280/347
僕らが見ていたものから動く、かすかなものは
僕らが見ていたものから動く、かすかなものは
あの日、僕らは何を見ていたのだろう。
確かにたいせつなものだったはずなのに、今ではもう見えはしない。
はるか遠く去った夢の中の月のように、手応えのない美しいもの。
振り回される毎日に、少しずつなくしていく手の中の希望の粒は風に飛ばされ消えていった。
あの日、僕らは何を探していたのだろう。
きっと未来には手にはいるのだと疑わずに、今ではもう思い出せない。
どこにでもある、たあいない、誰にでもある、ありふれた。
振り回される毎日に、けずりとられる記憶の粒は黄昏の電車に置き忘れた傘のようで。
僕らが見ていたものから動く、かすかなものは、過去や未来や僕の心をさびしくさせる。
そこから何か、生まれただろうか。
そこから何か、疑っただろうか。
何もわからないまま、僕はここに立ち尽くす。
イヤホンから聞こえる愛を唄う声は、どこまでだか知らないけど、誰かのもとに届くのだろう。
僕の耳を通りすぎる闇夜のように、僕の心を通りすぎる夕立のように。
僕には何も残らずに。
この日、僕らは何を求めるんだろう。
目の前に見えない何かを動かそうと、もがきながら。
僕はここから動き出す、かすかなものを、まだ見つけられぬまま。
僕はきっとまだ見つけられぬまま。




