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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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008 修道女の魔法 

領主の名前はダグニクスと書いてありますが、変更前メルノーズという名前でした。もしどこかで発見したら教えてくれると助かります。

 「と、言うことは魔王様。今日その領主が何らかの動きを見せる可能性があるのではないでしょうか。先ほどの商人が言っていたことが本当なら、あの貴族は奴隷のことについて何か話をするためにここへ来たとしか考えられません。」


「そうだな。今まで見てきてようやく動きを見せたのだ。何かしら収穫は得たいところ…」


 魔王様がなにか続きを言おうとしたところで、その言葉は遮られた。


 「お嬢ちゃんにお兄さん。今『奴隷』とか『人身売買』っていう単語が聞こえてきたんだけど、ちょっと話聞かせてもらえないかなー。炎剣(えんけん)イフリート・バクフリードのサビになりたくなかったらね・・・」


 炎剣(えんけん)イフリート・バクフリ-ト…。異世界生活一週間の俺はそんなものは知らない。

 その声は真上から聞こえてきた。その声の方向を向くと屋根の上からかがみ込むようにしてこちらに顔を向けている一つの影があった。

 その男の声が合図だったのか。今話をしている路地の前方から大男、後方には女二人が道を塞ぐようやってきた。俺たちはすでに囲まれていたのだ。ここの路地は一本道で塞がれた前と後ろ以外に道がない。かなり殺気立っている。

 前方に構えているのは巨大なこん棒のようなモノを持ったスキンヘッドの大男だ。アンスヘルムと同じ、もしくはそれ以上背丈がある。「人間ってここまで成長するものなのか…」と恐怖を覚えながらも亜人型の魔族かという線も考慮しなければならない。 

 後方には大剣を肩に担いだ短髪に青っぽい髪をした無表情の女と、不敵に笑うシスターのような格好をした金髪の女の二人が俺たちを見つめている。

 俺はひと呼吸入れ考えを巡らせた。今この状況がどれほど危険なものなのかを。


 大男の顔には大きな傷が刻まれており、(ひたい)から太い眉、瞼を通って武骨(ぶこつ)な頬にまでそれは伸びている。その面構えはかなり豪胆でいくつもの修羅場をくぐりぬけてきたといわんばかりの厳つい表情だった。体躯、そしてあのこん棒の様な武器を見る限り接近タイプだと予想することができる。それにしても何だあの体は。上半身に対して下半身が貧弱すぎる。あの巨体から繰り出されるパワーは計り知れない。

 シスターの修道服のような格好をした女だがベールと呼ばれるかぶり物はしておらず、腰まで伸びている金色の髪の毛とその(たの)しそうな極悪な面持(おもも)ちはシスターらしさを微塵も感じさせなかった。完全に固定観念から来る予想になってしまうのだが、シスターというのは魔法でサポートをする役だということが考えられる。魔王様が以前物の怪退治の時に俺に使ってくれたような回復魔法等で味方を補助する役だ。よく見ると修道服のロングスカートにチャイナ服のような切れ込みが入れてあり動きやすくなっている。補助がやられたらパーティ全体が危険に晒されてしまうから上手く逃げやすいようにと裁断したのだろう。

 大剣を担いでいる空色の髪の毛をした女はそれ以外に言って特徴がない。先程から無表情でこちらを見つめてくるのみ。他の特徴を俺が決めるのあるとすれば膝上5センチメートルほどの短いスカートに、茶色のロングブーツくらいしかなかった。それに表情から全く何もみえてこない。先程から一ミリも動いていないのだから。置物か何かと勘違いしてしまう。だが、あの余裕から察するに相当の大剣の使い手だ。

 そして建物の上にいる男だが、影だけでどういうやつなのかわからない。だがあいつも背中に剣を担いでいる。雰囲気的に剣士兼司令塔だろう。

 あの高さ、飛び降りて来られたら厄介だ。警戒しながら立ち回るしかない。


 「魔王様、俺が大男をやります。魔王様は女二人をお願いします。上の男が降ってきたら協力してそいつをやりましょう。」


 魔王様に二人を任せるのは少々プライドが許さないところがあるのだが、正直魔王様は俺より強いし二人くらいなんとかしてくれるだろう。それに俺は大男くらいのクマと対峙したことがある俺からしたらあの大男は好都合だ。武器を使う分クマよりもしかしたら厄介なのかもしれないが、あのこん棒を振り回すとなると大きな隙ができるそこを関節技で抑えつければ大男となれど見動きを封じることができるだろう。それにこの路地は狭い。存分にあのこん棒をふりまわすことはできまい。

 昔南アフリカの世界最狂のビルで黒人の男に囲まれた時を思い出してしまう。あの時もまたこうやって退路をふさがれた狭い道での戦闘だった。嫌な記憶を懐かしみながら顔の前で拳を作り、構えた。


 「わかった。頼んだぞツカサ。」


 「任されました魔王様。背中は俺に任せ…」


 「ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃ、うっせェエエえんだよォ!!!!!」


 拳が俺の鼻をかすったと思ったら、激しい音とともに目の前のタイルが粉々に粉砕し地面が抉れた。急にこちらに向かって走って殴りかかってきたのはシスターの女だった。

 この女、魔法使いじゃなかったのか。


 「モルさぁん!?ちょっと作戦と違うよねぇ!?」


 屋上の男にモルさんと呼ばれたその女は立て続けに俺に対して右、左、右、右とジャブをかましてくる。その華奢な体から繰り出されるとは到底信じがたいパンチのスピードなだけに、()けるだけで精一杯だった。


 「ちょっ、お前ッ!シスターじゃなかったのか!?シスターって言ったら補助みたいなもんだろ!!」


 『はわわ…こわいよぉ。この女、しっかり脇閉めて正確に顎狙ってきてるよぉ。』と思ってしまうのは仕方がないことだと思う。プロボクサーのような身のこなしなのだから。


 「私が信じられるのは己の体のみだ!!魔法?そんなの私には必要ないね!!!オルァ!!!」


 次々と繰り出されるパンチは、左右にそびえ立つ石材でできた民家に次々とヒビを入れていった。

 上の男はさっきから「ストップ!やめろ」と言っているがこの女、全く聞いていない。

 魔王様と大男は共にこちらを見てブツブツと会話をしている。もう一人大剣の女は先程から全く動いていなかった。少しは助けるとかしたらどうだ。

 それよりも妙なのはこの空気。このシスター女以外の奴は完全に戦闘状態を解除している。先程から上の男が止めているのに全く止まる気配がない。完全に話し合いという流れが出来上がっているのにこの女は何がしたいんだ…。っておい攻撃やめろ。


 「へぇやるじゃん!加速魔法かけた私の拳を避けるなんてッ・・・なっ!!!!」


  さっきは魔法なんて必要ないとか言っていたのに…。カマをかけただけなのか素だったのかは知らない。


 「ふっ、お前の攻撃は軌道が読みやすい。どこに攻撃が来るか手に取るようにわかる。あとお前ッ、上の男何か言って・・・」


 「言ってくれるじゃねえか。ならこれはどうだァ!!!」


 俺の話を聞け!!!

 ここが路地裏だということを忘れて破壊活動を続ける女。仕方ない。と避けながら俺は自分の腰からベルトを抜いた。


 「止まらないんだったら、俺が力ずくで止める。悪く思うなよッ」


 ベルトで輪っかを作り、繰り出されるパンチに合わせてそのベルトを彼女の左腕に通し拘束した。

 彼女は伸びきった腕のせいで強いパンチを繰り出すことができない。だから空手のような上段蹴りをやってみせた。空手家も顔面蒼白であろうその蹴りで彼女のロングスカートは捲れ、しなやかで長い脚が顕になった。

 俺はそのピンポイントキックをベルトを持っていないもう片方の腕でガードし、そのままその足を掴み上げ彼女を地面へ押さえつけた。


 「やるじゃん、悪人のくせに」


 「誰が悪人だ。それに意外と綺麗な顔の割に随分凶暴なのなお前は」


 『やるじゃん』という彼女のあまりにも軽い態度にいらっときてしまった。お前がやめればよかっただけなのに。

 俺が押さえつけたと同時に上から男が降りてきた。おっとっと、とバランスを崩すも4,5Mの高さから見事に着地してみせた。

 かっこよく着地しても無駄だ。俺は見ていた。「ここから落ちて大丈夫かな・・・うーんでも・・・あー怖いな」みたいな素振りをしていたのを。

 俺より少し背丈の低いその白髪の男は顔つきも若く見た感じ16歳くらいだと思う。白を基調としたその騎士のような格好に背負う長剣からはその男の身分の高さが見て取れた。

 俺がそのシスターの女を解放しその男が女に手を差し伸べる。女はバツが悪いようにその手を取って立ち上がった。

 男は、女に軽く…いやあれは相当痛い位のげんこつをかました。


 「おいモル!お前、なんでいつも一人で突っ走るんだ!?戦うことになったら存分に暴れてもいいといったが、完全にまだ話し合いの余地が有る段階だっただろ!?」


 「エヴァンがいつも優柔不断だからだろ!?お前そうやってこの前も逃したじゃないか!!」


 「だから反省して退路を断つように指示したんだろ!?なんでお前わからないんだ!この脳筋馬鹿女が!!!」


 「んだとゴルァ!!!お前さっきのげんこつ結構痛かったからな。お前覚えてろよ」


 「すみませんでしたァ!!」


 いや弱いなおい!!!と心中突っ込みを入れてしまう。

 いきなり始まった喧嘩に俺と魔王様は口を開けてみていた。大男もまた始まったよと言わんばかりの呆れ顔で、大剣を肩に担ぐ女もこちらに来てその様子を眺めていた。無表情で。

 それにしてもなんなんだこいつら。俺たちはコントを見ているほど暇じゃないんだ。これから魔王様とデートが待っているというのに。

 女に土下座をしていた男は立ち上がると無礼を詫びるように、自己紹介を始めた。


 「えーっといきなり攻撃をしてすまない。僕の名前はエヴァンだ。さっき奴隷が…」


 先程まで俺たちが暴れていたのは路地とはいえ民家が並ぶ街の中。住人が通報したのだろう、遠くから警備と思しき人たちが駆け寄ってきていた。


 「自己紹介しているところ申し訳ないのだが、ひとまずこの場を離れたほうがいいのではないかの」


 「やべっ、警備だ!おい!幼女とその赤いネクタイのお前!とりあえず逃げるぞ!!ついてこい!」


 「だ、だれが幼女だ~!!!」


 襲われたわけも知りたいので、仕方なく俺たちはそのキャラの濃いエヴァン一行に付いて行くことにした。魔王様可愛い。




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