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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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007 魔王の考察

 


 「私たちは奴隷商人を見つけ出し最終的に奴隷として捉えられた魔族を救うことを目的として動いておる。」


 昨日の晩、奴隷商人の話題になった時イリーナが怒りを垣間見せていたのは知っていた。

 アンスヘルムが箝口されていると言っていることから、あのボロ屋で行われていることは他言できない危険なことだということも俺はある程度察することができた。

 が、まさかその奴隷を開放しようと動いているところまでは予想できなかった。

 どういうことだ?なぜ魔王様達が動く。そういうのはこの国の警察に任せておけばいいのではないか。一般人、ましてや魔王様のような魔族が踏み込んでしまったら飛んで火に()()の幼女じゃないか。


 「警察には…、この国の警備隊のようなものには言っていないのですか?」


 「残念じゃが奴隷商売の顧客の多くは貴族なのだ。出資者である貴族の息が掛かっている以上下手に口出しすれば目をつけられるやもしれん。それを避けたいのじゃ。」


 目をつけられるという単語に違和感を感じたがすぐ溜飲が下がった。

 そうだった。俺たちはさも当然のように奴隷商人の存在を認めた前提で話しているが、奴隷商人自体が裏の存在。国民のほとんどはその存在を認知すらしていない。それなのに警備隊に「奴隷がー」なんて駆けつけたら変な目で見られるのは当然だ。下手すれば奴隷競売に関与している貴族にまで知れ渡りかえって危険で、自由に動けなくなる可能性があるというわけか。


 「で、何故、私たちがあのボロ屋を拠点にしているかということなのだが。率直に言うとここの領主ダグニスク・バックハウスという男を疑っているからなのだ。」


 「何故それがあのボロ屋につながるのですか?」


 「いいか、ツカサよ。バックハウスは領主だ。つまりの、ここら一体の不動産を管理している。もちろん直接管理しているとは限らないがの。」


 「だからわざわざ街外れにボロ屋を?逆に怪しまれると思うのですが。」


 「まさか。それだけではないのだ。この理由を話すには何故バックハウスを疑っているのかを話さなければならない。」

 

 俺は頷いた。


 「疑っている理由は三つ。まず一つ、捜索願が取り下げられていない魔族の行方不明者が他の州より群を抜いて多い。それもこのバックハウス領の近郊の通りでの。二つ目、バックハウスが一時期度々王都で目撃されていた。特に行事やイベントがない時期にの。領主が長時間理由もなしに領を開けるのは不審すぎる。それに領主というのは納税者に報告義務があって出張するときや領を開けるときは前もって告知しなければならないのだ。それが行われていなかった時に王とで見られた。そして三つ目、この男は大の魔族嫌いで有名なのだ。最後の一つは完全に感情論だがの、理由としては十分であろう。それにこの街には何故か度々貴族が訪れているのだ。怪しいと思うだろう、ツカサ。」


 「待ってください。確かに怪しいですがそれだけではあそこに家を構えている理由が見えてきません。行方不明者が多い、王都で見かけた、魔族が嫌い。これでは全然足りないです。もう少し詳しくお願いします。俺だって協力したいんです。」


 俺は少し不安だった。今まで自分だけが蚊帳の外だったことが。まさか魔王様たちが裏でこんなことをしていたなんて思いもしなかったのだから。

 魔王様は俺のことをなだめた。そしてその路地の地面にしゃがみ込み、落ちていた石でタイルの上に軽い地図を書き説明してくれた。


 「(あせ)るでない。私だって別に()らしているわけじゃないのだ。まずの、焦点を当てるのは一つ目の理由だ。行方不明者が多いと話したがその時間帯、犯行現場が重要となってくる。行方不明者の多くは夜に街を出てどこかへ向かった者、又はどこかの街を夜に出て朝にあの街へ着く予定だった者たちだ。つまり犯行は夜。夜となると街はどうだ。警備が街近辺を多くうろついておる。ルートはこういうルートだ。つまりここらへんで人攫いを行うことはリスクが高いということだ。残されたルートはここ一帯。つまりこの辺で人さらいを行っている可能性があると考えたのだ。今まで話したことすべてが私たちが彼処(あそこ)に拠点を構えた理由だ。」


 「つまり、誘拐現場だと思しき所が近いからあのボロ屋に住んでいると?」


 「そういう感じだな。それに夜、旅人でもない私たちが町の中から外へ出ること等怪しすぎるしの。」


 街の中に家を建てたら警備が万全な分自由に行動できなくなる危険性がある。


 「え、っていうことは今まで一週間俺が寝ている間に夜外に出ていたってことですか?」


 「いや、ツカサが来てからは夜は一回も外出しておらんはずだが。」


 「まだ家がボロ屋な理由は話していませんが。」


 「いいかツカサ。お主のいた世界ではどうだったかは知らぬが辺境の土地にいきなり、いきなりじゃぞ?豪邸がドーンと建っていたらどう思うのじゃ?」


 「はい怪しいです・・・。」


 いや、別に豪邸じゃなくてもいいと思うのだがこれはつっこんではいけないんだろうか。 


 「それにあそこはまだバックハウス領内、私たち魔族がそこに家なんて建てたり買ったりしてばれたりしたらまずいのだ。だから、元あった家を言い値で買い取り、3カ月ほど前から拠点にしたというわけだ。もちろん秘密という制約つきでの。」


 つまり、深夜に出入りしていても怪しまれない、かつ犯行が行われる確率が高い場所の近所でという物件があそこしかなかったというわけか。しょうがなくボロ屋にすんでいるわけね。なんかもっと重大が理由があるのかと思っていたがそんなことはなかったみたいだ。

 魔王様は立ち上がると大きく咳払いをして続けた。


 「ここまではあの家を選んだ理由だ。ここからは私たちがそれによって知った事実だ。」


 「ちょっと待ってください。遮って悪いんですが、何故ここ一帯で行方不明者が多いのに王都の警備や騎士団は今まで何も動いていないんですか。それに三か月前からあそこに張っていたって成果はなにもなかったのですか?」


 「残念ながら、何の成果も得られませんでしたア!での…。旅人やドラグノの幌車を引く商人くらいしか確認できんかったのだ…。」


 「そうですか…」


 三か月も張ってて成果がなしは辛いだろう。相手が上手(うわて)で気づかれないように犯行を行っていたか、それともこの間に一切犯行が行われていなかったかのどちらかであることは確かなはずだが確認するすべもないようだ。。


 「で、前者の質問ですが…。」


 「それはお主も知っておるはずだ。先日物の怪狩りに森へ入っただろう。あの森実は迷いの森と呼ばれておっての。道行く人間や魔族を引き込むと噂されており、森の奥深くではエルフ族の末裔がこっそり過ごしておるとさえ言われておるのだ。まぁ、あくまで噂だがの」


 待て。俺はそんな危ない所に物の怪狩りに入ったって言うのか。あの森の(ぬし)もかなり気品あったしもしかして相当危険なところだったのではないだろうか。


 「ふふっ、安心するのだツカサ。ギンをつけたのだから迷うことはない。ギンの嗅覚があれば戻ってくることなど容易だ。それにあの森は私の友達がおる。見失ってもお主くらいささっと見つけられるのだ。」


 ほっ、とした。心の底からため息が出た。それよりその森で過ごしている友達のほうに驚きを隠せない。


 「つまり、つまりあの辺一帯は行方不明者頻発地帯。よって王都の警備団や騎士団も森に迷い込んだのだと判断したのだろう。」


 「それに乗じて魔族を攫っているということですね。」


 「うぬ、そういうことだ。で、先程の話に戻るぞ」


 魔王様は続ける。


 「アン達は昨日奴隷商人の噂を聞く、と言っておったのだな」


 「はい、イリーナが王都に奴隷商人がいるという噂を聞いたと言っていました。」


 「では『王都に奴隷商人がいる』という噂はいったいどうして国は動かない。奴隷制度はとうの昔に廃止されており重罪だ。お主のいた国の『覗き』と同じくらいだろう。」


 そういえば口から出まかせで覗きは極刑なんて言ったんだったな。覗きと同じってなんだか刑がすっごい軽く聞こえてしまう。(風呂場の覗きは数日の拘留または私財没収)


 「噂になっていれば警備や王国騎士団を伝って愚王に伝わって何かしらアクションはあるはずだ。それなのに何故動かない。」


 王様を愚王って…。怒りのあまりか…。

 でも本当になぜ動かない。噂というのは怖いものですぐ広まる。ましてや奴隷なんて噂が飛び出して来たら…。考えられることは何だ。何故伝わらない。もうすでに王都がどっぷり魔の手に染まっているということか。いや、この国の事情は知らないが流石に国に努める者たちが国民を裏切るようなことはしないはずだ。俺も国民のために仕事をしてきたように…。

 もしかして…


 「警備のトップがもし上に告げるのを()き止めていればの噂は王様まで届かない…?」


 「ずいぶん考えておったようだが違うの」


 すごい恥ずかしい。なにが「もしかして…」だよ。穴があったら尻をかくしたいね。


 「だが、惜しい。お主はがんばった。70点を進呈しよう」


 魔王様から70点をもらった。もちろん百点満点中であることを願いたい。


 「塞き止めているのは警備でも王国騎士団でも貴族でもない。バックハウス。この街のみで広がる噂を塞き止めているのはバックハウスなのだ。噂自体は王都では一切流れておらんのだから。そして私が王都で聞き込みをしたせいで逆に『奴隷について嗅ぎまわっている怪しい幼女がいる』と噂になってしまったわい。怪しまれないように警備に通報しなかったのにこれじゃ水の泡じゃないかーーーーーー!私のバカ者ーーーー!そして幼女じゃなーーーーーい!!!」


 いえ、魔王様は幼女です。

 なるほど。この噂自体片田舎の街というマイノリティのみの小さい噂。街の住人が奴隷の噂を聞きつけ、街の警備がそれを耳にする。更にそれを領主に報告するが動かない。それは領主が黒幕だから。


 「先程聞いただろう。あの青果店の店主が奴隷に関する噂を口にしているのを。それは思いっきりおかしいのだ。奴隷商人と聞けば普通は裏で行われている取引のはず。なんせ、重罪なのだからの。それなのに何故善良な一般市民にまでその情報が流れてしまうのだ。」


 「何故ですか。」


 「意図的に噂を流している者がいると考えられる。それもかなりリアリティのある。」


 「それがもし領主の狙いで錯乱作戦だとしたら」


 「わざわざ、自分の立場が不利になる様なことをすまい。ただ、領主や貴族以外の人が本当は黒幕だった場合はありえるかもの。そうだった場合はお手上げだの。」


 ハッハッハと笑っているが全然笑えない。今までの間王様の苦労が水の泡になってしまうじゃないか。だから俺はそうであっていてほしいと祈ることしかできない。この世界に神がいるなら。


 「それともうひとつ、これは本当に偶然あの家に住んだことによって手がかりを見つけたのだ。昨日行った民家があるじゃろ。」


 「はい、あの魔族だからって突っ返された家ですよね。俺は悲しい気持ちになりましたよ。」


 「二回目であれど私もとても悲しかったの。」


 魔王様はしょんぼりと肩を落とした。


 「での、あの民家は元は祖母、祖父、孫娘の三人暮らしだったのだ。しかしある日孫娘が突然失踪したらしい。そして、いなくなったとおばさんがあの集落の人に触れ回ってから数日後の夜、バックハウスに似た小太りの男が、黒いフードをかぶった奴ら数人を引き連れあの民家の中に入っていくのを見たという住人がいたのだ。それからというものその家の父親はほとんど顔見せることなく、あんなに心配していた母親も全くその話題を口にすることはなくなったという。どうだ。なんだかきな臭い話であろう?」


 娘が突然失踪しただけで充分怪しいのにそこに偶然領主に似た男が現れた。それに、あの突っ返した態度…若干期になるところはあったが人身売買に加担しているということか。


 「では、昨日魔王さまがあの民家へ行ったのは・・・」


 「野菜が余ったからというのは作戦だ。あの家に行ったのは様子をもっと見るためって思ったのだが全く取り入ってくれなかったの。しかし収穫はあった。人はいるのに郵便受けには書類が溜まっておったし畑も全く手入れがされていなかった。そして何より、ツカサの位置からは見えなかったであろうが扉の向こう側に黒いフードをかぶった輩が見えたのだ。きっとそ奴が例の領主が引き連れいていたという者出間違いないだろう。」


 よくよく思い返してみればあの老婦人はどこか余所余所しかった。余所余所しかったというより何かにおびえているようだった気がする。あくまで可能性の問題だが、昨日の老婦人が魔族を突っ返すような態度を見せていたのは、後ろにそのフードがいたからだと考えることもできる。んじゃ、なんだ。あのおばさんたちは脅されていたっていうのか?いや、それは現段階では決めつけられない。あくまで可能性だ。悲しげな表情を見た俺からしたらそうであってほしいがな

 それにしてもそんな大事なこと何故俺に言ってくれなかったのだろうか。俺としてはもっと頼ってほしい気持ちでいっぱいなのだが。

 いや、魔王様のことだ。以前物の怪退治の時に俺はそう過信をして失敗している。だから、ここで魔王様が俺に口を開かなかったのは俺のためを思ってだろう。

 それにしても驚愕だ。ただの激かわロリ幼女だとばかり思っていたのだが、こんなに思慮深く、観察力がある少女だとは思わなかった。俺も郵便受けや畑に関しては奇妙だとは感じていたが俺が関与することでもないと対して気にしていなかった。


 「あ、ツカサ!あの集落へ行き、あの民家について情報収集していたということは、アンスヘルム達には言わないでおいてくれるか!」


 その情報は彼らで共有しているものだと思っていたが…。そんなこと言っている場合なのだろうか。


 「アンは心配性で私が一人でどこかへ行くのを許さないのだ。だからきっと一人であの集落、ましてや人間たちたくさんいる村に一人で行ってたのを知られては怒られてしまう。だから…」


 人差し指を口と鼻にかざし、内緒でな!とウィンクをする魔王様。魔王様のことだ何か考えがあって秘密にしておくのだろう。

 それにこんな顔を魅せられて内緒にしない奴がいるわけない。俺はその姿を心のスナップショットに保存し大事に保存しておくことにした。







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