0015 エヴァンの作戦
注意点:『メルノーズ・バックハウス』の名前を『ダグニスク・バックハウス』に変更しました。
理由としては勇者の仲間メルと頭2文字が同じだからです。今までメルノーズで呼んでき
てくれた方には申し訳ないですが、よろしくお願いします。
また、この話には出てきませんがツカサや魔王様の口調も少し変更しました。よろしく
おねがいします。あと、さらに重要なことなのですが、加筆しているうちに段々と話し
が変わっていってしまい伏線がいろいろ変わっていたり追加されていたりしています。
大変申し訳ないです。マジでごめんなさい。
――ツカサ達と別れたあとのエヴァン達の話
そのころ勇者エヴァン一行は領主の部屋の扉の前にいた。軽く扉を三回ノックし、「入り給え」という声とともにエヴァン達は扉を開けた。
「こんにちは、勇者のエヴァン・ライトウッドです。バックハウスさんお招きいただきありがとうございます。」
エヴァン・ライトウッド。そう名乗ったのは先程喫茶店で魔王と会話を交わしていたエヴァンで間違いはなかった。
エヴァンが扉を開けるとそこにはとても広い空間が広がっていた。奥の椅子に座っているのがダグニスク・バックハウス。このグレブと呼ばれる街及びその周辺一帯の領主だ。ダグニスクは小太りで白髪、さらにもみあげから顎にかけて白い髭を生やしているのが特徴だった。
「おやおや、エヴァン殿でしたか。よくぞお見えになりました。これから来るイグニノール君の護衛だと聞いていたのですが随分と早い到着ですね。」
ダグニスクはエヴァン達だということに気が付くと座っていた椅子から立ち上がり部屋の中心へと歩いてきた。
エヴァンも扉の前から中央へ行きお互いに握手を交わした。
勇者エヴァンらは王様から直々にイグニノールの護衛を任されていた。が、それは建前であり、実際は奴隷商人の捜索という重要な任務が課せられていたのだ。そしてこの目の前にいるダグニスクこそがその奴隷商売に関与している疑いをエヴァン及び魔王にかけられている重要参考人だ。しかし、まだ決定的な証拠がないためエヴァンは今それを悟られないようにしなければならない。
「はい、『この館での護衛』という王様からの命令だったので…。イグニノール兄さんより先に来ていることにしました。」
事の始まりはエヴァンが王様から指令を受けて数日後、たまたま身内からイグニノールが怪しげなことをしていると聞いたことからだった。エヴァンは直ぐにイグニノールに近づき内密に身辺捜査をした結果、イグニールが奴隷の競売に関わっていることが発覚したのだ。
同時に、魔王と同じ方法でここの領主ダグニスクが怪しいということも気づき、さらにイグニノールがダニグスクが治めているこの街に向けて出発する際の護衛の申請をしていたことも知った。
「ホホホ、噂通り〝指令に忠実″ですな。それにまさか王様が直々にイグニノール君の護衛を本家当主であるエヴァン殿に任せるなんてなかなか粋な計らいをしてくれますね~。」
「ホントですよ!イグニノール兄さんとは小さい頃からの仲でして今でもたまに交友をしているんです。だから王様も気を使って僕を指名してきたのでしょうね、きっと」
護衛の申請は、専用の申請所がありそこで選定された王国騎士団の数名が護衛に就くのだが、今回の場合はエヴァンが王様にイグニノールの護衛を志願し、王様が直々に勇者エヴァンを指名したということにしておいたのだ。
何故そうしたのか、これはイグニノールの高慢で自慢癖のある自己陶酔型の性格を知っているエヴァンだからこその判断だった。
普通、王様から直々にコンタクトがあるのは上級貴族や勇者そして王国騎士団関係、表彰くらいしかない。
仮に、ただエヴァンが自ら護衛を志願したとする。もしイグニノールが奴隷商売に関わっているというのなら「何故勇者が自ら志願した。もしかして疑っているのでは」と変に勘ぐってしまう可能性があるとエヴァンは考えた。
しかし、王様直々に勇者を指名したと成ればそれは違う。それは自らが上級貴族の仲間入りをしたという証明にもなり、さらにその指名された勇者が顔見知りであると知ったら「王様が気を利かせた。王様は自分のことを見ている」と取り違えてくれるとイグニノールの性格から予想することができるのだ。
ライトウッドの姓を持つエヴァンがその姓を利用し、分家でかつ昔からの顔なじみという貴族イグニノールの懐に潜り込むという潜入作戦であった。
だがこの作戦にはメリットとデメリットが表裏一体で存在している。この作戦のメリットはいつでも現場を抑えられること、そして怪しい動きを見せたら直ぐに分かるという事だ。しかし、あまり近くにいすぎると警戒しイグニノールとダグニスクが事を起こさなくなってしまうということも考えられるため、この作戦は完全にエヴァンの裁量によって成功するか否かがかかっている。
ダニグスクはそんなことも露知らずエヴァンと、これから来るであろうイグニノールの話題に花を咲かせていた。
入り口付近それをで見ていたモルミーレはメルに耳打ちをする。
「なぁ、幼女達あのままでよかったのかよ。協力を仰ぐのもよかったんじゃねーのか。」
「モル、考えてみてください。彼女たちが白だからといってこの館に入れる方法はエヴァンにはないのですよ。こっちの招待人数は4人と決まっているのです。人数を後から増やしたりしたらかえって怪しまれます。」
そして、エヴァンらは先程の喫茶店で魔王たちに隠していることは3つあった。一つはイグニノールの護衛で来ていること。二つはエヴァンがライトウッドの姓だということ。三つ目は、魔王たちは完全に白だということが分かっていたこと。
実際にエヴァンが白だと知ったのは喫茶店を出た後なのだが、それでも何故魔王様が白だということが分かっていたのかというとメルの『魔力視』という能力に起因している。
魔力視とは魔力の波や痕跡を感知することができる特殊な眼であり、限られた人間や魔族しか開眼しておらずその開眼条件も特殊で一般には知られていない。この魔力視は瞼を閉じている時以外、常に人や魔族や物から発生する魔力の波や痕跡が見えており、人によってはその眼に慣れず発狂して眼を掻き抉る人もいる。
つまりメルは魔力視を使い魔王の激昂した時の魔力の波を見て、その怒りが本当だということがわかったということだ。魔力は精神エネルギーそのものであり魔力そのものが嘘をつくことはあり得ない。
メルは会計後すぐにこっそりエヴァンに報告したため、エヴァンは別れる間際に今までの無礼を謝罪して協力することもできたはずだがそれをしなかった。なぜなら魔王は信じていても、もう一人の男ツカサを信じることができなかったためである。
「それにあの少女の並はずれた魔力には驚きましたが、あのツカサという男もおかしかったのです。普通魔力というのは魔法が使えなくても誰にでも備わっているもので極僅かの魔力でも視ることができるはずなのですが、あの男の魔力を視ることはできなかった。何故かはわかりません。この魔力視を防ぐ術があるのか、それとも本当に魔力が無いのかは」
ツカサのいた世界では魔法というものは存在しないため、その魔力エネルギーというもの自体ツカサは持っていない。それはこの世界に来てからもツカサの精神に宿ることはないためメルは魔力を視ることができなかったのである。
「へぇ~。んじゃそのツカサって男が完全に白じゃないからシャルを監視役に付けたってわけね。まぁ私的にあの男は完全にあの幼女にゾッコンだから安心だと思うけどね」
「どうしてそう思うのですか?」
「女の勘だよ」
魔王が白だということはシャルには伝えていなかった。それはエヴァンがシャルの客観的視点でツカサが黒か白を判断してもらうためだ。だからシャルは今もあの二人を疑っている。
ダグニスクはモルミーレとメルが話している姿を見て、護衛の人数が足りないということに気がついた。
「おや、そういえばエヴァン殿の連れは3人と聞いていたのですが・・・」
ここまで事をうまく事を運んできたエヴァンにとって失敗は許されなかった。これを逃せばもう足を掴めないのかもしれないのだから。
「・・・実は前の依頼が立て込んでいて・・・。少し遅れてやってくるみたいなので、その時は僕の顔に免じて通してあげてください。」
「ほほっ、お安い御用ですよ。勇者を実際に見るのは始めてなのですが意外と普通の青年で驚きましたよ。」
「ははは、よく言われます。他にもっと可笑しいのがいっぱいいますけどね」
何気なく会話しているエヴァンだが、あまり冷静でいられなかった。何故か。それは領主が先ほど座っていた後ろの席に豪炎剣ボルケーノ・バクフリートが飾られていたからだ。エヴァンは通常、趣味である剣のことは忘れて任務に没頭するのだが、今回はわけが違う。剣を集めるのが趣味なエヴァンにとってその豪炎剣は喉から手が出るほど欲しい大業物で、何故その剣をこの田舎の領主が持っているのか不思議でならなかった。
先程からダグニスクと会話しているが全く頭に入っておらず、たまに視線がチラチラとそちらに向いていた。
ダグニスクはそれを不審に思ったらしくエヴァンに聞いた。
「あの、先程から私の机の方をチラチラと見ておりますが。何かお有りで?」
「あっ、あぁ!いやぁそのあの剣すごいなあって・・・。大業物の豪炎剣ですよね、あれ。天使族が先の戦争で振るってたって言う。」
「おぉ!さすがエヴァン殿!勇者ともあれば見識も高いみたいですな。そうです。あれは豪炎剣ボルケーノ・バクフリートです。どこから手に入れたかっていうのは企業秘密ですが・・・っておや。エヴァン殿!その剣もしや・・・」
「おぉ!バックハウスさん!お気づきですか!そうです!その豪炎剣の弟刀のイフリート・バクフリートですよ!」
「おぉ!まさに運命の出会い。大天使バクフリートによって打たれた名剣が2本ここに揃うとは!実に嬉しいことですな」
「えぇ、とてもとても嬉しいです。」
エヴァンは残念に感じていた。同じ剣愛好家が、奴隷商人の疑いを己自身からかけられていることが。もし、別の形で会っていたら仲良くなれていたのかもと思ってしまっていた。今回の事件はそんな甘えは許されない。
モルミーレとメルがやれやれと呆れている所でまた扉がノックされた。
「入り給え」と領主が言うと扉が開き、一人の老人がフードを深くかぶった奴に摘まれて入ってきた。
「バックハウス殿、今お時間よろしいですか」
このフードを被った奴、先程幼女から聞いた特徴と一致している。とエヴァンは見ていた。
細身で身長150cmくらいのフードを被っている奴の声から男だということが分かる。
朗らかなダグニスクの表情が険しい表情へと一変した。
「少し待ちたまえ。後で行く。その男を例の部屋に連れて行っておいてくれ」
ダグニスクはまた一変し元の穏やかな表情となった。
「すみませんね、エヴァン殿。見苦しいところをお見せしてしまい。」
「先程のは…」
「ホホッ、従者がミスを犯してしまったらしいのです。人がいればいるだけ困りごとも増えて大変ですな。」
エヴァンはフードに摘ままれていたあの老人が気になっていた。
従者、というならば身なりがきちんとしていてもおかしくないはず。あの老人はどちらかといえば農夫のような格好をしていたのだから。
エヴァンはそのことに違和感を感じながらも勇者一行は部屋を後にして、パーティ用の服に着替えるため更衣室へと向かった。




