春の刺客
春の刺客
春一番が吹いた。と言うと何やらほのぼのするが、日本の四割の人にとっては恐怖の知らせだ。そう、杉花粉の飛散が本格化する季節の到来だ。ちなみに四割というのは僕のかってな推測だ。しかし、本当に最近は十人に三人は花粉症という世の中になった。
僕と花粉症の付き合いは、それほど長くない。三年ほど前の春、何やら微熱が続きくしゃみ、鼻水が止まらず病院に行ったときに診断されたのだ。花粉症で熱が出るなんて初めて知ってカルチャーショックを受けたので、その日の色々なことをハッキリと覚えている。例えば、医師の口臭がひどかったかこととか。
それから症状はだんだん多彩になっていった。目のかゆみ、喉の痛み、肌のかゆみ、頭がボンやりする、エトセトラ、エトセトラ。よっぽど花粉症と相性がいいのか、ありとあらゆる症状が出た。毎年、春一番が吹くたびに憂鬱を通り越して、春が憎くなるのだ。
同じ親から生まれたというのに妹は花粉症の『か』の字もない。
「精神力が違うからね」
と、花粉症に精神論を持ち込む雑さのために、花粉に反応する繊細さを持ち合わせていないのだろう。
繊細に過ぎる僕は今日も何度も何度も鼻をかみ、鼻の周りが真っ赤になっている。目も掻いてしまうので目の周りも赤い。まるでピエロだ。こんな時に限って合コンの誘いが次から次とやって来る。ピエロは合コンになど行かぬ。行かぬのだと力強く宣言して友を追い散らす。だから僕には出逢いがない。いつまでも寂しいシングルライフだ。
「出会いたいなら夏か秋か冬に合コンにいけば?」
と、合コンの開催時期に疎い妹が口を挟む。合コンといえば春。春といえば合コンだろう。そう教えてやったら「ふふん」と鼻でわらって行ってしまった。兄に対する敬意が足りぬ。説教してやらねば、と思ってもピエロだと迫力も威厳もないので、春の間は控えることにした。
斯様に春は憂鬱なのである。