西日が入る涼しい我が家
西日が入る涼しい我が家
我が家のベランダはばっちり西向きだ。夏になるとカンカンとオレンジ色の陽が射してくる。部屋の中に居ながらにして日焼けしてしまうから外出しなくても陽やけ止めは必須だ。
そんな我が家だが、ビルの10階にあるため風通しは抜群だ。夏の間、クーラーをつける日は数えるほどしかない。陽がかげりさえすればの話だが。
我が家の住人は皆、昼間は働いているので昼はクーラーいらず。帰ってきたら陽が落ちていて、床がほんのり温かいことだけが西日を思わせるくらいだ。
が。
休日がもう最悪だ。昼までは涼しい風のもとそよそよと過ごしているが夕方に近づくにつれて部屋の中に斜めに陽が入って来てだんだん暑くなってくる。
そのうち直射日光が肌を焼く。部屋の中に日陰がなくなっていき、最後の砦である冷蔵庫の陰に避難すると冷蔵庫の排気の方が暑くて陽のもとへ戻る。そんなことをくりかえす。
それでもクーラーをつけないのは意地でもあるし、電気代を浮かせたいという貧乏魂のためでもある。
公共施設に避難すればいいかもと思わなくもないが生き帰りの暑さを思うと玄関に向かう気になれない。一日家でぐだぐだしていることになり、夕日にあぶられることになる。
それでも夕日が山のむこうに消えると途端に涼しい風が肌を冷やしてくれる。一日のうちで一番、一年のうちで一番、好きな時間だ。明るい紺色の空に星が見えるようになるまでの数十分、夏の宵を楽しみながら汗を流してビールを楽しみに台所に立って夕飯を作る。
風が美味しい香りも運んでいくのか、家族がそろって帰って来る。
「おかえり。どこにいってたの?」
「デパートだけど」
「はあ!? なんで誘ってくれないの!」
「誘ったさ。けど起きなかっただろ」
「起こしてよ!」
「起きなかったんだって」
「しんじらんなーい!」
わあわあと夏の宵は涼しく熱く過ぎていく。
幸せなこの部屋に爽やかな風は吹く。