あいつを思うと眠れない
あいつを思うと眠れない
枕を抱いて窓辺にもたれて月を見上げた。
ふう、とため息一つ。
どうしちゃったんだろ、私。眠れないなんて、まるで私じゃないみたい。
ふう、とため息もう一つ。
なんでこんなにあいつのこと考えちゃうんだろう。
毎日、毎晩、油断しているといつも頭は勝手にあいつのことを考え出す。
それなのに夢の中には出てこないんだ。くやしいことに。
もしも夢に出てきたら、思いっきり抱きしめて頬ずりをして、それから……キスもしてみたい。
キスってどんな感じだろう。
考えただけでドキドキする。
唇を指でそっとなぞってみる。
やわらかい感触に少しだけ自信を持つ。これならきっと満足してもらえる。
何に満足なのか考えるともっと眠れなくなる気がして、ベッドにバフンとうつぶせて枕に顔をうずめた。
本当に、イヤになる。なんで私がこんなに気持ちをかき乱されなきゃいけないの。みんな、みーんなあいつのせい。
もう、本当に……、本当に……、大好きだ。
真っ青な空にぷかりぷかりと白い雲が浮かぶ。海は濃い青で、どこまでも澄んでいる。
ぐらんぐらんと揺れる船の上で手すりにつかまって振り落とされないように踏ん張る。
岸から一時間、ようやくあいつの姿が見えた。ここまで会いに来るのは二年ぶりだ。
私はフィンとシュノーケルをつけて海へ飛び込む。
すぐにあいつが私の側に来て並んで泳ぐ。
あいつの胴に抱きついて頬ずりする。見た目よりずっと柔らかい体、意外と冷たくない皮膚。
そしてドキドキしながら首を伸ばしてあいつ、イルカの長い嘴にキスをした。
……なまぐさかった。
これでやっと安眠できる日々が戻ってくるような気がした。




