ボタン
ボタン
そこにボタンがあった。
白い壁に隠すように小さな白いボタンがあった。
閉じ込められてから十二時間、この真っ白い部屋のなかを探り回っても見つけられなかったボタンが突然現れた。
いや。理由も分からず、どうやって連れてこられたかも分からない状況でまともな精神状態ではないのだ。目の前にあるものが見えないこともあるかもしれない。
ボタンは立ち上がった私の目の高さにあった。壁に向き合えばすぐに目につくところにあった。見つけられなかったなどということが本当にあるだろうか?
ボタンの壁の向かいには鍵がかかった扉がある。意識はそちらに向いていたし、鍵を探そうと下ばかり向いていたのだ。高い位置のものが見つけられないこともあるだろう。
しかし、目の前だ。
たが、たしかになにもない壁を見ていたとして、だとしたら、このボタンは突然現れたというのか?
突然現れたのだ。なにもない壁ににゅうっと現れたのだ。きっとタイマーで自動的に出し入れ出来るようになっているのだ。押せば何かが変わるに違いない。
押すわけにはいかない。あまりにも唐突だ。罠かもしれない。
押さなければ、もう手詰まりだ。喉がかわいたし、なによりトイレが限界だ。押そう。
押すわけにはいかない。あやしすぎる。
押すしかない。何が起きても干からびて死ぬよりましだ。
押したら恐ろしい目に遭う。
押さなければ結局、死ぬ。ああ。
ああ。
ああ、決心するための能力にたけた三人目の意識はどうして生まれないのだろう。
私たち二人だけでは堂々巡りだ。
誰か決めてくれ。
ボタンを押してくれ。
私を止めてくれ。
誰か。
誰か。
誰か。




