黄昏町のカラス
黄昏町のカラス
黄昏町にはカラスが多い。近くに標高が低い山がいくつかある。カラスはそこから飛んでくる。早朝にやってきて、黄昏時に帰っていく。群れて移動する様は通勤電車に詰め込まれた黒いスーツを着た人のようだ。
ガーは群れないカラスだった。通勤することもなく始終町にいた。一羽きりで群れもせず町の片隅に生きていた。
そのせいかガーは群れのカラスから、いつも追われていた。ゴミ置き場に近づこうとすると威嚇され、町の端まで追いやられた。ガーは憎々しげにカラスの群れを睨んでいた。
ガーが一羽で町をうろつくと他のカラスたちから攻撃された。町には三つの群れが飛来していたがガーはどの群れにも属さない。どの群れからも放擲された。ガーの居場所は町はずれのスクラップ工場だけだった。
スクラップ工場には様々な動物が棲みついていた。ネズミ、モグラ、イタチ、彼らはガーを追い立てない心休まる存在だった。ガーは工場付近で放置されるごみ袋の中から生ごみを漁ると一部を自分で食べ、残りを工場の敷地の隅に置いた。
ガーはカラスを憎んだ。自分がそこに行けない現実を憎んだ。
ガーの親鳥は孵らない卵の中から一羽だけ生まれたガーを憎んだ。憎しみはガーに向かったが、親鳥の本能がガーに餌を与えるよう指示を出した。ガーは順調に育ち、そして育ったガーが初めて飛んだ日、親鳥はガーを置いて群れに帰った。ガーも群れに向かって飛んだ。しかし群れには大人しかいない。よろよろとやっと飛ぶことを覚えたガーには、とうてい追いつけるものではなかった。ガーが疲れ切って舞いおりた場所、それがスクラップ工場だった。
カラスの群れがゆうゆうと飛んでいく。ガーは夕暮れの空を見上げてクチバシを鳴らした。ギイギイ、ギイギイとクチバシをこすりあわせた。うらめしい、うらめしいとクチバシは鳴り続けた。
群れからはぐれたカラスの子を、町に住む人間が拾った。ガーはすぐそばでそれを見ていた。きっと人間はカラスの子を打ち殺してしまうに違いないと期待して見ていたが、人間はカラスの子の傷ついた翼をいたわりながら抱いて家に帰った。ガーは乱暴な羽音をたてて人間の後を追った。
人間は大きなお屋敷に入って行った。ガーは庭の松の木にとまって様子を見ていた。子カラスを連れ帰った人間は子カラスを籐の籠に入れて翼の手当てをしてやり、甘い菓子を与えた。ガーは腹の底から湧いてくる嫉妬で焼き尽くされてしまうかと思うほど子カラスを憎んだ。人間を憎んだ。自分に与えられなかった優しい出会いを憎んだ。
スクラップ工場に帰ったガーをネズミが待ち構えていた。ガーが持って帰る餌を期待して待っていた。何も持っていないガーを見ると、ネズミはガーをさげすんだ。役立たずだと言い捨てた。ガーはネズミを憎んだ。モグラを憎んだ。イタチを憎んだ。ガーはネズミをくちばしで突き刺した。何度も何度もなぶって殺し、死体をついばんだ。モグラもイタチもガーを恐れてスクラップ工場から逃げ出した。
ガーのそばには何もいなくなった。ガーはすべてを憎んだ。孤独を憎んだ。自分を憎んだ。憎しみがガーを焼きガーは真っ黒な炭のようにぶすぶすと煙を上げ続けた。どこにも行き場のないガーはスクラップと共に生に押しつぶされる日をただ憎しみの中で待っている。




