004 人間が嫌い
――これはツカサが眠っている時の話
森の上空を飛行しているのは、イリーナと魔王を背中に乗せたアンスヘルム。飛ぶことができないギンは四足歩行になり木々の間を駆け抜けていた。
ようやく家も見えてきたというところで、家の前に何かが倒れているのに気づいた。
それは人間のツカサだった。一週間前に魔王に助けられる前は、こうやって魔王の家の前にうつ伏せで倒れていたのだ。
「げっ、なんでこんなところに人間が倒れてるんだよー!」
至極真っ当な意見である。身なりのしっかりした人間の男が家の前で倒れているのはどう考えても怪しいのだから。
「うむ、どうやら息はあるらしい。もしかして、お腹が減って倒れてしまっているのかも」
そんなわけあるか。と一同心象ツッコミをいれる。
魔王様はふと考えるそぶりをして、いった。
「ここで寝かせておくのは危ないな。一旦家の中に入れよう。」
この魔王、極度のお人好しで困っている人がいたらだれでも助けてしまうという性格の持ち主だった。
「魔王様ァ、人間なんて助ける必要ないじゃないですかァ!」
「そうだよ魔王様―!散々ひどいことされてきたじゃんかー」
「諦めなさい二人とも。魔王様はそういう性格です。」
ブーっとほっぺを膨らませ反抗する魔王。
「この人は私たちになにかしたわけじゃない。困っている人がいたら助ける。それでいいであろう。こんなところにほっぽっておいて物の怪にでも襲われたらどうするのだ。それこそ後々バツが悪くなるであろう。」
魔王はいつもこうだ。誰であろうと手を差し伸べる。それが人間であろうと。
「しかし、お前たち誰かが傷つけられたら、私とて容赦はせん!だから今回も私を信じてくれないか!」
3ニンは顔を見合わせ、諦めたように肩を竦めた。
「「「やれやれ。」だぜぇ」ですね」
こうなってしまっては誰にも止められない。やると言ったらやるのが魔王なのだから。けれども、この誰にでも手を差し伸べてしまう性格は当分先の「魔王・誘拐事件」の引き金になることは誰も知る由はなかった。
「ありがとう!お前たち!」
「いいんですよ、魔王様。貴方はこうなってしまっては誰にも止められませんからね、っと」
ツカサの鍛え上げられた体躯を軽々と持ち上げる龍族のアン。意外にも重たかったことに内心驚くが、気にするほどではない。魔王様がボロい家の扉を開け、ツカサは一番奥の空き部屋に寝かされた。
魔王とギンは夜ご飯の準備を始め、イリーナとアンはその空き部屋の軽い掃除を始める。
「イリーナ、その人間の上着脱がせてやりなさい。いくら夜といえど、夏場にその格好は暑いでしょうからね」
「ちぇっ・・・。アンまで魔王様みたいなこと言ってー。一番人間嫌いなのはお前だろー」
「・・・」
ハイハイとめんどうくさそうに言いつつも、上着を器用に脱がせてみせた。
「ほぉ~意外といい体してるぜ~この人間。食べちゃいたいくらいだーアハハ」
ビルから落下した直後にまた命の危機にさらされていたことをツカサは知ることはない。
「ん?なんじゃこりゃ。」
月明かりに煌いた腰の銃を、ベッド周辺を整頓していたらイリーナは発見した。エリーナはホルスターごとそれを取り出し、興味深そうに見ている。
さらにイリーナが全身をくまなく眺めていると、また面白いものを発見した。
「この丸いもの・・・動いてるぞ!おい!アン!これどうやってはずすんだ!」
「はぁ~、まったく。勝手に人のものをとるなんて・・・ん?これどうなってるんですかね?」
大きい手を器用に操り、腕時計を外した。
「そう言いながら、ノリノリで外すなよ~」
「どこの国の装飾品でしょうか。見たことないです」
この世界には時間という概念はあるものの、ツカサのいた世界のように一分一秒と細かい認識はしておらず、明け方、朝、昼、夕方、夜、深夜程度の区別しかしていなかった。
「魔王様ー!この人間面白いもの持ってたぞー!」
イリーナは部屋を飛び出して、魔王に人間から獲得した面白いものを見せていた。
「見て見て魔王様!これすごくない!?こーんなに小さい円盤の中でこーーーんなに細い棒が等間隔に動いているんだよ!あの人間只者じゃないな。」
キランっと顎に手を起き、にやけるイリーナ。
「けぇっ!なんだよイリーナァ!お前さん人間の肩持つようになったの…ってなんだこれすげェ!」
「私にも見せてくれ!なあ、ギン!おい、ギン!!」
料理中にも変わらず興味津々の魔王とギンであった。
一方アンはヒトリ部屋で人間を見つめ何かを考えている。
アンは人間に恨みを持つ魔族の一人だ。
アンの境遇を考えればここでツカサを殺してしまってもおかしくない。
見ず知らずの人間、ましてや寝ている人間など、バラして埋めることなど容易いだろうから。
しかし、アンはそれをやらない。ここでそれをやってしまえば大切なものが失われる気がするから。アンもまた過去の怨恨を忘れ、今に生きようと必死なのかもしれない。
アンは部屋を後にし、光と楽しそうな声が漏れる扉の先へと向かった。
そして、ツカサが目を覚ましたのはすぐ後だった。




