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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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001-04 物の怪退治



 朝起きると、裏の畑のほうが騒がしい。何かあったのか。とりあえず、俺も脱いでいたワイシャツを着て畑のほうへ向かった。

 畑には既に魔王様とアンスヘルム、そして悲しい顔をしているイリーナがいた。何かあったのかと聞くまでもなくその状況が目に飛び込んできた。


 壊されてる。


 昨日作った柵が一晩でまた壊されていた。しかも昨日と全く同じ位置を。これだけの勢いで突進されたのだ。一番畑に近い部屋に位置している俺はすぐに異変を察知して見に行かなればならないはずなのに。

 普段の俺だったらそれに気付いて目を覚したはずだが昨日はダメだ。完全に爆睡していた。


 「おうおう何かあったのか」とギンも後からやってきたが、その光景を目の当たりにして膝を落とし落胆していた。当然だ。俺たちが一日かけて作った柵が壊されていたんだから。


 魔王様は壊された部分を見ると目を細めて何かに気が付いた様子だった。何に気付いたのかはわからないが、魔王様は俺たちにこう言った。


 「今日は物の怪狩りだ!お主ら準備をするのだ!」


 「ですが、魔王様今日は街に…」


 「いや、今日はいい。まず物の怪を退治することが先決だ。この大きい足跡はピグゥのものにしては大きすぎる。故にピグゥに似た物の怪の類だと私は思う。そしてこの頑丈な柵さえも壊してしまうほど強力だ。近くの集落にまで被害が及んでからじゃ遅い。」


 だろうな。結構頑丈に組み立てたはずだがそれを壊されたんだ。相手は強力だ。


 「ツカサ、お主は客人であり人間だ。部屋で静かに待っておいてくれないか」


 まぁ当然かこの中で俺は確かに一番力が弱いかもしれないな。でも、それじゃあまるで、人間の俺が足手まといだと言っているみたいじゃあないか。実に不満だ。


 「魔王様、心配してくれるのはありがたいですが、それは不要です。」


 「お主に怪我されては主としての立場がの…」


 「俺は過去にアンスヘルム程の大きさをした凶暴な動物とサシで戦ったことがあります。もちろん勝ちました。運よくでなく実力で、です。俺をそんじゃそこらの人間と一緒にしないでください。」


 この声に怒気が孕んでいることが自分でさえ分かった。これは自信だ。俺ならやれるという。


「はぁ、仕方ないの。その代り単独行動は禁止じゃ。お主はギンと一緒に行動するのだ。わかったな」


 うん、と頷き俺たちは準備に取り掛る。

 俺は部屋に戻ってジャケットを着てネクタイを締めた。仕事をするときの格好はスーツ姿だと決めているからだ。この格好は緊張感をもって事に臨むことができて集中力も一層高まる。一応、ホルスターにワルサーも収めておく。

 再び俺たちは畑に集まった。アンスヘルムは網を持ちギンはオオカミに変身していた。


「無理はするでないぞ。イリーナは空から捜索、他の私たちは地上を二手に分かれて捜索じゃ。見つけたら大声でみーつけたー!と叫ぶんじゃぞ。いいな!」


かくれんぼかよ!!俺は心の中で突っ込みを入れながらギンと一緒に森の中へ入っていった。

少し歩いていると水の音が聞こえた。


 「近くに川があるんですよォ兄貴ィ」


 「へぇ…」


 進路を変えて音の聞こえるほうへ行くと、川幅10メートルくらいところに水が流れていた。

 流れはまあまあ早く、後ろの大きな山の方から流れてきているようだ。そして、水は魚が泳いでいるのを確認できるほど透明度が高かった。


 「魚食いたくなってきたな」


 「さぼって魚くっちゃいましょうかァ?」


 「ばかたれ」


 元のルートへ戻り道なき道を進む。

 それにしても足跡も痕跡も見当たらないな。それに風による葉擦れの音や行く先々にある小枝をギンが踏む音くらいしか聞こえなかった。逆に言うとそれがたまらなく不気味だった。


 「兄貴ィ。なんかやけぇに静かじゃあないですかァ?」


 「あぁ、俺も今それを思っていた。」


 まるで森自体が何かを隠している。いや、畏れているかのような。

 もちろんこっちの世界に来てから急に植物の気持ちがわかるようになったとか、そういうわけじゃあない。でもなんだかそんな気がするんだ。

 しばらく、森の中を進む。家はもう完全に見えなくなっており、魔王様たちも相当離れているということがわかる。これじゃみーつけた!って言っても聞こえないじゃないか!!

 頼りになるのはイリーナだけか。


「兄貴、少し待ってくだせぇ」


「どうしたギン。」


「何かこっちのほうから匂うんでさァ」


 クンクンと鼻を鳴らし匂いを辿り、その匂いのするほうへ向かう。またしばらく歩くと少し(ひら)けた場所が見えてきた。

 そこは一面にたくさんの種類の花々が咲き乱れており、中央には、大きな一本の木が立っていた。

 よく見ると木の下に何かがある。いや、何かがいる。


 「ギン、何かいるよな」


 「いますぜェ。兄貴ィ。あいつピグゥだぜェ。物の怪なんかじゃぁねぇ。めっちゃでっけェピグゥだァ。」


 ピグゥと呼ばれるそいつはイノシシのような姿をしていた。

 茶色の毛に左右に発達した二本の牙。だがその大きさはイノシシの10倍は確実にあった。熊と闘ったことなんかまったく自慢にならないぐらい大きい。こいつがあの柵を破壊したっていうのか。


 「ピグゥというのはもっと小さいんじゃなかったのか?」


 「そのはずだがよォ。俺にもなんだかわからねぇけどあれはどう見てもピグゥだと思うぜェ」


 ギンはおびえていた。あんなもの見たことないといわんばかりに。しかし俺は逆だった恐れというより畏れ、もっと神秘的な何かを感じていた。

 あのピグゥと呼ばれる巨大なイノシシが柵を壊した犯人なのか?確かにあの体躯だったらあの柵など容易に破壊できるだろう。

 ピグゥはこちらに気付いている。気付いていながら動かずじっとそこに座っている。


 「なぁギン。俺たちはどうすればいいんだ。ここで叫んでイリーナに来てもらうことは得策だと思うか?」


 「俺は思わねぇなァ。俺は今ビビっちまってる。今すぐにでも逃げたい気分だぜェ。ハハハ」


 ならどうするんだ。どうすればいい。俺はそのイノシシに一歩歩みを寄せた。


 「おい兄貴ィ!馬鹿なことはやめておけ!それ以上近づくとどうなるかわからないぞ!!」


 おいおいギン。口調がおかしくなってるぜ。

 それに俺は今何故だかわからないが高揚している。なんだかあのピグゥってやつとは仲良くなれそうな気がするんだ。だから少し俺に任せてくれよ。


 「くそっ!俺ァどうすりゃいいんだよォ…」


 一歩また一歩と歩みを進める。慎重に、慎重に。

 しかし、空を飛んでいたイリーナがこちらの並々ならぬ様子に気付いたらしくギンの隣にすぐさま降りてきた。


 「何かあったのギン!ツカサくん!」


 するとそのピグゥはイリーナを見るや否や途端に耳をふさぐほどの大きな咆哮を発した。


 「え、なに!?なんなの!?そいつ!」


 イリーナはそのピグゥの姿に驚いている暇もなく、俺の目の前のピグゥは立ち上がりエリーナめがけて突進した。


 「おい!!イリーナ逃げろ!!」


 すぐ、空中に回避したイリーナ、横に避けたギン達は事なきを得たがその後ろにあった木はそのピグゥの突進によって大きく損傷した。

 次に狙われたのは俺だ。ピグゥは俺の方を向くと、後ろ足で地面をひっかくようなしぐさで頭を前後に振りこちらを威嚇している。

 俺はピグゥの後ろの木の損傷具合を改めて確認した。あんな突進食らったらひとたまりもないな。

 俺はジャケットを脱ぎ、それを構えた。闘牛士のようにそのジャケットをひらひらさせ、そのピグゥに刺激を与えている。


 「こいっ!!ここめがけてこいッ!!」


 ピグゥは思いっきり地面を蹴りこちらに向かってきた。

 その体に見合ったすさまじい迫力のままジャケットに突っ込んできたピグゥ。俺はそのジャケットを翻さずに手放した。


 「よし、うまい具合に引っかかった。」


 俺が手放したジャケットはピグゥの大きな二つの牙に上手く引っかかり見事視界を奪って見せた。

 視界を失ったピグゥは俺の後ろにそびえる巨大な木に突っ込み俺が引っかけたジャケットをはずそうと必死に頭をぶつけていた。見る見るうちにジャケットがボロボロになっていく。

 あぁ…おれのアルマーニのスーツが…。と、内心肩を落とす。

 イリーナが呼んできたのか、直ぐにアンスヘルムも魔王様を載せて空からやってきた。

 俺はというと、気が抜けて地面に座していた。


 「大丈夫かツカサ!!」


 「大丈夫です。俺の上着以外みんな無傷です。」


 そう俺の上着以外は。

 しかし根に持っていられる程余裕はなかった。ピグゥは魔王様たちが降りてきたのに気付いたのか、ボロボロになったジャケットの隙間からこちらを覗き猛突進してきた。

 幸か不幸か魔王様は俺のことを心配しているせいかピグゥに気が付いてない。駄目だ。これでは魔王様と俺共々ぶっ飛ばされる。

 ギンのところへ行っていたアンスヘルムもこちらのまずい状況に気が付いた。


 「魔王様ーーーーッ!」


 アンスヘルムの声で魔王様が振り向くがもうそこには巨大なピグゥの顔が迫っていた。

 ここで取れる最善の行動は何だ。一番は俺と魔王様がどちらも助かること。だが、ここから立ち上がって魔王様を引っ張って逃げようとする間にぶっ飛ばされる。早撃ちはどうだ。今から撃っても間に合うだろうが、魔王様が前に立っているせいで上手く狙えそうにない。魔王様が下手に動けば魔王様にあたっちまう。んじゃ、次に優先すべきは…

 くそっ!!!


 俺は魔王様を思い切り突き飛ばした。

 その直後思い切りピグゥにタックルされ、俺は森のほうまで吹っ飛んだ。


「カッ、ハッ…」


 痛えぇ!!!痛い痛いやばいッ…ハアハア…ぐっ、あぁ!?耐えろ耐えろ…ッ!いや耐えられるかこんな痛みッ!多分ろっ骨が折れてるってやつだ。痛えぇ。

 俺は声に出ないほどの痛みを味わっている。悶絶ができない程の痛み。こんな苦痛を味わったのはノースコリアで拷問を受けていた時以来だ。

 肺に刺さっていないだけまだまし…なのか。

 このレベルになると自分が大丈夫か大丈夫じゃないかすらわからないほどの痛みである。


 「ツカサ!!!!」


 駆け寄ってきたであろう魔王様の声と姿が二重に聞こえ見える。三半規管付近もおだぶつだ。


 「ま、魔王様…はあはあ。無事みたいですね。よかったです。ようやく一つ恩を返せたみたいです。」


 「そんなこと言ってる場合か!?」


 魔王様は俺を揺すっているがそれだけは勘弁してほしかった。めちゃくちゃ痛い。魔王様、重篤な怪我人が出たら救急車が来るまで動かしてはならないのですよ。直ちに交通整理を行ってください。


 「魔王様…俺大丈夫です。痛いから体ゆすらないで…」


 「待っておれよすぐ直してやるからな。」


 まるで戦争映画のワンシーンみたいだ。

 魔王様は俺の胸に手をかざし何かを唱えていた。すると手から光が放ち見る見るうちに痛みが引いていく。


 「ははっ、嘘だろ…魔法ってすげぇ…」


 「もう大丈夫のようだの!ほらすぐ立て!次がくるやもしれん!」


 めちゃくちゃ変な感じがする。痛かったのに急に痛みがなくなるってこんな感じなんだ。なんか気持ちいい…。体の垢が全部なくなって疲れが取れたみたいなそんな感じ。


 「魔王様ァ!ピグゥですよあれェ!見てください!めちゃくちゃデッケェ!」


 逃げていたギンがピグゥの反対側から叫んだ。俺はこうなった経緯を説明した。

 あのピグゥは最初おとなしかったこと。

 しかし急に大声で()いたと思ったらすぐ突進してきたこと。

 魔王様はそれを聞くとピグゥの方へ歩みを進めていった。


 「待っておれ、私が話をつけてくる。」


 話をつけてくるって…。どうやってだ。あの化け物と会話でもしようっていうのか。

 まさか肉体言語!?やだ…魔王様っょぃ…。

 ピグゥは魔王様を発見すると、また後ろ足で地面をひっかき威嚇をしている。

 魔王様はピグゥの10メートルほど前にとまると、何かを唱え始めた。たぶん、この世界で魔法を使うには呪文が必要で、それを声に出して唱えないと魔法が使えからそれを今やっているんだ。

 思いっきり地面を蹴って走り出したピグゥに、魔王様は怯むことなく見据えていた。

 刹那、俺には目で追うのがやっとだったが魔王様は一瞬でその突進するピグゥの背中に立ってみせた。突然目の前から姿を消した魔王様にピグゥは動揺しあたりを見渡す。ピグゥは魔王様が軽いからなのか乗っていることに気づいておらず、こちらを向き思い出したように突進してきた。

 まずいな。先ほどの傷の回復で変な気持ちになっているため立ち上がることができない。

 魔王様は背中の上ですかさず何かを唱えたが、ピグゥに何かが刺さっているのに気が付くと詠唱を中断しそれを抜いた。

 すると途端に、今まで暴れていたのが嘘のようにそのピグゥはその場に座り込み、この広場に静寂が包み込んだ。

 な、なんだぁ!?と思わざるを得ない。

 俺、アンスヘルム、ギン、イリーナは、全く状況が理解できずあっけにとられていた。

 魔王様はピグゥから降り、たった今引き抜いたものを魔法で燃やしてしまった。


 「魔王様、今抜いたのは何だったのですか?ここからじゃ見えなかったのですが」


 アンスヘルムが一同思っていたことを口にした。

 俺からもほとんど見えなかった。でもなんか、羽…のような何かだったような気が…。


 「うむ、心配するな。これで危機は去った。気にする出ない!」


 いや、無理がある!!めっちゃ気になる!なんだ今の!


 「魔王様、今のは…」


 「ツカサ!大丈夫か?怪我はないか?」


 魔王様は俺の質問をはねのけて、すぐさま俺のところに近寄ってきて心配してきてくれた。魔王様の魔法のおかげで全く異常はないっていうのに…。それになんだか変な気分だな。


 「は、はい。魔王様が直してくれたおかげでなんとか無事です。」


 「よかった。本当によかった。お主の体はお主一つしかないのだ。だから大切にしておくれよ」


  魔王様の体だって一つだろ。もとより捨てた命、魔王様のために使ったっていいじゃないか。


 「お主のおかげで私は救われた、本当に感謝している。」


 「魔王様こそ気にしないでください。恩返しです。」


 「ふふっ、そうだな。」


 俺はあそこで魔王様を突き飛ばしたがそれが本当に正解だったのか不正解だったのかは今ではわからない。魔王様は俺のおかげだと言っているがもしかしたら魔王様は魔法が使えるしあそこから瞬時に逃げられたのかもしれない。魔王様が突き飛ばされても俺のように魔法でどうにかして治るのかもしれない。

 俺がそれでも何故、魔王様を助けようとしたのか。ひょっとしたら魔王様はあの状況で魔法が使えなくてあの小さな体があの巨体に突き飛ばされ、万が一でも魔王様が助からないという可能性があるのならば。

 俺が魔王様を助けなくちゃあならないんじゃないか。

 俺は魔王様にそれだけの恩があるんじゃあないか。


 だから俺は助けた。

 こんなことが考えられるんだ。俺はそうとう魔王様に心酔している。



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