一ミリにも満たないポチッと尖った皮のかたまり。あってもどうということはないのだが、ふと触れたときに手のひらに堅い部分があるとイラッとする。爪の端がささくれて、でも爪切りがなく、ハサミもカッターもなく、いつまでも気になり続ける時と似たイラッとだ。
あんまりイラッとが続くとピンセットでツノをつまんでむしりとる。むしった後はまっ平らできれいなものだ。ツノがはえていた痕跡ものこらない。だが、しばらくするとツノはまた同じようにはえてくるのだ。
ツノをむしるようになってからどれ程たったころだろうか。ツノが増えてきた。以前は右てのひらに二つポチポチとあるだけだったのだが、左手にポチッ、右手にポチッ、お腹にポチポチ、むしればむしるほどどんどん増えた。どれも小さいのだから実害がないと言えば言えたが、やはりイラッするのは止められなかった。
むしってはポチッ、むしってはポチッと続けていると、とうとう顔にもツノがはえた。よりにもよって額に二つ、般若のツノの位置と同じところにポチポチと。しゃれにならんとむしっても、むしってもまたはえる。はえかわるごとにどんどん大きくなる。
ついには本当にツノになってしまった。ツノがはえては外には行けない。しばらくは貯えがあるから仕事を休んで対策を練ろうと閉じこもった。
近年は家に居ても買い物ができるし、通信販売もクレジットカードを使えば銀行に行く必要もない。こんなに便利なことはない。冷蔵庫の食料がなくなったので早速ピザを頼んでみた。ネットで注文して支払いも済ませたので後は気楽に受けとるだけだ。鏡とにらめっこして思う存分ツノをいじくりまわした。
ドアベルが鳴った。思わず財布を取り出そうとして支払いは終わっているのだと気づいて一人で照れ笑いをした。ツノに夢中になって忘れていた。
玄関のドアを開けると赤いキャップをかぶったピザの配達員の青年がほかほかの紙箱を抱えて立っている。とんでもなく良い匂いだ。早く受け取ろうと両手を突き出すと、青年は紙箱を落とした。青年の顔は見る間に蒼白になり、目は見開かれ、まるで何かとてつもなく恐ろしいものに出会ったかのようにガクガクと震えだした。
「あの……」
「うわ、うわあああ!」
話しかけようとすると青年はものすごい勢いで逃げていった。しばらくポカンと青年の背中を見送っていたが、ピザが冷めてしまうと思いだし紙箱を拾った。リビングに行く途中、廊下に掛けた全身鏡に目が行った。鏡の中にはツノ突き上げた般若がいた。髪はざんばら、目は黄色く濁り、口はへの字に食い縛っていた。
「これは逃げるわな」
額のツノをつるりと撫でる。明日もピザを頼んでみようか。今度は電話で。もしかしたらまた紙箱を放り出して逃げていくかもしれない。料金ももらわずに。
思わずニタリと笑った。いかにも人を食いそうな顔だった。




