たわごと
たわごと
何もしたくないことってあるだろ?
体調が悪いわけでもないし、暇なわけでもない。
でも体を動かす馬力がないんだ。
蒸気機関車の石炭切れのようなもんだ。
どでかい体を動かす火がもうそろそろ燃えつきそうで、止まってしまえば石炭の補給すらできなくなるんだ。
永久に山の中の線路で立ち往生するんだ。
今の俺がまさにそれさ。
理由なんてわかりやすい。
女にフラレたのさ。
それもこっぴどく。
あんたは電信柱以下よ、だってさ。
意味はよくわからなかったけど、なんだかズガーンと来たね。
俺は犬にションベンかけられる丸太以下なんだってよ。笑えるだろ。
あんただってそんな経験の一度や二度はあるだろ。あるはずだ。あるって言えよ。
よしよし。あるんだな。
じゃあ、わかると思うが、この石炭切れをどうやって改善するかわかるよな。わかるだろ。わかるって言えよ。
よしよし。わかるな。
そういうわけで俺は今、石炭を補給してるって訳だ。
飲みすぎだって?
そりゃそうさ。
石炭をまんたんにしなきゃ、次の山には登れないだろ。
真ん丸な山がふたーつ連なって、山のてっぺんにぽつんと丸い石が一つずつあるんだよ。
わかるだろ、な。
その山をな、登るんだよ。
だからな、石炭をがんがん火にくべなきゃならんのさ。
次の山は高いか低いか、進んでみなきゃわからんけどな。
少なくとも、どんなに低い山でも平野よりはずっといいぜ。
だからな、石炭をくべてくれよ。
これで閉店だなんて冷たいこと言うなよ。
なに?
五百メートル行けばコンビニがあるって?
あーあ。いやな世の中になったよなあ。
山の中にだってコンビニがあるんだ。
石炭を手に入れ続けることができて、走るのをやめられない。
いやな世の中になったよなあ。
さて。
じゃあ、帰るわ。
石炭をたんまり抱えて、真っ暗なトンネルへな。
じゃあな。