表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/347

見つめているもの

見つめているもの

 妻は動物が好きだ。むかし飼っていた猫もねこっかわいがりしていたし、今家にいるオカメインコとも、よく話しをしている。

 そんな妻と動物園にいくと、かなりの時間をかけて見て回ることになる。ひとつひとつの檻の前で立ち止まっている時間が長い。

 なかでもお気に入りなのは猿だ。妻は猿山の前に何分でも立っている。声をかけなければ一日中でも見ているのではないだろうか。ためしに猿を見ている妻の背中を、ずっと眺めていたことがある。真冬の寒い日だった。三十分で私の我慢が限界を向かえた。


「まだ見るのかい」


 妻は声をかけても、しばらくぼんやりしていた。強い風が吹いて妻の前髪が乱れた。それを直しているときに、やっと私のことに気づいてくれたようだ。


「なあに、なにか言った?」


 笑顔を浮かべてはいたが、それは私に向かっているものではないのじゃないかと思えた。私は妻の隣に立った。妻はまた猿山に目を戻した。


「猿が好きだね」


「好きだわ」


「かわいいかい?」


「醜いわ」


 驚いて妻の横顔を見つめた。妻は微笑みを浮かべて猿を見ている。


「寒いと彼らはくっつきあって暖めあうでしょう。猿団子。あの猿はいつも猿団子の外側にいるの。あの猿はいつも猿団子の内側にいるの」


 妻が指差した猿団子は三匹の猿が固まっているものだった。一匹の猿を左右から二匹の猿が抱きしめている。真ん中の猿はじっと目をつぶって暖かさを享受しているが、左右の猿は目を見開き寒さに耐えている。いや、それは勝手な妄想かもしれない。猿達にしてみれば、団子の皮になろうが餡になろうが変わらず寒いのかもしれない。


「外側の猿は皮膚病ね、毛が抜けて皮膚が見えているわ」


「あの猿が醜いのかい」


 妻は微笑んだまま、猿だけを見つめている。


「どう思う?」


「なにが?」


「皮膚病の猿は醜いと思う? それとも美しいと思う?」


 私は猿団子をもう一度見つめた。皮膚病の猿は他の二匹より寒さにまいっているように見えた。抜け落ちた毛が守っていた皮膚から寒さが見に染みているようだ。それも私の妄想だろうか。分からない。


「行きましょう、すっかり冷えちゃったわね」


 妻は気がすんだようで猿山に背を向けた。いつも通りの彼女に戻って快活に笑った。だが、私はもう今までと同じようには彼女を見ることが出来ない。私は彼女の中にある恐ろしい、冷たい、醜いものを見つけてしまった。最後にもう一度、猿団子を見ようと振り返ると猿達は散り散りに離れて、どれがどの猿だったのかすら分からなくなってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ