001-05 物の怪退治のあと
「それより魔王様すみません。先ほど魔王様は家で待ってろとおっしゃったのに…。俺は己を過信しすぎていました。」
言い訳みたいだが、足跡のへこみ具合や大きさからせめて熊ぐらいの大きさの豚だと思っていた。まさかあそこまで大きいとは…。
「気にするな。もう過ぎたことだし。お互いに無事…ではないが。それでいいではないか」
魔王様は優しく笑って見せた。あぁ、女神のようだ。もしこの世界に女神がいるならきっと彼女もその末裔か何かなのだろう。
それより…このピグゥ。
「魔王様、このピグゥはどうするのですか。」
魔王様は結局何故おとなしくなったのか原因を話してくれないが、このピグゥはもう本当に大丈夫なのか。
「ツカサはどうしたいのだ。ツカサはこやつに思いっきり跳ね飛ばされた。お主はこのピグゥをここで土に返すことを望んでおるか?」
このピグゥはどう見ても先ほどと様子が違う。俺を突き飛ばした時は何かに翻弄されているようにも見えた。それにこのピグゥが殺されることを俺は望んでいない。何故かはわからないが大人しくなったこいつは、見つけたときに感じた神秘的な何かを感じる。
「いえ。確かに自分自身が突き飛ばされたから危険はないかと疑心暗鬼になっていますが何故か、恨みも憎しみも感じません。俺はこのピグゥを生かしたいと思ってさえいます。」
不思議な気持ちだ。
「うむ、それが正しい反応じゃ。このピグゥは生かしておかなければならない。そして私たちはあまり干渉していいものでもない。」
「このピグゥはなんなのですか?」
魔王様はこのピグゥの牙を撫でながら言った。
「このピグゥはここら一体の森の主だ。」
主か。確かに日本のアニメ映画でみたことあるような貫禄あるイノシシだ。それにあの長い牙は相当生きていないとあそこまで湾曲することはないだろう。
この世界での主という存在はあらゆる場所で存在は確認されているらしいが謎が多い。番人、監視者、神の使い等地域によっていろんな呼び方があるとのこと。
「暴れた原因はわからないがもうこのピグゥが暴れまわって柵を壊すこともない。それだけは言っておくぞ」
「原因はわからないがもう壊さない」そんなわけがない。多分魔王様は原因を知っているだろう。先ほど取り除いた羽のようななにかがピグゥが錯乱していた原因だ。俺はそれを指摘しなかった。それは魔王様が隠しているから。魔王様が言いたくないなら俺もそれを言わないようにしよう。
「さて、先ほど言ったようにこの場所は本来見つけること、ましてや来ることなぞできない神聖な場所だ。さっさと退散するぞ!」
アンは魔王様を背中に乗せイリーナと一緒に空路で、俺とギンは歩いて家に戻った。
後ろを振り向くと、その主もまた俺たちに背を向けるように去っていった。
その晩は食卓でとても称賛された。ギンやイリーナ、そしてあのアンスヘルムにまで頭を下げられたのだ。頭を下げられるってのはまだ認められていないということだろうな。「よくやったな」とでも言われるような関係を俺は望んでいる。それに俺はただ、魔王様に好きになってもらいたくて…。
えっ、好きなってもらいたくって!?ば、ばか!相手は子供だぞ!なんだこの感情は…俺が魔王様に…ッ!そんなわけあるか!って俺は乙女かッ!
「ツカサ殿、どうしたのですか?」
「あぁ、すまん。少し考え事をしていてな。」
俺は考え事をするときに真顔になってしまう癖がある。これはこれで便利だから直す必要はないと思っているがな。
「それにしても兄貴ィ!俺は感動しちまったぜェ!自らを犠牲に魔王様を突き飛ばすなんてよォ!自分だけ一人で逃げることだってできたはずだるォ!?」
「ほんとツカサくん!すごい!しかも普通あんなタックル食らったらアンスヘルムみたいな体じゃないと死んじゃうよ!?人間なのに丈夫なんだね!!」
「まぁ、この体だけが取り柄なんでな。」
「突き飛ばされたと時少し痛かったけどの」
ままっま魔王様ァ!?そ、そんな殺生な…。俺メンタル弱いことに最近築いたんだからそんなこと言われちゃ泣いてしまいそうだ。泣く。
「じょ、冗談だ!そんな顔するでない!」
無論、俺は真顔である。泣いてないなどいない。
「うわ、魔王様、言っていい冗談と悪い冗談あるんだよー」
「魔王様ァ今のはかわいそうですぜェ…」
「流石にツカサ殿の気持ちを考えると胸が痛いです。」
「うぐぅ…」
押され気味の魔王様。俺もそんな魔王様が面白くて流れに乗る。
「俺がもう少し優しく押していれば…」
一芝居打って悲しげな表情を作ってみせた。魔王様はあたふたあたふたして、それが面白可笑しかった。
「ははっ、魔王様冗談ですよ冗談。お返しです」
「たちの悪い冗談だ」
「「「あんたが言うな!!」」」
こうして3日目の夜も更けていく。




