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冬童話2017

『真実の四季』

作者: 南 屋

 昔々、とある国に、不思議ふしぎな力を持った、美しい四人のむすめがいました。

 四人が持っている不思議な力は、国に季節きせつを与える力。

 国の中で一番高いとうに、四人が交替で住むことによって、その国には季節が生まれるのです。

 四人の娘は季節をつかさどる女王様じょおうさまとして、春の女王様。夏の女王様。秋の女王様。そして、冬の女王様と呼ばれて国民達に愛されていました。


 女王様達は、自分が担当たんとうする季節の間、塔から出ることを許されません。

 国民達はそんな女王様達のために、おいしい食べ物を届けたり、歌やおどりを披露ひろうしようと塔におとずれてくれます。

 四人の女王様達は、そんな国民達に毎日お礼を言います。


「とてもおいしい食べ物をありがとう。素晴すばらしい歌と踊りだったわ」


 国民達はその言葉に喜び、次の日も、そのまた次の日もやってきます。

 女王様達は、そんな国民達の優しさに、お礼を言い続けます。毎日毎日。次の年も。そのまた次の年も。


 しかし、不思議な力を持っていても。女王様と呼ばれても。四人の娘だってみんなと同じ、気持ちを持った一人の人間です。

 何年も交替しながら塔の中につづけるのが、本当はいやだったのです。

 国民達は女王様達のために毎日訪れてくれます。

 でも、おいしい食べ物も素晴らしい歌や踊りも、毎日続けば心にひびかなくなってしまいます。


 ある年の冬。春の女王様は言いました。


「わたしはもう……あの塔に閉じ込められたくない」


 塔に住む。それは、女王様達にとっては、塔に閉じ込められて出させてもらえないのと同じことなのです。

 春の女王様がつらそうに出した声に、夏の女王様と秋の女王様も悲しそうな顔を見せます。

 夏の女王様と秋の女王様も、春の女王様と同じ気持ちだったからです。


 やがて、冬が春に変わらなければいけないころ

 春の女王様は、塔に閉じ込められている冬の女王様に会いに行きました。


「冬の女王様……ごめんなさい。わたしはまだ、交替したくありません」


 春の女王様はなみだをぼろぼろこぼし、塔の冷たい床にくずれ落ちながら正直に言いました。

 それは冬の女王様に、まだこの塔に残っていてほしいというわがままなお願いです。

 春の女王様はひどいことを言っているのはわかっていました。それでも我慢がまんできなかったのです。


「そんなに泣かないで。私は大丈夫だから」


 冬の女王様は優しく微笑ほほえむと、すわんで泣き続ける春の女王様をそっときしめました。


「もう少しだけ、私の季節を続けましょう。あなたの分の時間を、私がわりにここでごすわ」


「でも……それじゃあ冬の女王様が」


 冬の女王様の言葉に、春の女王様はハッと顔を上げました。

 冬の女王様が塔に閉じこもり続けると、いつまでっても冬は終わりません。


「大丈夫よ。私は元々嫌われ者だから。少しくらい嫌な顔をされても平気よ」


 国民達は女王様のために塔を訪れます。でも、それは春と夏と秋だけです。

 食べ物が育てられない。動物もたくさん死んでしまう。寒くてつらい冬の季節は、国民にとっては嫌な季節なのです。

 そしてその季節を国に与える冬の女王様は、国民達に嫌われているのです。


 冬の女王様が塔に住んでいる間に届けられるのは、乾いたパサパサのパンと、味のうすいスープだけ。

 歌や踊りを見せてくれる国民達もいません。

 冬の女王様だけは、暗く冷たい塔の中、一人ぼっちで冬を過ごしているのです。


「でも冬が長すぎると国民達は困ってしまうわ。だから、そうならないくらいにしてちょうだいね?」


「うん。ごめんなさい……少しだけだから」


 春の女王様はそんな冬の女王様のことをわかっていても、甘えてしまいました。

 少しだけ。本当に少しだけ。すぐにちゃんと交替しよう。


 それから一日が過ぎ、三日が過ぎ、一週間が過ぎました。

 国民達は不思議に思い始めます。春が来るのが遅すぎないかと。


 二週間が過ぎ、三週間が過ぎ、一ヶ月が過ぎた頃。

 国民達はあせり始めました。

 いつまで経っても冬が終わらない。このままじゃ食べるものが無くなってしまうと。


 国民の声を聞き、困ってしまったその国の王様は言いました。


「冬の女王を春の女王と交代させたものには、好きな褒美ほうびを取らせよう。ただし、冬の女王が、また来年も冬を始められる方法しかみとめない。命をうばってはならない」


 冬を終わらせれば、なんでも好きな褒美がもらえる。

 国民達はこぞって塔にしかけました。

 しかし、その手には食べ物を持っているわけでもなく、歌や踊りを披露してくれる人もいません。


「さっさと冬を終わらせろ!」


「塔から出ていけ! 春の女王様と交替しろ!」


 国民達は冬の女王様に向かって、大きな声で言います。

 朝から夜まで一日中。ただ出て行けと。お前なんか嫌いだと。

 心無こころない国民達の声を、冬の女王様は受け止め続け、そしていつも最後にこう言うのです。


「……ごめんなさい」


 あふれそうになる涙をこらえ、くちびるみしめて、毎日毎日ただただえ続ける冬の女王様。


 そんなある日。

 国民達が寝静ねしずまった夜おそい時間。

 塔に、春の女王様が訪れました。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 春の女王様は冬の女王様に泣きながら謝ります。


「いいのよ。私は大丈夫だから、気にしないで? それより、あなたの心は決まったかしら?」


 冬の女王様は、前と変わらない優しい微笑みで春の女王様に声をかけます。

 しかし、その表情ひょうじょうには少しだけ元気がありません。

 春の女王様はそれを見て悲しくなりました。わたしは、なんてわがままなんだろうと。


「ごめんなさい……やっぱりわたしは」


 冬の女王様の優しさを。その元気の無い表情を見ても、それでも心は決まらなかったのです。


「そう……大丈夫よ。なら、こうしましょう」


 冬の女王様は怒りません。優しくそっと、春の女王様の手を握ります。


「あなたが持っている不思議な力、春をもたらす力を渡しなさい。あなたの代わりに、私が春の女王にもなるわ。それなら、春もおとずれるでしょう?」


 春の女王様は嬉しそうに顔を上げてしまいました。

 でもすぐに、自分の身勝手みがってさに気付きづいてうつむいてしまいます。


「私は大丈夫。あなたの春の力のおかげで、国民達にも愛してもらえるから」


「……ほんとうに?」


「えぇ、本当よ。その代わり約束やくそくして? あなたには自由に、幸せになってほしい。それが私の、あなたへのおねがいよ」


 春の女王様はこくこくと頭を振ってうなずきます。

 二人が繋いだ手と手の間に、春の力が流れていきました。


「これで私は冬と春の女王。そしてあなたはただの一人の女の子よ。じゃあ……元気でね」


「うん……ごめんなさい。ありがとう……!」


 かかえていたおも荷物にもつが無くなって、一人の女の子は元気に塔を出て行きました。

 冬の女王様は塔の中で、誰にも伝えることなく春へと季節を変えました。


 翌朝、国民達は大喜び。王様も一安心ひとあんしんです。

 しかし、一体どこの誰が季節を変えたのかを、知っているものはいません。


 国民達はさっそく塔へと向かいました。

 たくさんのおいしい食べ物。歌や踊りの上手うまい者。

 こぞって塔に押しかけましたが、女王様は扉を閉じて開こうとはしてくれませんでした。

 扉の向こうから、春の女王を呼ぶ国民の声。その声に耳を傾けながら、冬と春の女王様は、一人呟きます。


「私が姿を見せてしまったら、あなたが春の女王の役目やくめから逃げたとばれてしまうものね……」


 女王様は一人ぼっちの部屋の中で、今はただの女の子になった春の女王様をおもいました。

 扉の向こうから聞こえてくる綺麗きれいな歌声。国民が寝静まったころ、扉を開けると置かれているおいしい食べ物。

 今まで誰にも愛されることの無かった冬の女王様にとっては、それだけで十分じゅうぶんだったのです。


 やがて春も終わりに近づき、夏の女王様と交代しなければならない頃。

 塔に夏の女王様が訪れました。


「あのさ……アタシも、夏の女王をやめたいんだけど」


 春の女王様から話を聞いたのでしょう。

 夏の女王様はぽつりぽつりと冬の女王様に伝えました。


「そう……わかったわ。秋の女王様……あなたもそうなのでしょう?」


 扉のかげかくれるようにして、部屋の中をのぞいていた秋の女王様。

 冬の女王様の言葉におずおずと頷きます。


「あなた達の力も私が受け取るわ。そして国民達には秘密にする。……その代わり約束してちょうだい。あなた達も幸せになってね」


「うん……約束する。ありがとう」


「……ありがとうございます」


 夏と秋の女王様は、冬の女王様に力を渡して塔を出て行きました。

 四つの季節の力を持った女王様は、一年中塔に閉じこもり続けました。

 夏も秋も、女王様が扉を開けることはありませんでした。


 いつまで経っても姿を見せない女王様を、国民達は不思議に思い始めました。

 しかし、やがて冬が訪れれば、それも薄れていくのです。

 冬の女王様のために、塔を訪れる者は誰もいません。


 そんな寒く厳しい冬のある日。

 その国の王様のところに、三人の美しい娘がやってきました。


「そなたらは何者だ」


 王様は季節をめぐらせることにしか興味きょうみが無く、四人の女王様の気持ちはおろか、顔すらも知りませんでした。全て家臣かしんまかせていたのです。


「わたしは、この国で春の女王をつとめていた者です」


「アタシは、この国で夏の女王をやってた」


「ワタシは……秋の女王を」


 春と夏と秋の女王様。その三人がそろって会いに来たのは初めてのことでした。

 王様は初めて会った三人の女王に、一つ頷くと、淡々(たんたん)と礼を言います。


「そうか。いつも世話になっているな。これからもよろしく頼むぞ」


「いいえ。わたしは前の春から女王をしていません」


「アタシも一つ前の夏までしかやってない」


「ワタシも……」


 王様は目を丸くして驚きました。

 季節は廻っているというのに、三人の娘は、一つ前の季節までしか女王をつとめていないと言ったのですから。


「では……今年はいったい誰が女王をしていたというのじゃ」


「冬の女王様です」


 三人は声を揃えて言いました。

 三人の願いを。力を。想いを受け止めてくれた、大切な人です。


「なぜそんなことになったのじゃ? そなたらはどうして女王はやめてしまったのじゃ?」


 王様は三人の気持ちがわかりませんでした。

 季節を廻らせるということだけを考えて、娘たちの気持ちなんて考えたことも無かったのです。


「わたし達はあの塔に閉じ込められるのが嫌でした」


「どうしてじゃ。食べ物だってたくさん届けて、歌や踊りも楽しめたじゃろう」


「毎年あの塔に閉じ込められていれば、それもすぐに飽きてしまいます。わたし達は自由になりたかった」


 王様はうなり始めました。娘の言葉を聞き、ここで初めて娘たちの気持ちに気付き始めたのです。


「冬の女王様は、そんなわたし達の身代みがわりになってくれました。でも……扉を開けようとはしなかった」


「それはどうしてだったのじゃ?」


「扉を開ければ、中にいるのは冬の女王様だとばれてしまいます。わたし達が、わがままで女王をやめた、国民を裏切うらぎった悪い娘だと知られてしまいます」


 王様は考えました。

 どうして冬の女王は、他の女王の季節まで受け取ったのか。

 どうして冬の女王は、扉を閉めて他の女王をかばったのか。

 王様にはわかりませんでした。


「冬の女王様はどうしてそんなことをしたんじゃ」


「冬の女王様は優しいのです。誰からも愛してもらえなかった冬の女王様は、他の誰よりも人の気持ちを大切にしてくれるのです」


 それは、誰からも愛される。なんでも願いを叶えられる。そんな王様にはけっして理解できないことでした。


「冬の女王様は言いました。わたし達に、幸せになってほしいと」


「でも、アタシ達は間違まちがってた。アタシ達だけが自由になっても幸せになんてなれなかった」


「ワタシ達が幸せになるためには……逃げてばかりじゃ駄目だめだったんです」


 王様はわかりません。小さく首を傾げました。

 三人の娘を息を吸い、声を揃えて言います。


「冬の女王様に幸せになってほしい。それがわたし達の幸せです」



 そして月日は流れ、厳しい冬も終わりに近づいた頃。

 冬の女王様は塔の窓から外を眺めていました。

 一年前のこの日。春の女王は言いました。わたしはもう、あの塔に閉じ込められたくないと。


「今ならあなた達の気持ちがもっとわかるわ。毎日同じでは、辛いだけよね」


 春も夏も秋も、扉を開けることは無かった冬の女王様。

 それでも国民達は、毎日食べ物を運び、歌を歌って帰ります。

 初めは嬉しく思っても、毎日続けばその気持ちはうすれていきました。


「それでも私はこの塔で生きる。あなた達が幸せになれるのなら……」


 その時、塔の下から大勢おおぜいの足音が聞こえてきました。

 にぎやかなラッパや太鼓たいこの音。歌う国民達の声。

 こっそり窓から下をのぞいてみると、塔の下をくさんばかりの国民達。

 そして一番前には、王冠おうかんを外した王様が立っていました。


「冬の女王様よ! 姿を見せてくれ!」


 季節は冬。それは、冬の女王様が姿を見せることのできるたった一つの季節。

 冬の女王様は窓を開けて、人々の前に姿をあらわします。

 聞こえてきたのは国民達の喜びの声。冬の女王様が、冬の女王様として初めて聞く喜びの声。


「苦しさに耐えられる強き者よ。気持ちを思いやれる優しき者よ。人の幸せをねがえる素晴らしき者よ」


 王様はゆっくりと、大きな声で冬の女王様に語りけます。

 その後ろには三人の娘の姿。春、夏、秋の女王様であった三人の姿。


「そして、冬から春へと廻らせたそなたに、褒美を取らせよう!」


「私は……褒美のために季節を廻らせたわけではありません」


 王様の言葉に、冬の女王様は首を振って断ろうとします。

 それを見た王様は頷きながら笑いました。


「そのようなそなただからこそ、受け取ってほしいのじゃ。この王冠を」


「王冠を……?」


 王様ともあろう人がひざまいて、窓から見下ろす冬の女王様に向けて王冠をかかげました。

 冬の女王様はその姿にただただおろおろとうろたえてしまいます。

 そんな冬の女王様を見て、国民達は優しい微笑みを浮かべました。


「そなたに、この国の新しい王になってもらいたい。そなたに、本物の女王様になってもらいたい」


 王様に続いて、国民達が跪きます。元は女王であった三人の娘達も。


「お、おもてを上げてください!」


 冬の女王様はあわててさけびます。

 しかし、誰も顔を上げようとはしません。

 何度なんど言おうと、誰一人顔を上げようとはしませんでした。


「わ、わかりました。私でよろしいと、おっしゃるのであれば……」


「受け取ってもらえるか? わしらの気持ちを……」


 王様が顔を上げ、続けて三人の娘も冬の女王様を見上げました。

 やがてそれは波のように広がり、国民全員が冬の女王様を見上げ、もとめました。


 誰からも愛されることの無かった冬の女王様。

 誰からも求められることの無かった冬の女王様。

 そんな冬の女王様に、初めて届けられた優しい気持ち。


「はい……喜んで」


 女王様の一言に、国全体がふるえるほどの大歓声だいかんせいき起こりました。

 女王様のほほに流れる、ひとしずくの涙。


 それはいつか見た、春の女王様のような悲しい涙ではありません。

 寒く厳しい冬の日に届けられたもの。

 人々の優しくあたたかい気持ちがあふれ出した、嬉しい涙でした。


 塔からこぼれた涙は大地に落ち、その国に、あたたかな春をもたらしました。

 冬から春へ。そして春から夏へ。夏から秋へ。また、冬へ。

 季節と心が廻り廻って起こした奇跡は、その国に本物の四季をもたらしました。

 女王様が塔の外に出ていても、自然に季節が廻る。四季の国へと変わったのでした。


 辛く悲しい場所ではなくなった高い高い塔。その窓から国を見渡すのは、一人の美しい娘。

 塔に向かって手を振る国民に、優しく微笑みながら手を振り返す女王様。

 その強く優しく素晴らしい女王様は、国民に生涯愛される、幸せな日々を送りました。

冬の童話祭2017の提出作品として書かせていただきました。こちらの作品はなるべく童話を意識したつもりですが、子供向けというには少し際どい仕上がりかもしれません……。

ちなみに、他に少し暗い(怖い?)話と、ライトノベル風の話も投稿させていただきます。もしよろしければ、そちらも読んでいただけたら幸いです。と、少しだけ宣伝を添えて。

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