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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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001 魔族の方々

 




 目を覚ますとそこには知らない天井。そして、夏のような蒸し暑さが俺を襲った。額から溢れる汗をワイシャツの裾で拭う。部屋の中は暗くもう夜なのかそれとも()だ夜なのか、どれくらい眠っていたのかは俺には分からない。

 重たい体を起こし辺りを見渡すと見たこともないログハウスの様な木造の部屋に俺はいた。ここはどこかと問うても誰も返事はしてくれない。

 同時にもう一つの疑問が沸いた。あの後俺はどうなったのかということだ。あの後というのは俺自身がビルの屋上から飛び降りたあとの話だ。もしあの高さから飛び降りて運良く助かったのだとすれば、突風にあおられて窓を突き破りビルの中に避難したとしか考えられない。それか偶然五点着地に成功したか。

 そんなわけはない。これらの原因で助かったとしても無傷でいられるはずがないのに今いるこの場所が病室でない事が不思議でならなかった。病院であれば、点滴やらナースコールやらの医療器具は置いてあるはずなのだが、ここにはそれらしきものは一切置いてなかった。

 もしかしてあれから俺は何年も何年も寝たきり状態だったというのか?それも十分に考えられるが組織がいつまでも俺の面倒を見るとは限らない。それに組織の施設を全て把握している俺でさえこのボロボロの屋敷には全く見覚えがなかったのだから。

 

 「痛ッ・・・」


 まだ少し頭痛がするが、先程落下した時に感じたほどのものではない。

 なぜ助かったのかは本当にわからないがこうやって意識があるのだからそうに違いないと自分自信を説得する。

 ここで、もう一つの可能性が俺の脳内に浮かんだ。 

 まさか俺は死んだのか?ここは死後の世界?

 一瞬この線も考えてみたがそれは否定できる。何故否定できるのかというとそれは俺自身が死んだと自覚していないからだ。寝たままぽっくり逝ってしまえば死を自覚することはできないかもしれないが。俺はあの時、確実に覚醒していたしそれに奇妙なことに俺自身が死んだとは思っていなかった。

 自縛霊もこういう気持なのかもしれないと余計なことを考えてしまう。

 再び辺りを見渡してもその七畳一間くらいの部屋はお世辞にも綺麗だとは言えなかった。ベッドは動くたび嫌な音を出すし、部屋の中央には使い古されたボロボロの木製テーブルが置かれていた。そのテーブルの上には脱がされたジャケットが綺麗にたたまれている。

 部屋の出入り口はそこの扉のみ。蝶番(ちょうつがい)ががたついているのか微妙に傾いている。

 ヒビの入った窓ガラスのそばには花が生けられた花瓶が置いてあった。その花が満月の光に照らされる様はこの部屋の乏しさを一層引き立てていた。

 ベッドから離れ、テーブルを注視する。

 サラッとなぞるがボロ屋敷の割にホコリが積もっていない。少しは管理が行き届いているとみれる。

 景色を見て詰まるつまらないの感想を抱いたことなど一度もないが、窓の外から見える景色は本当につまらないものだった。

 木々が鬱蒼と生い茂り月明かりが照らす森の向こう側からは、おぼろげな街明かりのようなものが見える気がする。

 だが、見ているだけで心が穏やかになっているのを感じた。

 俺は空に浮かぶ満月に違和感を覚えた。なんだかいつも見る月より大きい、いや近く感じる。スーパームーンというのが存在するらしいが、多分そのレベルの大きさをはるかに凌駕している。

 そんな月を見ていると突然月を何かが横切った。飛行機にしては辺りが森閑(しんかん)すぎるし、鳥にしては影が大きい。

 その未確認飛行物体の正体に一抹の不安を覚えながらも、ジャケットを手に取り部屋を出た。木造校舎を彷彿とさせるその廊下の傷み具合は、学校なんぞに通ったことがなかった俺でさえもを懐かしく感じさせた。

 20mほど続く廊下にはいくつか部屋が並んでおり、その先一室からは光が漏れていた。なんだか話し声も聞こえる。

 起きた時にすぐ気づいたが、腕時計、それに銃がホルスターごと無くなっていた。ここがどこかわからない以上、どんな相手が出てくるかもわからない。俺はここが怪しげな組織の研究所だということを想定して、身構えた。


「これは一体何に使うのだ・・・」


「貸して貸してー」


 耳を澄ますと扉の向こうからはそんな声が聞こえてきた。女の声だ。

 扉をゆっくりと()け、その光景を目の当たりにした俺は声を失った。


 「あっ…起きてきたよ!」


 「体に大事はないみたいだな」


 「大丈夫だって言っただろォ?いくら人間と言えど、コイツの体付きを見る限り相当鍛えてるぜェ」


 「おぉ、お主。起きたところ早速で悪いが、これってどうやって使うのだ?」


 期限前日にレポートを書いている最中のパソコンの様にフリーズしてしまった自分の脳内には処理しきれないほどの情報がまるで走馬灯のように(めぐ)(めぐ)った。

 魑魅魍魎(ちみもうりょう)で百鬼夜行、複雑怪奇の妖怪変化等の意味は理解できるが人生で使うことはほとんどないであろう四字熟語トップ10のうち4つが浮かぶほどのこの光景を俺は正確に表現することはできない。

 赤い肌に、緑色の長い髪の毛、銀色の体毛に、真っ赤な目。

 赤い肌の正体はよく見ると鱗でようなものを、翼の生やしている人間さえもいる。 

 あの男に至っては全身が毛で覆われて犬のよう骨格の様なその顔つきをしている。

 その中で特に異様だったのは、その化け物たちに囲われていた一人の少女はであった。なぜいる。その『異形』の中になぜ真っ赤な瞳の少女がさも当然のように存在している?

 奇妙だと思っていた。高層ビルから落下して無傷で助かるなど考えられない。

 これは夢だとしか思うほかない。あの妙な質感からしてCGやメイクの類でない事はよくわかる。だが、最近のCGやメイクはかなり巧みだと聞く。もしかしてこれは映画の撮影現場なのか?何で俺がそんなところに紛れ込むんだ。

 いかん、処理が追いつかない、と目頭を押さえ壁にもたれかかる。


 「お主?大丈夫か?」


 この少女、いま手に持っているものがなんなのか理解していないのか。先程から俺の銃をこちらに向けておりよく見ると何故か安全装置が外れていた。

 先ほど廊下で聞こえた会話はこの銃をいじっていた声か。それがなんなのかわかっていない様子を見る限り謝って解除したのだろう。


 「だ、大丈夫だ。すまないがその手に持っている奴を下ろしてくれ。」

 

 「何故じゃ?」

 

 「それは、武器だ。とても危ないから下ろしてくれ。」

 

 情報を整理する暇なくそう言い諭した。一刻も早く下ろして欲しかったのだ。素人に銃を持たせた時ほど怖いものはないと過去の経験則から分かっていた。

 何!?武器だと!?と、あたふたあたふたし、机にその銃を置こうと必死になるがどうやら裾のレースにトリガーに引っかかり抜けなくなったらしい。

 ワーワーと騒ぎ立てる少女。お願いだ。その銃を振り回さないでくれ。赤い鱗の大男が少女を(なだ)めるようにしてトリガーを軽々と引いた。多分誤って。

 響く銃声、反動で倒れる少女、頬を掠めた銃弾。

 静寂を得たその部屋は夏のような暑さを先程まで襲っていたのに、今は異様に涼しく感じた。



 


 ――1時間後、先ほどの部屋


 この一時間でここの住人に話を聞き、大方(おおかた)理解することができた。

 拳銃や腕時計、服装までビルから落下する時の状態だから夢というのは考えにくい。何にしろ俺は覚醒しすぎている。

 状況を顧みるに原因は不明だが別の世界線へ転移、つまり異世界へと移動してしまったらしい。

 この場合の異世界とはパラレルワールドと呼ばれる同じ時間軸上の平行世界とは別で、地球なんて縁もゆかりもない本当に全く別の世界だ。

 つまり、漫画や映画みたいな状況にあるということらしい。

 今いるここはグロニカ王国のエリオストロ州と呼ばれる場所の小さな村の外れだと言っている。グロニカ王国は名前のとおり王政で、王様が全主導権を掌握している。

 このエリオストロ州は王都の隣に位置し州の中心には森が広がり、今いるこの村は州の一番端っこにある田舎だと地図を見せられながら教えてもらった。

 100年前の戦争を機に、魔族と人間は和解をし彼らは共生できているらしい。多少問題はあるが。

 そう。魔族というのは人間とは別の種族で今ここにいる赤い鱗の男、翼の生えた女、体中が毛でおおわれた狼男のような奴らを言う。

 日本、いや地球と呼ばれるとこじゃない全く別のファンタジー世界へときてしまったという事だ。

 

 「そうか、ここは日本。いや地球ですらないのか」


 「ニホンですか。聞いたことはありませんね。」


 疑心の目を向けてくる低い声の主は、身長2mはあるであろう龍族の大男アンスヘルム。真紅の鱗に厳つい双角が目を引き、その迫力と言ったら北海道のクマに匹敵する。多分クマより強そうに見える。

 アンスヘルムは普段は今みたいな人型でいるが空を飛ぶときはドラゴンへ変態する。ドラゴンへと変わったその鱗はまるでオリファルコンの様に固く普通の矢がその鱗を通ることはない、と言っている。その口にはサメのような歯、いや牙がギッシリと並び、もし噛まれようものなら骨をも砕いてしまうだろう。

 彼は皆からアンと呼ばれている。


 「このウデドケイってやつ凄いね…欲しいな…」


 翼の生えた鳥人族の女はイリーナ。疾風迅雷の如く目にも止まらぬスピードで空を飛べるらしい。スラリとしたそのスレンダーな体躯は彼女の速さの根幹だろう。

 爪の部分を変化させることができ、その爪は猛禽類のような鋭い爪へと変貌する。翼は手首の辺りから腕の付け根にわたって生えておりそれ以外は人間の容姿とあまりかわりなかった。


 「助けてくれたお礼として上げたいのも山々だが、貰い物なんだ。悪いな」

 

 「かっけぇなァ!俺も欲しいなァ」


 フワフワとした銀色毛並みの狼男の名前は、その色にちなんでギン。

自由に人間になったり人狼になったりできるらしいが満月の夜だけは意思に関係なく勝手に変貌してしまう。月の満ち欠けにより力が増減し満月の夜は最高の力を発揮できるらしい。さらに今は直立しているが四足歩行で走ることが出来その速さは中々のものだとか。

 体格を見る限りあそこの少女一人くらいは背中に乗せて走れそうだな。

 今日は満月だから狼の姿をしているが、普段は人間の姿をしている。人間の姿になると毛がなくなり、骨格や顔つきも人間のような姿へと変貌しそれ以外はすっかり人間になってしまうらしい。


 「後生だゼェ、兄貴ィ」

 

 「お前の兄貴になった覚えはないんだが!?話聞いていたか!?」


 170cm程の体をクネクネさせてダダをこねる姿は滑稽で、不気味であった。


 「こらっギン!お客人に失礼だぞ!」


 彼女は魔王。マオー?真央?初めて聞いたときは困惑したがどうやらこのマオウというのは固有名詞で、魔王という呼び名が正しいみたいだ。

 本当の名前は訳あって言えないらしいがみんな魔王様とよんでいるだけあって偉い人だという。偉いのになぜこのボロ屋に住んでいるのかは知らないが。

 魔王と聞けばゲームやファンタジーの世界では悪の親玉だが、この世界ではどうもそういうわけではない。それはまあ後々知る事になるだろう。

 赤い瞳は確かに魔王っぽいが、容姿にいたっては普通の人間と変わりなく、ただの幼い少女にしか見えない。黒の長髪は側頭部で一つ編みこまれ肩から前にたれており、その細い輪郭と白い肌に赤い瞳は綺麗に映えている。130cm程の身長はとても可愛らしく、身にまとう衣服は黒を基調としワインレッドやグレーのレースが施されこの家には似つかない程綺麗な装飾が施されていた。魔王は見た目相応に、子供らしい振る舞いをするが、そのドレスの()いた背中から見える素肌は大人顔負けの艶めかしさを醸し出していた。

 服装といえば、他の奴らもこの家に似つかない小奇麗な服装をしている。なにやら裏がありそうだ。

 魔王の魔族らしい特徴だがその内包する魔力が凄まじく人間の魔法使いをはるに凌駕しているとのことだ。

 どうやらこの世界は魔法が存在するみたいだ。


 「気にしないでください。えーっと魔王様。それより、助けていただきありがとうございます。」


 「いいのだ、いいのだ。そんな畏まるでない!道端に人が倒れていたら誰だって助けるのだ!」


 どうやら道端に倒れていたのを魔王が発見、竜族のアンスヘルムが俺をこの家へ運びあのベットに寝したとのこと。


 「あ、これは返すぞ。どうやら本当に危ないものらしいからの。」


 そう言って先ほどの騒ぎの元凶となった銃とホルスター、そして腕時計を返してもらった。

 先ほどの偶発で弾は残り6発、予備のマガジンはいつも上着の内ポケットにいれていたはずだが、どうやら転移した時に落としてしまったみたいだ。

 銃が存在しないこの世界で銃弾は貴重だ。先ほどみたいなことがあってはたまらないから、しっかりセーフティをかけて念のためマガジンも抜いておいたほうがいいだろう。使うときは慎重に選ばなくてはならない。


 「いやぁびっくりしたぜェ!あの音にそして目にも止まらぬあの速さ!それはどうなってんだァ?」


 「これはな、ここでこうやってこうするとな…」


 こうやって銃の使い方を教えていると昔アフリカの紛争地帯で同行した一般人のことを思い出してしまうな…。元気にしているだろうか。


 「ほぅ…ツカサの国の文明は発達しているのだな!」


 ふむふむと面白そうに講義を聞く魔王は好奇心旺盛なごく普通の少女にかみえなかった。







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