0016 王国騎士団
1時間ほどの長い道のりを経て俺たちは魔王邸(ボロ屋)の前についた。シャルは近くの木にドラグノの手綱を結びつけ、魔王様は何かを感じたのか。やっぱりと言ったようにうなだれていた。
そして俺も家の様子がおかしい事に気がついた。この時間帯なら家の裏手の畑からイリーナやギン、そしてアンスヘルムの声や気配がするはず。異様な静寂がこの一帯を包みこんでいる気がする。
「痴女はここで待っておれ」
「いやだ。ついて行く。」
はぁ…大きなため息をつく。
シャルはもう何と呼ばれてもいいみたいだ。
「魔王様…」
「そうか、ツカサははじめてか」
何がだ?という疑問は家の扉を開けた瞬間わかった。
「マオーちゅああああああああああん」
「うるさいわい!!!!!!」
「へぶちっっ!!!」
魔王様を確認するや否やいきなり飛びかかって抱きつこうとしたそいつを、魔王様は平手打ちでいとも簡単に返り討ちにした。
「やっぱり来ておったか。」
「うふ☆」
魔王様にいきなり飛び着いてきたその男はまるで今から社交パーティにでも向かうかのようなドレスを身にまとっていた。そう、ドレスを着ていた。スコットランドでは男性もスカートをはくと聞いたことがあるがこの国にそういう風習はないはず。多分こいつはオカマと呼ばれる男女だ。頬骨や肩幅体格や肉つきは完全に男のそれで、なぜこのような恵体の主がわざわざ女性の格好をしているのか甚だ疑問であったが彼にもそれなりのつらい過去があるのだろうと黙っていることにした。
部屋の中を見渡すとアンスヘルムは肘をついて頭を抱え、ギンとイリーナに関しては突っ伏して完全に寝ていた。まるで昨日の銘酒『天泉』を飲んだ時のようにぐったりとしている。朝出た時に見た姿とあまり変わりないがこの状態がずっと続いていたのか復活してからまたこの状態になったのかは分からない。
「魔王様、こいつはいったい…」
と魔王様にだけ聞こえるように聞いた。
はぁ…とまた大きくため息をつくと嫌々この男について述べた。
「この男はの…。私の護衛“だった”者だ。」
「“だった”とは?」
魔王様に護衛が必要なのかと思いつつ、魔王様のその男の態度に少し疑問を抱いていた。
「実は最初はこっちのボロ屋で一緒に捜索していたんだけどね。間違って魔王ちゃんの部屋で一緒に寝たら左遷されちゃった☆」
「一緒に寝たとはどういう事ですか」
それを聞いた俺は怒りとも悲しみともとれるすごい感情が心の中で混沌としていた。生娘だと思っていたのにもうすでに男を知っていたなんて。
許せなかった。あの時魔王様の寝顔を見ただけで満足した俺自身を。
「ツ、ツカサ!勘違いするなよ!私が寝ている時にこいつが勝手に部屋に忍び込んで朝起きたらベッドの中におったのだ!!!このゴミめ!!!」
「あふん。」
魔王様に再び平手打ちのご褒美を受けているそのオカマはどうやら元奴隷商人捜索のメンバーらしい。いや、護衛と言っていたからまた別なのか。
「えっとこの家に戻ってくるのを渋っていたのはこの方がいるからということに気づいたからですか」
「そうだ。」
変に勘繰っていた分安堵が俺を襲った。そうか、別に誰かを疑っていたわけじゃなかったってことか。
魔王様も魔王様で俺に言ってくれればいいのに。
「ワタシの名前はルミーナ・ハドックスよ。王国騎士団に所属しているんだけどムゴゴゴ」
「口を閉じろ変態め!!!」
魔王様はルミーナと名乗った男の口を手で押さえつけるようにふさいだ。
こちらの様子を訝しげに見ているシャルのほうへ魔王様は眼を配らせた。
「王国騎士団…?それにさっきそいつ、幼女のことマオーって…」
「あ、ああ!私の名前は実はマオって言うんじゃ!ナハハハハ!!のうツカサ!!」
「は、はい!マオ様!」
「ふーん」
そういえばそうだ。勇者一行には魔王様が魔王だということを言っていない。
ジトーとした眼でこちらを睨んでくるシャル。理由はわからないが魔王様はこのオカマを黙らせたがっている。俺はそれに乗るしかない
「わかった。その男が本当に王国騎士団って言うなら証拠見せて」
シャルはオカマに近づき手のひらを差し出した。その時にシャルの無表情な顔が少し歪んだきがした。
「ひゃっ…」
その瞬間魔王様の黄色い悲鳴が聞こえた。
魔王様のほうを見るとルミーナの口をふさいでいた手を離して距離を取り、ルミーナは舌舐めずりをしにやにやと表情を綻ばせていた。
「あらごめんなさいね。しゃべろうとしたら舌が当たっちゃったね」
「殺す」
俺は魔王様がこのオカマを変態やゴミと罵ったことに違和感を覚えた。オカマという人たちは女性になりたいという思いが強く、それぞれ過去に悲しい思いを背負って生きていると聞いたことがある。だから魔王様がこのオカマを変態と呼んだとき優しい魔王様が何故そんなひどい事を言うんだと少しがっかりしてしまっていた。だが今は違う。そんな感情は微塵もなく魔王様にそのような感情を抱いたことを心の中で悔いて魔王様の反応が正しかったことを認識した。
このオカマの中身は完全に男で自分の欲求を満たすためだけにオカマを演じているだけのただの変態ロリコンオカマだったのだから。オカマという立場を利用して性欲を満たすだけのこの変態を俺は許せなかった。
いつの間にか口に出していたその言葉と同時に俺はその男をラリアットで吹っ飛ばしていた。
ルミーナとか言う王人間の屑はどうやら一線を越えてしまったらしい。
「魔王様!大丈夫ですか!!」
「あぁ、案ずるな。いつものことだ…」
いつものこと…。その言葉は俺の怒りを最高潮にするには十分すぎる言葉だった。今回だけでなく今までも魔王様に手を出してきたという証。この罪は覗きよりも重たい。
「立てよ、ロリコン。お前みたいなくずがいるから世の中規制規制っていらないことまで規制ばっかりされるんだ。」
ルミーナは立ち上がり、俺に近づきガンを飛ばしてきた。
「何を言っているか分からないけどアナタは今ワタシに手を出したわよね。ワタシに攻撃したってことは宣戦布告と取っていいのよね。って言うかお前誰だよ。」
「お前に名乗る名前なんてないよ。俺はお前みたいな犯罪者予備軍が許せないね。」
「あぁ、そうかいそうかい。ワタシはアンタみたいなキザな野郎が嫌いでね」
「ストップ」
シャルは二人の間に大剣を振り下ろして俺らを邪魔した。シャルが俺達を見る目はしんそこどうでもよさそうで、ルミーナを見る目に関してはさっさと死んでくれないかなって言う目をしていた。
「いいからさっさと証拠見せて。私だって暇じゃないの。」
「あら、アナタだれ?かわいいわね~。」
このオカマ、ロリコンだけでなく女なら誰でもいいという性欲モンスターだった。本当に王国騎士団なのかさえ疑ってさえもいる。
「気持ち悪い。臭い。汚い。それ以上近寄らないで。まるで2カ月放置した洗ってない食器のにおいがする。」
これ以上ない罵声をそのオカマに浴びせたシャルは再び催促した。
「はやく証拠見せて」
「はい…」
すっかり意気消沈してしまったルミーナだが全然かわいそうとも何とも思わなかった。ルミーナは懐からエヴァンが俺たちに見せてきたモノに似た紋章を提示してきた。
「あなたが本物だっていうことはわかった。でもあなたが本物の変態だっていうこともわかったからあなたとはこれ以降しゃべらないことにする。後あなた口臭い。」
流石に同情してしまう。ルミーナのほうを見ると何かを反論したそうに口をパクパクさせている。だがここは黙っているのが吉だろう。そんな必死に反論している姿を見ていたらこちらまで擁護してしまいたくなるんだから。
シャルは黒くドレススカートを揺らしながら元いた扉付近壁に寄りかかりルミーナを睨んでいる。
「今回ばかりはお主が悪いぞルミーナ。私とてそこまで寛容じゃない。お主の気持ち悪さは群を抜いている。」
「はい…」
どうやら反省したようだ。人間は反省をして成長するもの。魔王様が許したなら、俺も許そうじゃないか。
「で、ルミーナだっけ?何でお前はここに戻ってきたの?おとなしく左遷されていろよ」
「え?マオーちゃんから聞いてないの?ぷぷ…信頼されてないようね!!!」
前言撤回だ。俺は腸が煮えくりかえりそうなくらい内心穏やかではないが大人だからそれ以上こいつに何かを聞くのをやめた。
「魔王様。なんでこいつここに戻ってきたのですか?」
「左遷といってもの、クビと言うわけでなく王都で監視をさせておいたのだ。誰かこのバックハウス領に向けて出発する貴族はいないかっての」
「でも貴族が出発するのとかって普通何日か前に分かるものじゃないんですか?」
「そうだ。貴族は護衛の申請をするから最低でも2,3日前に分かるはずなのだが…」
魔王様はルミーナを睨んだ。
「あはは…」
「お主サボっておったな。」
「サボっていたわけじゃないのよ!確かにイグニールって言う貴族がこの街行きの護衛申請をしたのは三日前だけど僕もマオーちゃんの役に立ちたくてその護衛の任務についてやろう!ってとっても暗躍してたのよ!!!でも裏工作してたら見つかっちゃってそれから今日まで領から出入り禁止だってわけよ。アハ☆」
魔王様はもう怒るのも疲れたらしくまたまた深いため息をついた。ため息をつくと幸せが逃げていくというが魔王様の場合幸せはもうとっくに逃げているようだ
「で、朝一で王都を出てマオーちゃんに会いに来たって言うのに魔王ちゃん家にいないんだもん!ショック~って感じ!!」
「ショック~ってのはこっちだわい!さっき勇者一行にあって散々私たちのことを馬鹿にされたんだぞ!!!お主がもっと早くにこっちに来て情報を提供していればーーームキーーー」
魔王様は相当ご立腹だ。
それにしてもさっきからとても気になっていることがある。
「すみません、何故アンスヘルム達はあんなにぐったりしているんですか?」
「ツカサ、匂うだろう此奴から独特なにおいが。」
確かに先程から匂いはするが…。2カ月放置した洗ってない食器とまでは言わないが変なにおいはする。
「ルミーナは魔族が嫌う香水をつけておるのだ。前々から嫌だったのだが、これだけは譲れない~っていってこっちが譲歩しておったのだが一層匂いが増して鼻がまがりそうだわい」
「めちゃくちゃいいにおいなのにね~」
俺からしたらただの香水だが魔族にとってはかなりきつい匂いなのだろう。何故そんなものをつけているのか俺には分からないが、こいつの趣味に文句をつける義理はないし争い事はもう勘弁したいため何も言うことはなかった。
ツカサ達が魔王様って普通に読んでいるけどシャルの脳内ではマオ様って変換されていることにしてください。




