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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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005 貨幣の在り処

 ――時は今に戻ってツカサが来てから1週間後の翌朝。





 「うぅ~頭痛がする~頭痛い~」


 「助けてくれ兄貴ィ~」


 今日もいい天気だ。朝方の冷えた空気も徐々に熱を帯びて、夏の気温に変わっていく。見ての通り、イリーナとギンは昨日の銘酒『天泉』で二日酔いに充てられており、廊下でアンデッドのように床を這っている。タダの自業自得だ。

 アンスヘルムはというと、まだ部屋で寝ている。遅くまで起きていたのだろうか。

 そういえば、ここへ来た翌日に一応この家の間取りは確認しておいた。

 家はボロい平屋の割に広々としており、リビングの他に5つ部屋がある5LDKの構造だった。リビング、ダイニングキッチンはあわせて20畳くらいの広さが設けられており、体の大きいアンスヘルムがいても不自由はしない広さだ。5つの部屋は各々の寝室となっており、魔王様、イリーナ、アンスヘルム、ギン、そして元空き部屋の俺の部屋で構成されている。

 リビングから廊下が一本伸びており、その廊下を軸にして左右に部屋が設けられていた。

 いつもの通りリビングの扉を開けると、エプロン姿の魔王さまが窓際のロッキングチェアに座って読書をしていた。何を読んでいるのか、ここからは分からないが緩むその頬はもちもちと柔らかそうで、椅子が前後に揺れている様子から退屈しない読み物だということが分かる。

 キラキラと窓から降り注ぐ太陽の光はまるで魔王様にスポットライトをあてているかのように錯覚させ、黒く艶やかなその長い髪の毛は、魔王様をより優艶に映していた。

 相変わらずエプロン姿可愛いなおい!!!!!

 魔王様は俺の扉の閉める音でこちらに気づいたらしく、おはようと笑顔で言ってくれた。


 「おはようございます。魔王様」


 朝ごはんを作っていたのだろう、肉とタマゴの香ばしい匂いが俺の嗅覚を刺激する。

 テーブルには、昨日とった野菜のサラダと目玉焼き、ベーコン、かごに入った数個のパンが並べられおり、まだ起きてきていないアンスヘルムや、そこでくたばっているギンとイリーナを思ってか、キッチンパラソルが被せられていた。

 パタンと本を閉じて立ち上がり、サラサラと長い髪を(なび)かせ、扉の前に立つ俺の方へ近づいてきて言った。


「ツカサ、今日は街へ行かないか?」


 魔王様は街に往くと言った。

 街。魔王様やギンやイリーナは度々街へ足を運び何かをしているようだったが俺は一度も伺ったことがない。それにここに来てからというもの魔王様と遊ぶ・・・ん"ん”ッ、魔王様のお手伝いや物の怪退治DIY等やることはなんだかんだ言ってあったし、あまりこの家から離れることはしなかった。昨日の村を除いては。

 

 「ツカサにその服は似合わない!服を買いにいこう!」


 びっくり仰天!魔王様は、居候である俺の衣服にまで気を使ってくれていた。涙が出てしまいそうだ。

 確かに今着ている服はギンのお古で俺には似合っていないと感じている。先日、山での物の怪狩りの時にスーツの上着をダメにしたのもあるし、農作業とか汚れ仕事が多いから普段は体格が一番近いギンのイカした動きやすい服を借りているというわけだ。


 「アンスヘルムは許してくれるのですか?流石に俺だけでは・・・」


 アンスヘルムは俺を信用していないと水浴びの際に俺に言った。だから俺も答える。その疑いが俺の信用に繋がるなら、と何処の馬の骨かもわからない俺を信用するなと。


「さっき聞いたら「ツカサ殿の服ですか。いいですよ。ツカサ殿が一緒なら大丈夫でしょう。むにゃむにゃ」って言ってたぞ!だから心配するな」


 なんということだ。アンスヘルムはどうやら完全に油断してしまっているらしい。俺との約束はどうしたというのだ。俺が魔王様を可愛さのあまり誘拐してしまうかもしれないというのに。

 それに魔王様のアンスヘルムの声真似は全然似ていなかった。可愛い。


 「で、ですが魔王様・・・」


 魔王様は俺の話を聞かず突然振り返り数歩下がっていった。何かブツブツと呟いたかと思うと、驚くほどの速さで俺の左隣に移動してみせた。本棚や食器たちが風圧でガタガタと音を立てるほどの移動だ。


「案ずるな、ツカサ。こんなナリで説得力はないが、見ての通り、ツカサが思っているほど私は弱くない。それにツカサも今の速さを目で追えていたではないか。イザとなったら守ってくれ給え!」


 上目遣いで俺の顔を覗き込む魔王様は、いつもになく小悪魔チックに笑ってみせた。

 言いたいのはそういうことじゃなくて、俺が悪逆非道の極悪人だったらどうするのかと言いたかったのだが魔王様はわかっていない様子だ。魔王様は大人びているだけの子供なのか、ただの子供なのか不思議である。

 ってか守るって言ったって魔王様のほうが絶対強いじゃないですか!


「そうだよツカサくん。」


 アンデッドのように床を這ってでてきたイリーナに俺は驚いた。

 イリーナはグテーとやる気皆無の説得を始めた。


 「ツカサくんは力も知恵もあるし、頭の回転も早いから私は任せられるよ。アンはいくら寝ぼけてても適当なこと言わないし、大丈夫大丈夫―。」


 厚い信頼は本当に嬉しい限りなのだが、イリーナ。お前とギンが昨日酔わなければいいだけの話だったのではないだろうか。


 「私とギンはこんな状態だしアンは寝てるしね。頼んだよー」


 イリーナは床に突っ伏してヒラヒラと手を振ってる。


 「んじゃツカサ!ご飯を食べて準備しろ!早急にな!」





――道中


 ドラグノ。この生物は魔王様が裏の森で放し飼いをしている小型の移動用動物だ。小型がいるということは大型もいるということだろう。

 と、いうわけで今回は街までこのドラグノに乗っていくみたいだ。このドラグノは、畑の前あたりで魔王様が笛を吹いくと集まってくる。一目見たときは昔見た映画に出てきた恐竜の『ヴェロキラプトル』を彷彿とさせたが、おとなしい雑食動物で人間や魔族は襲わず小動物やキノコを餌にしているらしい。首の下をなでると悦ぶ。

 アンスヘルムがいれば背中に乗せて飛んでいってくれるらしいが、いくら魔王様が小さくて可愛くても俺と一緒に載せていくのはアンスヘルムといえど難しいだろう。

 あの後、早急にご飯を食べて、外出用にあっちの世界から持ってきた衣服を出した。ジャケットはボロボロだから置いていくとして、紺のワイシャツと赤に白ドッドのネクタイ、黒のスラックスに着替えた。

 街へ行くんだ。ギンの部屋着は恥ずかしくて来ていけない。コンビニにスウェットとクロックスで行くのとはわけが違うからね。ギンは悪くない。悪いのはギンのセンスだ。

 魔王様も黒の長い髪の毛を両サイドで三つ編みにして後ろで結うような髪型をしていた。

 初めて出会った時に着ている服を着ている。その黒を基調とした魔王っぽい服は色気をプンプンと薫らせていた。この服も魔王様に着られて光栄だろう。

 魔王様は小さい手で手綱(たずな)を握り、前傾姿勢でドラグノに揺られながらチラっとこっちを向いた。


 「ツカサはそういう服のほうが似合ってるぞー!」


 魔王様の方が似合っている。俺のアルマーニのスーツなんて魔王様の服と比べたら【自主規制】同然だ。


 「ありがとうございます魔王様!魔王様も似合っていますよ!」


 俺も手綱をしっかり握り締め、前を見据えた。

 このドラグノに騎乗する時の注意点だが、ドラグノは馬と違い二足歩行のためバランスが悪い。走っている最中は重心をドラグノに合わせるためドラグノと同じような姿勢、つまり前傾姿勢を維持することが重要だ。徐々に体を起こし重心を後ろ足の方へずらしていくとドラグノも同じように首を上げスピードを落としていき、止まる。急に体を起こすドラグノも急に止まるが、体に負荷がかかるためあまりしない方がいい。左右への移動も重心を右や左にずらすことで行うことができる。

 要は、重心の移動を意識すればなんとかなるということだな。俺はもう慣れた。

 昔テキサスで乗った馬とは勝手が違うが、ある意味馬より扱いやすくてこれはこれでいいのかもしれない。

 そうやってドラグノを走らせていると、歩行者や同じドラグノ乗りとすれ違ったり追い越したりする機会が増えた。街が近づいてきたのだろう。魔王様はゆっくりと体を起こしてスピードを落とした。


「ツカサ、あと少しだから。楽しみに待っておれ!」


「はい、魔王様。」


 そういえば買い物するにしても、今更だが俺自身この国の通貨を持ち合わせていない。魔王様はお金を持っているのだろうか。『ツカサ!私は服を買いに行こうといっただけで私が買うとは言っていないぞ!ガッハッハッハ!バカめ!』 なんて意地悪されたらどうしよう…。それはそれでありか。

 前の世界では金に困ることはなかったが今はニート。無職。プー太郎だ。ここの世界で働くにはどうすればいいんだ。いつまでも魔王様に頼ってばっかりじゃ召使として(自称)示しがつかん。俺の力を活かせる場所があればいいのだが…。


 「魔王様、俺、この国の通貨持っていないのですが・・・。金銭の余裕はあるのでしょうか?」


 「うむ、心配なぞいらん。服を買うお金と遊ぶお金も持ってきておいたからな!」


 そう言ってドラグノの鞍に引っ掛けていた布銀着を取り出した。貨幣価値がどれくらいかわからんが、ジャラジャラと音が鳴るくらい持っているのだから大丈夫だろう。

 何故かボロ屋を想像してしまうが最初自己紹介の時に「私は偉いんだぞ!」と言っていたからお金に関しては心配いらないのか。

 そういえば昨日ギンが言いかけてたな。「わけあってこの家にいる」みたいなことを。アンスヘルムは魔王様に聞いてみろといってたしそれとなく聞いてみるのもありか。


 「そういえば魔王様はなんであのボロ屋に住んでいるのですか?お金はいっぱいあるんですよね?」


 魔王様はあっ、という顔になったと思ったら今度はうーんと考える仕草をしている。

 魔王様、言いたくなかったら言えないんだといえばいいのに。魔王様は本当に優しいお方だ。


 「後でいう!」


 後で言うの?後でなら言ってくれるのか?なんで今言えないの?

 その理由はすぐわかった。


 「ほら!もう街が見えてきたぞ!続きは絶対あとで話すから早く往くぞ!」


 話すと長くなるのだろう。続きはあとで話すと言っているし、あまり踏み込んでいい話題でもない気がしたから気にせず魔王様の後を急いで追いかけていった。





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