006 貴族の話
街が見えてからしばらく走っていると、一軒の藁葺き屋根の小屋が見えてきた。そこからは同じようにドラグノに乗った人が、出たり入ったりしている。
街に入ると人通りが多くなってドラグノは邪魔になってしまうから街の郊外のここ、ドラグノ管理センターに預けるそうだ。ここでは貸出も行っており、返す時は一番近いドラグノ管理センターに返せばいいらしい。
まるでレンタカーみたいだな。
俺たちはドラグノから降り、ツカツカと入口からドラグノを引き連れて中に入った。中はとても広々としており、入ってすぐ左側には休憩スペース、右側にはドラグノの鞍や鎧等のドラグノ専用の商品が並ぶお店があった。
正面の中央には貸出と預託のカウンターが3つずつ並んでおり、そのカウンターの右側は奥の部屋へと続く通りになって、そこから貸出用や預けるドラグノが出たり入ったりしている。どうやら、ここで書類を書けば飼育委員がドラグノを奥まで連れて行ってくれるみたいだ。
「はーい、こんにちは~。こちらドラグノ管理センターでございま~す。本日はえ~と、お預かりですね~。ここにお名前とドラグノの種類をお書きくださ~い。あと今日はどのくらいお御預けになりますか?現金は後払いになりますが一応確認させていただきますね~朝から日が沈むまでは一律50グラン明日の日の出までだと100グランになりま~す」
白のブラウスに青色のスカートの制服、赤い蝶ネクタイはとても目を引くがそのやる気のなさはどうにかならないのか。魔王様も慣れているのかスラスラと書類を書き上げた。
グランというのはここでの通貨の名称らしいがお金を持っていない俺はその価値がどれくらいなのかは知る由もない。
ちなみに名前の欄には『ツカサ』と記入した。魔王様の本名は誰も知らない。アンスヘルム達でさえ教えてもらっていないらしい。魔王様の本名・・・私気になります!
「名前を貸してくれツカサ。」
「お好きに使いください。魔王様」
名前を貸してくれだなんて・・・。俺の心はもうすでに魔王様に奪われているのに。今さら名前だけなんて言わずにもっと全部もらってくれてもいいのですが。
「では、この13番の鍵をあずけますね。これをなくしてしまったら面倒なことになるんで決っっっっしてなくさないでくださいよ~!ありがとうございました~」
俺はその鍵を受け取りスラックスの右ポケットにしまった。魔王様はドラグノの鞍からお金の入った布袋を外した。
いつも外出するときはポーチにその布袋を入れてお金の持ち運びをしているらしいが今日は急いでいたからかそのポーチを忘れてしまったらしい。
その布袋を綺麗なドレスを着た魔王様が持ち歩くのは『俺の』精神衛生上よくないから持ってあげることにした。
ドラグノは飼育員に連れられ奥へ消えていった。
管理センターをでると街まで道が一本伸びており、両側は草原が広がっている。ここらへんには先ほどのドラグノ管理センターくらいしか建物がなかったが、街のはずれでもこの道は俺たちのようにドラグノに乗ってきた人が行き交うからなのか人通りは多い。
中には猫のようなしっぽの生えた魔族や深緑色の背の低いゴブリンのような魔族も見かけた。
そして10分も歩けば、そこはたくさんの人が交差する街の中だった。
地面は様々な色をしたタイルで塗装されており、街道に並ぶ家も落ち着いた色をしたレンガのような石材が積まれて構築されていた。
この通りには食料店が並び、果だけでなく魚に肉等の食べ物がたくさん並んでいた。魔王様も楽しそうにそれらを眺めて時には店先の商人と楽しそうに会話をしていた。
「へーい!綺麗なお嬢ちゃん!みてくれよこの、トマの実!ツヤッツヤだろ?」
「まだまだじゃの!私の畑で育てているトマの実の方が色も鮮度も完璧だ!」
「ありゃ、卸し専門か?どうだい?これよりいい野菜がとれるって言うならうちで卸さないかい?」
「残念だな、ご主人!私は趣味でやっているのだ!ここに卸せる程の量はない!」
「こりゃまいった!でも味は食べてみないとわからないだろ?どうだいお嬢ちゃん、1つ買ってかないかい?」
「うーぬ、しょうがないのう!2つもらおうか!おいツカサ!財布をかしておくれ!」
魔王様はすっかり八百屋さんの商売文句に乗せられトマの実を買ってしまった。
なんという無慈悲な主人だ。こんな可愛げな少女からお金を巻き上げるなんて。このひとでなし!
俺が店主であれば「おっふ、お嬢ちゃん可愛いから好きなだけ持って行っていいよ」くらい気を利かせるのは確実だ。
「毎度有り!ほらお嬢ちゃん可愛いからアプの実サービスだ。」
「主人!わかっているでないか!ナーッハッハッハ!!」
さすが主人。可愛さを考慮している。俺はその店主に密かにプラス10ポイント贈呈した。
八百屋の主人は魔王様の真似をするように高笑いをしトマの実とアプの実を魔王様に手渡しをしてる。周りがみえていないのか凄い視線が集まっている。魔王様は持っていた布袋を俺に返した。
「そういえば店主よ、モグモグ。今日はやけに人が多いようだが何かあるのか?」
魔王様は早速アプの実を食べながら店主と会話を続けた。俺もひとつトマの実を頂いた。ん、美味い。魔王様のには劣るが。
それにここの人通りの多さはこれが普通じゃないようだった。魔王様は以前に何回かこの街に来ておりいつもと違う様子に疑問を抱いたみたいだ。
「あぁ、お嬢ちゃんは関係者じゃなかったのかい。綺麗な服着ているからその手のもんだと思ったから声をかけたんだがな。で、なんで人が多いかというと今日はどうやら王都から貴族が来るって話だ。そんな貴族を一目見ようと人が集まっているってわけだな。まぁ、俺らみたいな小売商からしたらそういう日は儲け時ってことよ。」
つまり、総理大臣や国会議員が視察に来るようなものだな。別に政治に興味あるわけじゃないが、なんか有名な人が来ているから集まろうっていう集団心理だろう。
魔王様が二つ目のトマの実を口にした時、声を大にして言えない話題なのか店主は魔王さまの目線に合わせ小声でその貴族について話した。
「あまり大声で言えない話だけどね。なんでも噂によれば、その貴族は魔族が大の嫌いで、例の人身売買に一枚かんでいるとかいないとか・・・。って、こんな話お嬢ちゃんにする話じゃねーか!悪い癖だな!ガーッハッハッハッハ!!!」
「・・・。そうじゃの!!何を言っているのかさっぱりわからんかったのう!!ナーッハッハッハ!!」
その話題は俺にとってあまりにも真実味を帯びていた。昨日の今日で人身売買という単語を二度と聞くとは思わなかった。魔王様とて魔族人身売買や奴隷について知らないわけがない。魔王様は気丈に笑っているが内心穏やかじゃないだろう。
じゃあの!と八百屋の店主に手を振る魔王様、俺もありがとうございましたと礼をする。
別れを告げた魔王様は足早にこの通りを抜けて一通りの少ないに路地入った。辺りを見渡し魔王様は先ほど話の確認をしてきた。
「ツカサ、今の話聞いていたか。」
「はい、聞いていました。」
貴族が人身売買に関わっているという噂を。
そして俺は昨日アンスヘルムやイリーナ、ギンから奴隷の話を聞いたことを話した。
「そうか。アン達がそれを話したのか。私たちがなぜあのボロ屋にいるのか、先ほど道中で聞いたということは昨日はアンたちに聞いていないのだな」
「いえ、アンスヘルム達に聞いたのですが彼らは魔王様に誰にも言うなと言われているから言えないと言っていましたね。」
魔王様はそれを聞くと呆けた顔をした後に顔を綻ばせて胸をなでおろした。きっと嬉しかったんだろう。なんせ魔王様が一番信頼している者が自分を信頼してくれているんだから。
例え昨日ギンがあのまま何か口を滑らせていたとしても魔王様は彼らの評価を下げることはしないし、非難もしないと思う。別に忠誠心を問うための試練というわけでもない。ただ単に嬉しかっただけだと思う。
感謝しろよ、ギン。お前がいいそうになっていたことは言わないでおいてやったぞ。
魔王様は再びこちらを向き言った。
「話そう、私たちがあの家で何をしているのかを」
魔王様はいつになく真剣な顔でそう言った




