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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
25/26

0017 商品は…


 「アン、大丈夫かの?」


 「はい、魔王様。私は少し気分悪いくらいで大丈夫なのですが、匂いに敏感なギンはダメみたいでイリーナももう駄目と言って寝てしまいました。」


 アンスヘルムも気丈にふるまっているがぐてーとして普段のアンスヘルムで信じられないような格好だ。魔族にとっては相当きつい匂いだということが分かる。


 「ルミーナ、すまんがその香水落としてはくれぬか?その匂い前付けていた時の匂いよりもかなり強烈になっておるぞ。こうなってしまっては流石に私も許容はできん」


 「ん~魔王ちゃんの言うことなら仕方ないわね…。でもワタシのどかわいちゃった。お水もらえるかしら。」


 「勝手にすればよい。早く落としてくれないか」


 「は~い」


 ルミーナは貯められた水桶の蓋を取りそこから水をすくい飲んだ。


 「あ、魔王ちゃんやそこの青い髪のお嬢ちゃん。そしてお前も飲むか?あぁ?」


 「うぬ、私ももらおうか。」


 「なんだその態度は。まぁいい、よこせ」


 ドラグノというのは意外と体力を使う。体力というより神経を使うと言ったほうがいいのか。

 シャルも嫌々ながらうんと頷きテーブルに置かれたコップを手に取った。

 コップに口をつけた時に俺はこの光景になんとなくだが違和感を覚えすんでで手を止めた。あれ、そういえばなんでギンとイリーナは寝ているんだ。寝ていること自体は別に問題はないのだが、何故この部屋で寝ている。

 いつもの二人ならこのルミーナとかいうめんどくさそうな相手なんてアンスヘルムに押しつけて、気分が悪かったらさっさと自室に戻って寝るはずだ。そもそも何でこいつはそんなにきつい匂いの香水を身につけているんだ。何故、唐突に俺たちに水を催促してきた。

 ギンとイリーナが突っ伏しているテーブルには(から)のコップが二つ並び、それぞれギンとイリーナの前に置いてある。アンスヘルムこそ辛そうなのに何も飲んでいないのか。

 あっと思い声を出した時にはもう遅かった。


「魔王様!シャル!それを飲んじゃあだめだ!」


「ん?」


 魔王とシャルが手に持つのはすでに(から)になったコップだった。


 「あら、気づくのがちょっと、遅かったわね」


 「なにを言っているのだ、ルミーナ…、ツ、カ…サ…?」


 魔王様は意識を失い崩れるようにしてその場に倒れこんだ。遅かった。ルミーナはこの水に何かしらの薬を盛っていたんだ。こいつが魔族が嫌いな匂いの香水をつけていたのは弱らせて、意識を香水に向けさせるための常套手段。そして、相手を弱らせることもできるくらいの強力な香水…。アンスヘルムやギン、イリーナはルミーナだからって油断していたんだ。


 「ま、魔王様!」


 アンスヘルムは座っていた椅子から倒れこむように魔王様のほうへ向かったがルミーナは背中を踏み押さえつけた。


 「あらあらあら…。かの有名な大虐殺犯の忌子(いみご)のこんなに弱っている姿…オーッホッホッホ。なんて愉快!そしてそれをふみつけるワタシ!あぁ~愉快ダワァ~!!!皆に自慢してあげなくちゃ~」


 大虐殺犯の忌子…。ルミーナはそういった。だが、この際アンスヘルムの事情は気にしていられる状態じゃない。こいつはいったい何者だ。このタイミングで俺たちをこの状態に貶めたという事実から導き出される結論は奴隷商人関係のなにかだろう。こいつは内部から俺たちを揺さぶっていたということなのか?


 「おいルミーナお前!!!」


 俺が飛びかかろうとするもルミーナは瞬時に魔王様を抱きかかえ、不敵な笑みを浮かべながら果物ナイフをその白い首筋に突き立てている。


 「あら、ツカサきゅ~ん?っていうんでしたっけ?ワタシはアナタのオークの糞みたいな性格は嫌いだけどアナタの鍛え抜かれたカラダは好きよ~。そ・れ・に。それ以上近づくとこの可愛い顔したお嬢ちゃんの首筋からドーバーっとあふれんばかりの血が出ちゃうわ~。アン、アナタもそこでじっとしていなさい」


 ルミーナはアンスヘルムをヒールの(カカト)で踏みつけアンスヘルムは入らない力を入れ必死に耐えている。ドラゴンに変態すればアンスヘルムも鎧のような硬さの皮膚を得られるというが今は匂いのせいでそれができないみたいだ。


 「よ、幼女を離して…」


 シャルのほうを見ると足元には腕から滴る血液がポトポトと流れ落ちている。太もものナイフ自らの左腕に突き刺し、今にも落ちそうな瞼を必死に開け意識を強制的に保っていた。


「あら、アナタ!女の子なのに自分の体を傷つけるようなことをして~!でも、もう大丈夫よ。ヴァンパイアの体液にマーメイドのウロコを2:8で摩り下ろした超強力な睡眠薬なんだもの!そんなことしたって直ぐ夢の中へいけるわ~ん。アンタが何者か分からないけど残念だわ~ワタシオンナのコのほうがスキだから~」


 「ツ、ツカサ…エヴァンに…頼ん…」


 とうとう意識を保てなくなったシャルはナイフを手放し、魔王様同様崩れるように深い眠りについた。


 「で、アンタはどうするの?ツカサきゅ~ん。この状況どうみてもアンタに有利とはいえないけどね~」


 「お前は俺にどうしてほしい。」


 「ワタシ的にはその水を飲んで皆と同じになってもらいたいわよ!あたりまえじゃない!」


 俺は今すごく後悔していた。この前の物の怪退治の時のように携帯していればこんなオカマの眉間なんて一発で仕留められたはずなのに、と。

 他に何か手立てはないか。もし俺がここで突っ込んだとしても魔王様に一突きされてお終いだ。魔法が使えない俺にとってそんな賭けはできない。だが待てよ。このオカマは俺が魔法を使え無い事を知らないはずだ。それを逆手(さかて)にとって…。


 「おれがここでお前に突っ込んで魔王様を刺したとしてもおれが魔法で直したらどうするつもりだ?」


 「うふふ。頭蓋骨の隙間から突き刺して魔法なんかで直らないほどぐちゃぐちゃに脳みそ掻き抉ってやるわ~!それに回復魔法なんて上位魔法あなたに使えるのかしら?カマをかけようったってそうはいかないわよ。オカマだ・け・に!うふふ~」


 どうやらダメみたいだ。手はないのか。いくら異世界だからと言って死に戻りやタイムリープ、女神が助けてくれたりするわけじゃないんだ考えろ、熟慮しろ。俺はどうすればいい。この際アンスヘルムが決死の覚悟で魔王様を助けるという手は…駄目だ。変なにおいのせいで立つことすらままならないみたいだ。だがこのオカマ、なぜ殺さない。奴隷商人を探っていた俺たちを始末するのならさっきの水に毒を入れることくらい容易かったはずだ。

 

 「一つだけ聞いていいか。」


 「何かしら?」


 「お前の目的はなんだ?」


 「うふふ、わからない?この状況?そうよね。私はあなたたちのことを始末しに来た刺客とでも思っているんでしょうけどそれは違うわ。私はこの子、魔王ちゃんを攫うことだけをずっと考えていたのよ!ふふ、おいしそうで食べちゃいたいくらい」


 ルミ-ナは魔王様の頬を長い舌でべろりと舐め上げた。


 「やめろ」


 ロリコンめ。

 

 「あら、そんなこと言える立場かしらもっとなめちゃおうかな~レロレロレロ~うふふふふ」


 俺は自分の(てのひら)に自らの爪が刺さっていることなど気にしないくらい(こぶし)を握りしめ必死に怒りを抑えた。 


 「俺達を攫うのか?」


 「ふふっ、私の目的はこの子だけ。他の奴らなんて強すぎて話にならないわ~奴隷は弱い奴から攫って行くのよ~。でもそうね。正直アナタの存在は誤算だったわ!香水はあくまで意識をそらさせるためのお取り、たいして匂いを感じないあなたにとってはなんの意味もなかったみたいね~うふふ。」


 このオカマ野郎…。だがこいつの言い振りから察するに魔王様がかなり強い事をもしかして知らないのか?それなら魔王様が目覚めた時に口さえふさがれていなかったり、仮に塞がれていたとしても食事の際は必ず口は自由になる。ならっ…!


 「お前は大きな過ちを犯したな」


 「どういうことかしら?」

 

 「いや、その小さい脳みそフル回転させて考えてみたらどうだ」


 その発言が(かん)(さわ)ったのかルミーナはアンスヘルムの背中にまた果物ナイフを突き刺し、ぐちゃぐちゃと掻きまわすように抉る。


 「ぐぅ!!」


 アンスヘルムの短い悲鳴が部屋に響く。


 「だったら早くその水を飲めっていってるのよおおおおおおおお!!!!!?!?!?」


 発狂し、ルミーナはアンスヘルムの背中へとナイフを何度も何度も突き刺す。


 「や、やめろ!!」


 「だったらさっさとその水飲みなさいよおおおおお!!!まぁ飲んだって2度と眼がさめることはないでしょうけどねええええ!!??」


 失敗した。変に煽らなければよかった。こいつの沸点はどうもおかしい。だがこの状況、飲むしかない。このまま俺がこの水を飲まなかったらアンスヘルムが傷つき続ける。魔王様が助かった時にアンスヘルムがいなかったら悲しむだろうし、この場合いなくなるのは俺で十分だ。

 こいつの怒り具合からするに飲んだ後は真っ先にこいつに殺されるだろうな。魔王様そしてアンスヘルムが少しでも助かるという可能性があるなら俺はこれを飲む以外方法はないのだから。


 「ツカサ殿!あなたがそこまでする義理は!!」


 「アン、黙りなさい」


 ナイフを刺した傷口をヒールの(かかと)で踏みにじる。

もうだめかと俺はコップを手に取りそれを口にかざした。

 と思っていたが、どうやらこっちにツキが回ってきたようだった。


 「あら、ギン…起きたみたいね」


 「ギン!」


 ギンがいれば俺たちが今おかれている状況は何とかなるのではないかと期待をした。実質2体1ならばなんとかなるのではないかと。

 しかしその思惑もギンの唐突な裏拳(うらけん)によって打ち崩された。

ギンのほうへ振り向いた瞬間鋭い裏拳(うらけん)が俺の頬を撃ち抜き、当然のことながら何が起こったか分からないままシャルのいた方向へと転倒する。


 「うっ」


 短い悲鳴を上げ、シャルの控えめな柔らかい胸に顔をうずめる。ラッキーなんて感傷に(ひた)る暇もなくすぐさまギンのほうに顔を向ける。

 そこにいたのは間違いなくギンだった。冷たい目で俺を見降ろすギンが先程殴ったほうの拳をもう片方の手で撫でている。


 「起きたみたいねって俺はもとより寝てなどいない。それよりそのきつい香水本当にどうにかしろ。」


 ギンはルミーナに対して苦言を呈したが、アンは俺が思っていたことを代弁してくれた。


 「ギン!あなたこの匂いは平気なのですか!!」


 「分かっているだろアン。俺は“今は人間”だ。確かに変態した後の俺だったらこの匂い駄目かもしれないが今は全然平気だ。多少臭いがな。水だってそいつが俺の分にだけ薬を盛らなかったらいいだけだしな」


 「あなたは…魔王様を裏切るというのですね」


 アンはギンに問いただしたがギンはそれをあざ笑うかのように鼻でわらった。


 「はっ、なぁに。俺は裏切るも裏切らないもないさ。元よりこっちの人間、いや魔族か。あんたたちは餌に食いついた魚ってだけさ。」


 餌…だと…。どういうことだ。


「簡単だった。奴隷商人について嗅ぎまわっている少女に「一緒に行方不明者を探したい。」っていうだけだ。お前らはもちろん魔族が魔族を攫ってるなんて思ってもいないだろうからな。」


 ギンは3週間前から一緒に行動をしていると魔王様が言っていたのを思い出した。

 魔族が魔族を攫うわけがないという固定観念の裏をついてまんまと餌に食いついた魔王様たちを懐柔したというわけか。

 だからこの数日間魔王様たちが夜探索しても人っ子一人誘拐された形跡がなかったんだ。自分たちが商品だなんて思いもしないのだから。


 「ギン。お前って最高にいい性格してるよ。」


 「悪いなツカサ。これも“仕事”だ」


 「ふっ、アナタって本当にひどい事するわね。さっさとこんな家燃やしていくわよ」


 「好きにしろ。」


 「あら残酷。んじゃ、ばいば~い」


 俺はルミーナ去り際に寝ているシャルの手元にあったナイフをルミーナのアキレス腱を切ってやろう手を伸ばしたがギンが俺の腕を蹴りそれを回避した。

 

 「あら危なかったわ。ありがとねギン…このドぐされ糞蟲(くそむし)がぁ!?!!?」


 ルミーナの蹴りが俺の顔面へとヒットする。


 「ふん…。最後まで殊勝なことだわ」

 

 ルミーナは皮肉を言い放つと魔王様を抱えて家を出て行った。

 蹴られたせいなのか頭がくらくらする。這いつくばりながら家の外の様子を見るとフードを被った奴が一人、昨日見た民家で見たおばんさんを担いでシャルのドラグノに乗せているところだった。


 「んじゃ、ばいば~い」


 ルミーナは満面の笑みでこのボロ屋の屋根に火を放った。




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