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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
21/26

001-06 魔王様と水浴びはしない。



 朝起きてリビングに向かうと、朝食の用意をしているエプロン姿の魔王様がいた。長い髪の毛を一つに結いポニーテールにしている。幼さを感じる良い髪型だとしみじみ思う。


 「おはようございます。魔王様」


 「ツカサか。おはよう、だな」


 魔王様は手を止めずに挨拶を返す。何かすることがないか魔王様に聞くと、「座ってまっておれ」といったから俺は座って待っていることにした。

 不思議だな。コンロや水道がないのに全く不便さを感じない身のこなしだ。部屋の隅にある大きな鉄板で炒めものをしているが火はどうやって起こしているのだろうか。ライターましてやマッチのようなものすらこの世界にあるか怪しいし。


 「魔王様、火はどこでおこしているのですか?」


 「ツカサは本当になにも知らんのじゃな。こうやって魔法で起こせるのじゃ。」


 ぼっと指先に小さな炎を灯してみせた。回復や風魔法みたいなものがあるんだから火くらい出せて当然だな。つまり電気もガスも必要ないってわけだ。魔法っていうのは便利なものだとしみじみ思う。

 科学っていうのは決められた順番に決められた方法で形成されるが魔法っていうのは不規則で柔軟性が高いらしい。それぞれに利点があるから魔法と科学が両立するのは難しいのだろう。


 「水も魔法で出せるのじゃが、なんか魔法でできた水を飲むのっていやじゃろ?だから近くの川で水を汲んでくるのじゃ」


 どうやらこの世界の住人は魔法でできた水を飲むのは嫌らしい。まぁ確かになんとなくだが分かる気がする。俺は魔王様の魔法の水だったら…。ん"ん"。


 「そういえば一昨日探索している時みましたよ、川」

 

 物の怪退治は一昨日のこと、昨日は柵を直したり農作業をしたりしていた。

 俺たちは一昨日、物の怪を追っている際に、ギンと一緒にその川に寄ったのだ。


 「多分そこじゃな。私たちもそこで水浴びや洗濯を…。あっ!!!」


 何かを思い出した魔王様は唐突に大声をあげた。


 「そうじゃ、ツカサ!おぬし全然水浴びしておらんじゃろ!!!」


 「ええ、昨日は柵の修理やらなんやらで、なんだかんだ忙しかったですし。それに一昨日の魔法でなんかさっぱりしましたし…一日くらい。」


「一日ィ!?お主こちらに来てから一回も水浴びしておらんくせに何を言っておるのじゃ!!魔法で綺麗になったなどそんなわけあるか!それは気持ちの問題じゃ!!汚い!臭い!不潔!今すぐ洗ってくるのじゃ!洗濯もじゃ!うーんでも着替えが着替え…。服は…仕方ない!ギンを起こしてくるから待っておれ!」


 魔王様…そんなに俺を(ののし)らないでください。泣いちゃいます。

 廊下からドンドンドンとギンの部屋の扉をたたく音と共に「こらギン起きろ!お主の服をツカサに貸してあげてくれ!こらーギンー!」という声が聞こえてくる。なんだかギンには悪いことをしてしまっている気分だ。


 「ほれツカサ。川の場所はわかるのじゃの。川に行って洗濯をした後、今日一日はこれでも着ておるのじゃ」


 魔王様はギンの部屋か服をもってきて俺に手渡した。

 2日目にギンが着ていためっちゃカッコイイ服だった。俺には似合わない様な。

 昔都内のどこかで路上ライブをしているバンドのボーカルがこんな服を着ていた事を思い出した。路上ライブって言うのは普通一人か二人でギターを持って歌っているモノだと思っていたが彼らは、ギターにベース、キーボード、ハーモニカと完全にバンドで路上ライブをしていた。ライブハウスを借りるお金すらなかったのだろうか。俺は1万円をギターケースにこっそり入れて立ち去った。入れた後すぐ警察が来てとっちめられていたがその後どうなったのかは知らない。


 「さっさと往けー!!!」


 「はいー!!!」


 思い出を遮られ俺は逃げるように裏手に回り川へ向かった。川へ向かう途中、畑の周りを見ていたのだが、やっぱり柵は壊れていなかった。

 直すとき簡単に治るような組勝て方をしたし、昨日修復した際もその修復方法をイリーナやギンに教えてあげから今後壊れるようなことがあっても大丈夫だろう。

 しかし、何故あの柵だけを壊す必要があったんだ。一昨日の(ぬし)と魔王様の絡みも気になるし。まぁいいか。

 獣道を抜けると一昨日ギンと見た川があったがどうも様子が違うみたいだ。その異変の先をよく目を凝らしてみると、そこにはアンスヘルムがこちらに背を向けて水浴びをしていた。しかも裸で。やったぜ。


 「ツカサ殿ですか。」


 この距離に気付くか。アンスヘルムは視線だけをこちらに向け、俺の名前を呼んだ。


 「あぁ、魔王様に水浴びして来いって言われてな。アンスヘルムもか?」


 「いえ、私は毎朝毎晩ここで水浴びをしています。」


 己は女子高生か。女子高生が毎朝毎晩お風呂に入るかはわからないが。でも興味あるから女子高生がいたら教えてほしい。もちろんやましい気持ちはない。知的好奇心だ。


 「そうか、規則正しいんだな。」


 「身を清めるのは当然です。いつまでもそんな(ところ)にいないで此方(こちら)へ来たらどうですか」


 一日二日大丈夫という感性を持っている俺からしたら胸が痛い。


 「そうさせてもらうよ。」


  俺も服と下着を脱いで、ワイシャツや下着をごしごしと川の中で洗った。


 「ツカサ殿、洗濯はできれば川下(かわしも)でやってくれると嬉しいのですが」


 「あ、ああ!すまない。配慮がなってなかったな」


 アンスヘルムが気にしすぎなのか俺が気にしなさすぎなのかは分からない。

 俺は川下へ移動し、ごしごしと洗う。ん、スラックスはどうやって洗濯するんだ。普通にごしごししていいのか?いつも組織のクリーニングに出していたから分からないな。まっ、いいか!と妥協しごしごし手揉みで洗う。


 「そういえば、アンスヘルム。ここで水浴びできるのって夏だけだろ。魔王様とか冬場どうしてるんだ」


 「ツカサ殿、あなたはそれを聞いてどうするおつもりですか。魔王様の水浴びに随分と関心があるように見えますが」


 あばばばば。ば、馬鹿野郎!お、俺はただ純粋に冬場どうしているのか気になっただけやい!別に魔王様の水浴びなんて…全然興味ないはずだ!!

 俺は心の中で全力で否定した。


 「おいおい。変な警戒はよしてくれよ。俺はただ純粋に気になっただけだ。俺は魔王様のような小さい相手に興奮したりするような異常者じゃない。」


 ガサガサと俺の背後のほうで音がした。


 「ほう、私のような“小さい”女性は嫌か、ツカサ。私のことが好きになる男性は“異常者”か。ほう…。」


 ま、まままま魔王様!?!?いつの間に!?!?なんで!?!!?と内心先程以上に動揺している。これはまずいのではないか、と。

 魔王様は俺が先ほど此方(こちら)を覗いていた土手で堂々と仁王立ちをし、川に浸かっている俺たちを見下ろして幼い顔にどす黒い微笑を浮かべていた。


 「どんなもんかとこっそり覗いてみてみれば、何やら不穏(ふおん)な会話が聞こえてきての…。いてもたってもいられなくなったのだが…。で、『どこが』小さいのだ?」


 「ま、魔王様!誤解です!私は魔王様のことが嫌いなわけじゃ!それに魔王様は大変魅力が…」


 俺は必至の弁明をした。急いで川から上がり、魔王様の方を向いて。

 しかし、途端に顔を真っ赤にして、後ろを振り向いた。 


 「魔王様!聞いてください!俺は全然悪気があって!」


 魔王様は小さな声で呟いた。


 「あ、あのとりあえずパンツはいてくれるかの…」


 あっ、はい。


 

 ―――ん?待てよ。よくよく考えるとこれってまずいんじゃないか。日本国でもし俺が婦女暴行や児童ポルノに引っかかる行為をしても多分組織がもみ消してくれる。問題は今俺がいる場所は日本でもないし、後ろにはアンスヘルムがいるということ。

 それに今『気』なるものを感じている。その『気』が『やる気』や『元気』じゃないことは明確だ。では、その『気』はなんだ。

 そうかこれは『殺気』だ。


 その『気』の感じる方を振り向くとアンスヘルムがいつの間にか俺に間合いを詰めていた。目の前にある胸筋から少しずつ少しずつ視線を上にずらしていくと、アンスヘルムは鼻を大きく鳴らし俺を見下(みお)ろし、いや見下(みくだ)している。


 「ツカサ殿」


 「はい。いや、あのこれはですね。」


 アンスヘルムは屈んで俺の肩を掴み目を合わせてきた。その蛇の様な鋭い眼光で俺は蛙のように委縮している。体の体温が徐々に失われているきがするのだ。その理由もすぐに分かった。


 「ってそんなことしている場合か!早く履けーーーー!っておいツカサ!お主の衣服流されておるぞ!!」


 「えっ!!?」


 魔王様は片方の手で顔を隠しながら、もう片方の手で川下(かわしも)を指差しそう叫んだ。

 そういえば俺は何も肌に身につけていなかった。だから妙に体温が低下している気がしていたのだ。きっとそうだ、そうに違いない。と暗示をかけながら服の流れる方向に目を向けた。

 流れも速くかなり流されているみたいだ。


 「待っておれ!今私が取りに行く!お主は早く服を着ろ!」


 服を着ろと言われてもギンの服を着ている間に俺のアルマーニが流されてしまう。

 そんな心配も杞憂で魔王様は呪文を唱えた(のち)に流れている場所の岸まで刹那的に移動してみせた。さすが魔王様だった。が、その杞憂は杞憂でなくなった。


 「ま、魔王様!あなたは!—―」


 アンスヘルムの声は魔王様に届かず、魔王様は麻布(まふ)の服のまま飛び込んだ。


 「あなたは泳げないでしょーーーー!」


 「いかん忘れてたーーーー!」


 そんなあほなーーーッ!?!?マンガじゃないんだぞ!!!(※マンガじゃないです)

 魔王様はどうやら泳げないらしい。それなのに飛びこむって魔王様は御人よしすぎるのかそれとも無鉄砲なだけなのか。

 俺はどうすればいい。流れは結構早いし魔王様の伸長じゃ足は届かないほど深いはず。走ってあそこまでいくことも考えたがごつごつと大きい石が転がり足場が悪い。この足場じゃ間に合うかどうかわからない。平坦だったら間に合ったかもしれないが…。いや今IFで語っていてもしょうがない。こっから川に入って泳ぐ方法もありか。いやそれなんてもっと間に合わないだろう。

 アンスヘルムが飛べばいけるか…いけるはずだ。アンスヘルムしか頼れないはずだ。


 「アンス…」


 「ツカサ殿、あなたの丈夫さを私は知っています。それを承知で今から私はあなたに酷いことをします。これはあなたが人間であるとか、魔王様にソレを見せつけた遺恨とかそういうものなど一切ないです。」


 「え?」


 アンスヘルムは俺の言葉を遮り、俺の足首を軽々と持ち上げた。

 「遺恨とかそういうのがない」そう言っている割にはアンスヘルムは割と楽しそうな表情で魔王様のほうを見据えていた。まるで最後に食べようと残しておいた唐揚げを食べるような、そんな喜々とした表情している。

 理解する間もなくアンスヘルムは俺のことを遠心力を利用し回しはじめそして投げた。魔王様が流れている方へ。


 「うっ、嘘だろおい!」


 手を離した瞬間にアンスヘルムがめちゃめちゃ楽しそうな、すっきりした顔をしていたのを俺は見逃さなかった。いずれこの借りは返したい。

 俺は勢いよく川にに打ち付けられたがアンスヘルムの投擲(とうてき)(投擲と呼んでいいのかわからないが)により見事に魔王様の前に着水することができた。これってもしかして、着地地点が陸地だったら死んでいたんじゃないか?と恐怖に震える。

 いや、痛みや恐れなんて気にしている暇はない。魔王様がとても苦しそうだ。俺はすぐさま足掻いている魔王様の背後に回った。

 水難救助の基本は要救助者の背後に回ることだ。もし前から助けようとすると、パニックに陥っている要救助者は救助者にしがみ付こうとして、逆に救助者共々危険に陥ってしまうケースがある。だからこういう場合は背後からそっと抱えて流れに逆らわないように浮力を利用して徐々に川岸に向かうのが先決だ。

 今回の場合幸い俺は足がついているため、強い流れに足を取られないように岸に向かえばオーケーだ。


「ぶ、ぶはー!ゲッホゲッホゲホ」


「魔王様大丈夫ですか!!」


 無事に川岸に着いた魔王様は膝を着いて咳込んでいる。俺は魔王様の背中をさすってあげた。

 よかった。どうやら水もそんなに飲みこんでいない。魔王様は助かったみたいだ。

 魔法っていうのは詠唱が必要で、水の中じゃそれができないから魔法使いが魔法を唱えるには自ら顔を出して唱えなければならないらしい。魔王様は泳げないからそれができなかったというわけだろう。

 魔王様は心配ないと、膝をあげて立ち上がった。衣服が吸収した川の水を絞りながら魔王様は地面に向けていた顔を徐々に上げた。


 「ゲホゲホッ…。それよりまた助けられたな、ありが…っ―――――!!!!!」


 そして言葉を詰まらせ再び俯いた。


 「魔王様どうかしましたか?」


 濡れた上着の裾を握りしめる(こぶし)に凄い力が入っている。


 「私は…お主に…」


 魔王様はその拳を(ほど)き、もう一度脇腹付近で右の拳を握り締めた。


 「服を着ろと申したじゃろうがーーーーーーーッ!」


 魔王様はその右腕で俺を殴り飛ばし、俺はもう一回川へ入水(じゅすい)した。

 

 はは、なんてこったい。魔王様の命を優先するあまり服を着るのを忘れちまった。

 て、いうか服着る暇すらなくアンスヘルムに飛ばされちまったんだけどな。

 まぁ、魔王様のあの真っ赤な顔が見れただけでも役得ってことで。ちなみに俺は小さい子供に興奮するような変態じゃないからな。


 と、言うことで俺は川に流された。



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