生まれ落ちた草原
生まれ落ちた草原
気づいたら、見渡す限りの草原にいた。見知らぬ場所だし、植物もなにか変だ。見たことがないもの、……というより、想像を越えたでかさだ。タンポポのような花が俺の顔ほどにでかい。
思い出せる最後の記憶は人をかばってトラックに牽かれたこと。
そうか、これが異世界転生か!
チートでうはうは人生が始まったのか!
よーし、よーし、俺の人生、ろくなもんじゃなかったが、ようやく上向いてきたな。
仕事もなくして趣味もなく、彼女いない歴は年の数、ろくでもない親と借金まみれの兄弟と、そんな人生から抜け出せたんだ!
これからは一生懸命に生きるぞ! 勤勉で正直に、誠意をもって何事にもあたるんだ。
……それにしても、ここはどういうところなんだろう。俺の体はろくに動かないが、親はどこへ行ったんだろう。
「けいすけ!」
名前を呼ばれた。そちらに顔を向けると、おふくろがいた。え、なんで!? 転生したのに、なんでここにいるんだよ!
「しっかりして! 死んじゃダメよ!」
肩をつかまれてガクガクと揺さぶられる。目が回って世界が回る。やめろ、おふくろ、目が回る。
「おかあさん、落ち着いてください! 揺すったらダメです! 頭を打っているんですから」
世界が回る。一回転ごとに緑の地平が黒く沈んでいく。闇に侵食されていく。
「けいすけ! けいすけ! 死んじゃダメ! あんた、まだ借金返してないじゃないの! かあさん、あんたの代わりに返済なんて絶対嫌だからね!」
「おかあさん、今はそれどころじゃありませんから」
真っ暗になった世界に救急車のサイレンが響き渡る。意識が急速に現世に還ってきた。ちくしょう、俺はまだこのクソみたいな世界で生きていかなきゃならないのか。
うっすらと目を開けると、俺に覆い被さっているおふくろの顔が見えた。目は真っ赤で、涙でぼろぼろの顔をしていた。俺と目が合うと、唇を震わせて泣き出した。
ちくしょう、俺はまだ、死ぬわけにいかないじゃないか。
車輌保険で借金返せるかな。ぼんやりと考えているうちに、また眠ってしまった。
次に目覚めるときも、俺は俺なんだろうな。仕方ない、生きなきゃな。
誰のためってわけでもないけど、さ。




