おひより
おひより
いい天気だ。
久しぶりの休日、部屋でごろりと寝転んで窓から空を見上げる。昼過ぎまで寝てそのまま布団から転がり出ただけで布団はいまだ広がったままだ。外に布団を干したらきっと気持ちがいいのだろうけど、何もしたくなくてただぼうっとしている。
仕事は嫌いじゃない。やりがいもある。けれどこんなポカポカと暖かい、空が真っ青に晴れた日は毎朝毎朝決まった時間に玄関を出る自分がアホらしくなったりもする。いいじゃないか、働かなくたって死にはしない。
鳩が空を横切って行った。いかにも平和だ。
どこかの国でミサイルが飛び交っているなんて信じられないくらいだ。
特需景気。その言葉が言われだしたのは、隣の国が、そのまた隣の国とドンパチを始める少し前からだった。
平和国家を標榜するこの国に銃弾や爆薬を作っている会社があって、それが世界中に武器を卸しているなんてことを知っている国民はわずかだっただろう。故意に隠されていたと言ってもいい。隠していたって誰が? そんなの国民自身だ。自分で自分に目隠しをして見ないふりをしていたのだ。その証拠に武器を作っている会社はもう十何年も前から堂々としたホームページを展開していた。
知ろうと思えば知ることはできたのだ、誰でも。だが、そうしようと思ったものはいなかったってことだ。この国がよその国の戦争で潤うまでは。
けれどそれも仕方ない。毎日規則正しく起きてミサイルの尾翼を作っている自分でさえも、戦争はどこか遠い世界の話にしか感じられないのだから。
ぼうっとしている間にも太陽は動いていく。廂の陰に隠れて見えなかった太陽が直接目を焼くようになった。目をつぶるとまぶたの裏に真っ赤な血潮が見える。
ニュース番組で見た隣の国の様子が思い出された。
戦争は白兵戦など行われず、ミサイルの応酬がほとんどだった。無尽蔵に供給されるミサイルを軍事とは無関係な街に、建物に、人に向けて発射される。何発も、何十発も。
そんな惨禍を映し出すテレビのニュースの中で、崩れたコンクリートの建物の壁一面に飛び散った鮮血の赤がまぶしかった。けれどそれも遠い昔のおとぎ話のようで。
日が傾いて直射から逃れることが出来た。目を開けると空は変わらず真っ青で雲一つない。こんな日はミサイル日和だ。風もないから狙いたがわず飛んでいく。
自分が作ったミサイルは今日はどこへ飛んでいくのだろう。どんな人生を終わらせるのだろう。だが、そんなことを考えても仕方ない。それは遠い国の話だし、自分は明日もミサイルを作るのだから。
空の果てにきらりと光るものが見えた。飛行機だろうか。
それはみるみるうちに近づいてくる。飛行機じゃない。速すぎる。
近づくそれがミサイルだと分かったのはよく見知った尾翼の影が見えたからだった。
ああ、いい天気だ。本当にミサイル日和だな。
ミサイルは大きく大きくなって、この国に戦争がやってきた。