病気自慢
病気自慢
真理子は体が弱い。と自分では思っている。だがまわりの人は誰も同意してくれない。
真理子はとても健康そうに見える。がっしりした大きな体、小麦色の肌、澄んだ瞳、大きな声、どれもが真理子を健康そうに見せる。
だが真理子は言う。
「大きいのは生まれつきだし、肌は地黒なだけだし、目はカラーコンタクトだし、声が大きいのは自分の耳が遠いから、どれくらいの声量で話せばいいかわからないの」
また、真理子は言う。
「子供の頃は喘息があったし、しょっちゅうお腹をこわしたし、風邪をひきやすいし、高血圧だし、それに……」
真理子がまだまだ病弱な理由をあげようとしていると、4歳になったばかりの孫娘が真理子に一枚の紙を手渡した。
「ばあば、あげる」
「まあ、ありがとう。なにかしら」
開いてみると、それは孫娘からの手紙だった。
『ばあば、ながいきしてね』
覚えたてのひらがなのたどたどしさに真理子の胸は熱くなった。
「うん、ばあばは長生きしますよ。病気なんかバイバイするからね」
真理子は孫娘をぎゅっと抱き締めた。孫娘は迷惑そうに身をよじった。
後ろで見ていた嫁は、これで義母の病気自慢を聞かなくてすむだろうと、自分の作戦の成果に満足してにんまり笑った。