ひこうき ひこうき
ひこうき ひこうき
青いそらに白いひこうき、ぴかぴか。
とんでいったら、白い白いひこうきぐも。
みんないっしょにとんでった。
病室の窓から見上げる空は、なぜかいつも晴れていた。
入院も、もう三度目になる。同じ病気を繰り返し、少し悪くなると病院にかけこみ、少しよくなれば日常に戻る。繰り返しても仕方がないことは分かっている。けれどどうしても決心がつかなかった。
最後の独身仲間だった友人から、おめでたを知らせる葉書が届いた。今時メールでもラインでもなく葉書なのが、いかにも彼女らしい。仕事に趣味に勉強に忙しかった彼女は、気づけば高齢出産と言われるような年齢になっていた。
まるくなったお腹をかかえてご主人の帰りを待つ間がとても幸せなのだという。
たった十ヵ月間の幸福。
それと引き換えに彼女が失ったもののことを指折り数えるのは、そんなに罪深いことだろうか? 私は神に罰せられるのだろうか?
ベッドから起き上がれず輸血を受けながら見上げた空はやはり青い。失った血液はおぎなえても、私の未来は返らない。
何度も入退院を繰り返す無意味さを自分が一番知っている。血を流し続ける壊れた子宮など、未練がましく抱えていてなんになるというのだろう。もうすでに子を宿すことはできないと宣告されたというのに。
友人の出産祝いを贈った。新居にぜひ遊びに来いと、また葉書が届いた。その葉書を二つに折ってベッドサイドの引き出しにしまった。
早産だった友人は、一ヶ月間、赤ん坊を抱かせてもらえなかったのだという。保育機からやっと出てきた我が子を抱いた写真が送られてきた。見たことがないほどやつれていて、見たことがないほど美しかった。
赤ん坊の名前は生まれる前に一度決めていたが、産後すぐに命名しなおしたそうだ。大きく強くそだつようにと。その名前を覚えることができないまま私は三度目の入院をし、子宮を摘出した。
青いそらに白い白いひこうき。
なくしてしまった名付けの幸福。
とんでいったら、白い白いひこうきぐも。
痛むことのないお腹と傷んだ心。
みんないっしょに青い青いそらに飛んでった。




