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僕の彼女はツンデレだ。

ツンデレのおはなし。

 僕の彼女はツンデレだ。ツンデレ、というとツインテールの十代の女子を思い浮かべるかもしれない。だが、僕の彼女はそんな生やさしいものではない。四十歳で四十肩で老眼が始まり白髪染めも最近始めたと言っている。ついでに体重が116キロあって腰痛が慢性化している。僕は身長180センチにたいして体重が58キロしかないガリ体型だからか、ふくよかな女性が好きだ。彼女と出会ったとき、僕はこの出会いは運命だと信じた。彼女もまた運命を感じたらしい。『この男を太らせねば! それが私の使命だ!』と。そのためか、いつも、十二歳年下の僕を弟のように叱咤激励してくれる。その叱咤が痛い。

「私の作った料理が食べられないっていうの!?」

「いや、食べた。食べましたよ?」

「まだこんなに残ってるじゃないの!」

「だって、そんなにたくさん食べられないよ。五人前ぐらいあるんじゃない?」

「そんなこと言ってるから、太れないの! 胃腸は丈夫なんだから食べなさい!」

 僕は別に太りたいわけじゃないけど、まあちょっとばかり、アバラが浮いた胸は自分でもどうかと思ってはいる。だけどそんな僕でも彼女は好きでいてくれるわけだし。

「ねえ、ところで、君の好きなタイプってどんな男性?」

 ある日、ふと聞いてみた。彼女は食べていた黄な粉団子の黄な粉を盛大にこぼしながら「マッチョ」と冷たく言い放った。

「マッチョ!?」

「筋肉っていいわよねえ。がっちりした二の腕とかサイコー」

 僕はショックで言葉をなくした。マッチョ? そんなの僕と対極の体型じゃないか。彼女は僕といやいやながら付き合っていたのか? そんな、そんなの嫌だ。彼女に嫌われたら生きていけない!」

 それから僕は五人前の料理も平らげたし、プロテインも飲んだし、筋トレもした。しかし一向に肉も筋肉も付かない。こんなことでは彼女にあきれられてしまう。

 僕は食事を六人前に増やした。肉を中心に白米をドンブリで食べた。なんならいっそ相撲部屋に弟子入りして食事の組み立て方を教わってこようかと思いもした。けれどどうやっても僕の体重は増えてくれず、ある日急激な胃痛とともに僕は血を吐いた。

 急性胃潰瘍、そう診断した医師は僕の食事情を聞いてぽかんと口を開けた。

「君はプロレスラーでも目指しているのかね?」

「いえ、愛される男を目指しています」

 医師は口を閉じて咳払いをしてから何事もなかったかのように僕に入院するように言い渡した。

 お見舞いに来てくれた彼女は僕の枕元に立った途端に涙をこぼした。

「ど、どうしたの!?」

「ごめんね、ごめんね」

「なんで謝るの」

「だって、私がマッチョが好きだなんて言ったから無理したんでしょう」

「無理なんかしてないよ。僕がたくさん食べたかっただけ。急に食欲魔人になっちゃって」

 パン! と乾いた音がした。何が起きたか分からずに瞬きを三度したころ、頬にじんわりと痛みがやって来た。彼女に張り手を食らったらしい。

「それが無理だって言ってるの! 私のことなんかいいから、自分を大切にしてよ!」

 ぼろぼろと彼女の目から涙がこぼれた。僕はあわあわと両手をうごめかせたが、どうしたらいいのか、何と言えば彼女が泣き止むのか分からずに彼女の手を握った。彼女は小さく震えていた。僕は彼女のまんまるな肩を抱いた。彼女の胴回りは両腕で抱えきれないけれど、僕は彼女を幸せにしてやりたかった。

「僕たち、別れようか」

 彼女は目を丸くした。

「僕は君が好きなマッチョになれない。無理してガリガリの僕と付き合ってくれていても、君は不満を抱えるだけだろ。だったら……」

「無理なんかしてない!」

「でも……」

「私はあなたが好きなの。ガリガリでもマッチョじゃなくてもいいの。無理なんて何一つしてない。だから、あなたも無理して私に合わせようとなんかしないで」

 彼女はふっくらした手のひらで僕の頬を包み込んだ。

「あなたらしい、あなたでいてちょうだい。私はどんなあなたでも好きなんだから」

 僕は彼女の優しさに胸が暖かくなっていくのを感じた。

「でも、私が作った食事は残したらダメだからね!」

 ああ、彼女のツンはやっぱり厳しいなあ。苦笑しながらも僕は彼女のデレを見るために、胃に開いた穴が塞がったら五人前の料理を食べられる男になろうと心に決めた。

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