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あかたろう

あかたろう

あるところに垢がものすごく出ると悩んでいる娘がおった。

この娘、一人暮らしなので相談できる家族もいない。

日々、なげき暮らしておった。


あるとき、娘はあかたろうという昔話を知った。

正直者だが貧乏なじい様とばあ様が自分たちの垢をこすりおとして人形を作ると、その垢人形が動いて、しゃべって、飯を食って、大きくなって、出世して、じい様とばあ様に恩返しをしたという。


娘はこの話を聞いて一番に(じい様とばあ様、汚いよ!)と思った。

垢で人形を作るという発想がそもそも汚いが、そのふ垢の塊が生き物になるはずがない。


そう思ったのだが娘は、待てよ、と考え直した。

クローン技術が進めば垢から人間を作ることも出来るのではないか?

はるか未来の人がタイムマシーンを開発してクローン技術を持って、昔に戻ったら、可能じゃないか。

なんでそんな変なことをしたかというと……、そうだ、先祖だ。

先祖を金持ちにして自分が楽をしようと考えたのだ。


では、自分のはるか未来の子孫もやってくるかもしれないではないか。

娘は自分の垢で人形を作ることにした。


ドラッグストアーで垢擦りタオルを買ってきて、風呂でごしごしこすると、出るわ出るわ。見る間に垢の山ができた。

娘はそれをこねて人形を作った。手足もあるきちんとした人型だ。

しかしなぜかその人形を見ると、不吉な気持ちになった。

なにか良くないことが起こりそうな……。


だが娘は気のせいだろうと思うことにして、垢人形を大事にタンスの上に飾った。


毎日、垢人形の前に飯を置いておくのだが、いつまでたっても垢人形が飯を食うことはなかった。

こんなことバカらしいと、頭では思うのだが娘は人形に飯を差し出すことをやめられなかった。


そんな日がふた月も過ぎた頃、娘に恋人ができた。

娘は毎日、垢擦りタオルで肌をピカピカにみがいた。おかげで恋人は娘が垢が出やすいことに気づかなかった。


恋人が娘の家にやって来ることになった。

娘は部屋をピカピカにみがいた。

タンスの上に置いた垢人形に久しぶりに気づいた。

恋人ができてからというもの、娘は垢人形に飯をやるのを忘れておった。


垢人形は、なにやら小さくなっているように見えた。

飯をもらえずに痩せ細ったようにも見えた。

娘は飯をやらずに悪かったかなと、ちらりと思ったが、垢人形が飯を食うなどとバカバカしい。たんに乾燥して縮んだだけだと自分に言い聞かせて垢人形をゴミ箱に捨てた。


恋人がやってくると、娘は得意の手料理でもてなした。

恋人は大喜びで娘を誉めそやした。娘は照れて恋人を突っついた。

すると恋人は派手にリアクションをとり、床に倒れこんでみせた。

その拍子にゴミ箱がひっくり返り、垢人形が飛び出した。娘はあわてたが、恋人は垢人形を手に取ってしまった。


垢人形はカラカラに乾燥していたので触っただけでは垢で作ったとはわからない。

恋人も粘土を焼きしめた人形だと思った。

娘があまりに懸命に奪おうとするので、恋人は面白がって垢人形を渡すまいとぎゅっと握った。


すると垢人形の腕が一本、ポロリと折れた。


「ぎゃあああ!」


娘が突然叫んでうずくまった。驚いた恋人が見てみると、娘の右腕がボッキリと折れていて、腕があらぬ方向を向いていた。


「私に何をしたの!?」


「な、なにもしてないよ」


「じゃあ、なんで急に腕が折れるのよ!」


 娘の顔はみるみる白くなっていく。ショック症状も出ているようで震えもひどい。


「俺はなにもしてないよ。触ってすらいなかっただろ。俺は人形を持ってたんだから」


「人形!」


娘は床に投げ捨てられた人形を拾い上げた。人形の腕はあらぬ方向を向いていた。まるで、娘の腕と同じようだった。


「私に呪いをかけたのね! 垢人形で呪いをかけたのね! ブードゥー人形の呪いと同じように!」


「なにを言ってるんだよ。落ち着けよ、呪いなんかあるわけないだろ」


「命を持っちゃったんだわ。毎日、ご飯をあげたから……」


「おい、しっかりしろよ」


「あなたが私を呪ったのよ!」


娘は折れていない方の腕で恋人の首を絞めようとした。男はするりと逃げると、垢人形を拾い上げた。


「呪いなんかない! いいか、見てろよ!」


恋人が人形を振り上げる。


「やめて!」


娘が止めるのも聞かず、恋人は人形を床に叩きつけた。

垢人形は粉々にくだけた。


「ほらな、呪いなんかない……」


恋人が娘のいた場所を見ると、そこには垢が山になっておったそうな。

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