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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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001-02 鳥獣族の女



 しばらくその部屋で魔王様と雑談したのち、これから一緒に暮らすことになる、ギンとイリーナ、アンスヘルムに一言あいさつ回りをしようということになったのだ。

 まず初めに、畑であくびをしてダルそうに水をまいているギンのところへ向かった。

 ギンの姿を見たおれは少々驚いた。狼人間の時のギンは肩幅が発達し、銀色の体毛に覆われ人間とかけ離れていた姿をしていたのだが、今はまったくその面影すらない。そのギンが完全に人間になるなんて信じられなかった。


 「えーっと驚いたな。すっかり人間になるなんて。それと昨日はありがとう。これからいつまでになるかわからないが世話になることになった。よろしく頼む」


 「すっかり人間ねェ…。ツカサの兄貴だっけかァ?よろしくたのむぜェ!」


 畑仕事を中断し、軽く伸びをするギン。

 人間バージョンのギンは、長い銀髪で左目が隠されており、ロックなバンドマンを彷彿させるようなイカすTシャツを着ていた。人間のギンは顔立ちは整っており、黙っていればイケメンの部類だ。


「ギンは訳あって3か月前から私たちと一緒に過ごすようになったのだ。」


「一応、兄貴の先輩だなァ!」


 俺は兄貴なのか後輩なのかボケなのかという疑問はさておき、どうやらギンも新入りらしい。


 「見ての通り少し抜けている部分が有るがよろしくしてやってくれ」


 「よろしくなギン。」


 「魔王様ァひどいっすよォ~」


 魔王様の口ぶりからボケだということが分かった。ギンとは仲良くなれそうだ。

 次は裏の林で薪割りをしているイリーナのところへ向かった。イリーナのいる辺りには切り株がボコボコとたくさん並んでおり、その脇に短く伐採された薪が少し積まれていた。

 こちらに気づいたのか、後頭部でひとつに纏まった深緑色の長い髪の毛、馬のようなしっぽを揺らし振り向いた。

 今日の服装は昨日のおしゃれな格好と打って変わって麻布(まふ)のようなモノでできた服だった。

 イリーナは人見知りなのか、魔王様たちと話している姿とは打って変わって内的な反応を俺に見せた。


 「えっと・・・ツカサ君、だよね。よろしく。」


 「あぁ、よろしく。」


 俺が握手を求めようと手を差し伸べた時、少しおびえてる感じがしたがきのせいか。


 「イリーナは、私が小さい時から一緒にいる遊び相手なのだ!」


 「魔王様のこと、掴んで空飛んでたらアンに怒られたこともあったよね!」


 「懐かしいのう・・・」


 魔王様が小さい時っていつのことなんだ…今でも十分小さいはずだが?なんて失礼なことを考えているとイリーナはすごい曲芸、いや、能力を俺に披露してみせた。

 翼を大きく広げ、森の方に視線を合わせた。その大きく広げた翼を思いっきり森の方に向けて叩きつけるように振り抜くと、その方向にあった木2,3本が一斉に綺麗な細切れになった。


 「うわ…すげぇ…」


 初めて見たその異形な光景に俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。ミスターマリックのマジックショーでもこんなの見れない。


 「あはは、まぁ、魔王様に比べたら全然だけどねー」


 魔王さまの方をチラって見ると切り株の上に立ち決めポーズを、いや、手のひらを森の方へ向け何かを唱えていた。魔王様はいったい何をする気なのだ。


 「ツカサ!見ておれ!」


 魔王様がそう叫ぶと、イリーナは魔王様が手のひらを森に向けているの気づき逃げるように勢いよく空高くに飛び上がった。

 次の瞬間、立っているのがやっとの程の凄まじい風が(あた)りに吹き荒れた。魔王さまの手によって発生したその風は余りにも強力で、反射的に目を瞑ってしまうほどのものであった。

 風が収まったことを確認し閉じていた目を開き、ガードしていた腕を解くと、目の先100mの木々のほとんどすべてがなぎ倒されボロボロになっていた。

 魔王様はひと呼吸後、笑顔でこちらを振り向くが、何かに気づいたのか途端にぞっとした表情になった。恐怖している魔王様の視線の先、つまり俺の後方に目を向けると、腕を組んで堂々と仁王立ちをしているアンスヘルムの姿があった。

 その荘厳(そうごん)な双角には、飛ばされたであろう木の枝が引っかかっており、威厳あったアンスヘルムの姿は、ユーモア溢れるシュールなドラゴンおじさんへと代り映えしていた。

 吹き出しそうなのを堪えていると、アンスヘルムが口を開いた。静かに、諭すように、声を荒げず。


 「魔王様」


 「はい」


 「あなたはこの森をどうするおつもりですか」


 「えっと・・・」


 そう、魔王様はイリーナのように綺麗な形に木を切断したのではなく、完全に己の力を誇示する目的で目の前にあった木を不格好な木片にしてみせたのだった。

 アンスヘルムは自分に被害が及んだことに対して怒っているのでなく、魔王様の力の使い方に対して怒りを示しているようだ。


 「ハハハ・・・参ったな・・・最近力を使ってなかったからかの・・・アハハ」


 「おぉなんだなんだァ!?すごい音が聞こえたと思ったら、森がなくなってるじゃねぇかァ!」


 騒ぎを駆けつけてギンがやってきたが、アンスヘルムの顔を見るや否や、そろりと踵を返して元いた畑に帰っていった。何をしに来たんだ。

 空に逃げていたイリーナもいつのまにかアンスヘルムの後ろに回り、木の影から覗き込むようにこちらの様子を伺っていた。

 アンスヘルムはすーっと息を深く吸うと、魔王様に歩みを進め、静かに、決して声を荒げず、説教を始めた。魔王様はというとピンっと背筋を張り、気を付けをしてアンスヘルムの目を見ながら説教を受けていた。

 かくいう俺はイリーナが切ったであろう切り株に座り、その様子をみていた。

 それにしても魔王様の力は厖大(ぼうだい)だった。魔法であんなことができるなんて…。もし地球であれができたら土木業者から引っ張りだこだな!

 二日目にして魔王様の巨大な力を魅せられた俺はこの世界に少しだけ期待を膨らませていた。

 説教が終わると魔王様は緊張していた肩を落とし深い息を吐いた。俺はすかさず魔王様に近づき、耳打ちをした。


 「魔王様すごいですね。あんなことができちゃうなんて」


 「ふふーん。すごいであろう。」


 「魔王様」


 アンスヘルムに名前を呼ばれると、またピンと背筋を伸ばして硬直した。


 「ツカサ殿もです。あまり魔王様を(おだ)て上げないでください。今回のことは褒められる事じゃないのですから」


 「はい…」


 俺まで怒られてしまった。


 「あ、そうだ。アンスヘルム…。えっと、昨日はベッドまで運んでくれたんだったな。ありがとう。それにさっきは悪かった。俺も気が動転していたというか…」


 恥ずかしいところを見せてしまった。大の大人が涙を見せている姿を他人に晒すなんて。


 「そして、まぁいつまでかわからないけどこれからよろしく。」


 はぁ…と深い溜息を付いたアンスヘルムはしぶしぶ俺と握手を交わした。ゴツゴツした手はかすかに震えていたが大して気にしなかった。


 「よし!みんな仲良くなったことじゃし、家に戻って朝ごはんの支度でも…」


 「魔王様」


 「はい!」


 「後片付けをしましょう」


 「はい…」


 まるで父親と子供である。その姿は微笑ましくも羨ましくも感じた。

 それで、魔王様の魔法とイリーナ繊細な風の力によって、それらの残骸を片付け、俺たちはボロ屋に戻った。




 ――ボロ屋リビング



 食事がテーブルに並び、皆が食事を囲むように椅子へ座った。この世界の食材は見る限り普通で、変なものは入ってるように見えなかった。

 この世界にも宗教があるのか、神に食前の祈りを捧げた。


 「主、御恵みを感謝する。今日も一日皆(みな)が健康でいられますように」


 魔王様がいうと彼らは拳を軽く握り親指の爪を額にかざして三秒間ほど目をつむった。

 見よう見まねでやってみたが、クリスチャンのような宗教観は俺にはないため少々気恥ずかしかった。

 みんなもぐもぐと食べていると魔王様が唐突に、今日はツカサの歓迎パーティをやろうと言い出した。ギンはイエーイと乗り気だったけど、アンスヘルムとイリーナは困った顔をしていた。そう、俺は真似かねざる客みたいなものだ。一刻も早く信頼を得なければならない。


 「そう!ギンの様に盛り上がっていこうではないか!では、私とアンで街へ買い物に行ってくるからお主たちは留守番して待っておいてくれ!」


 ゲフゲフとむせるイリーナは手に持っているフォークの底を机にどんどんと叩きつけ嫌がっている。


 「えぇ!?魔王様今日は私が街に行く番だよねぇ!?」


 「イリーナ、はしたないですよ。魔王様が行きたいとおっしゃってるんだからなにか考えがあってのことでしょう。」


 イリーナはチラリとこちらを見ると、下を向き口をとんがらせ表情を曇らせた。そんなに俺といるのが嫌なのか…。俺って意外とメンタル弱いのかもしれない。

 魔王様はバクバクと朝食を急いで片付け、アンスヘルムを連れて、街へ向かった。なんという早さ。

 俺たちはというと、魔王さまがいなくなってからは終始無言で、まるで日本の神道一家の食事風景だった。




 ――食後リビング




 俺は今、何もすることがなくぼーっとしていた。本棚にあった本を開いてみるも全く字が読めずそっとじ、床の木目を凝視したりしていたがすぐ飽きる、本当に何もしていなかった。

 この世界にきた理由を考えても答えは見つからない。別に今更元にいた世界に帰りたいとも思わないから俺は、それ以降あまりそのことについて考えることはしなかった。

 あまりにも何もすることないから、外で何か作業をしているイリーナとギンを見に行った。家の裏手に回るとギンとイリーナはハンマーや紐を持ち出し畑の柵に手を加えているみたいだ。

 イリーナは俺が来たことに気がつくと、スススっとギンの後ろに隠れるように回りこみ、ギンの肩を叩き俺を指さした。


 「なにしているんだ?」


 「あっ。兄貴ィ!実はよォ、昨日、いつの間にかここの柵が破られちまったみたいでよォ。最初物の怪の仕業かと思ってたんだがどうやら違うらしいんだァ。足あとを見るにピグゥって生き物のはずなんだけどよォ。足の大きさが見たことねぇくらい大きいんだァ。それにピグゥって言うのはもっと小さくて、比較的大人しい動物のはずなんだけどなァ。」


 ギンは損傷した柵の付近に着いた足跡を指さして、困惑していた。

 その箇所は大きく破損しており、地面には豚のような(ひずめ)の後が残されていた。囲んでいる柵は、別段貧弱というわけでなく、強度もそこそこあり、相当な力がぶつからない限り壊れないと思うのだが・・・。

 

 これが壊されたとなるともう作り変えるしかなさそうだな。


 「だからよォ、これを直すついでにここを囲う柵全部を補強してぇんだァ。でも、どうすればいいのかこういうの作ったことない俺たちにはわかんなくてよォ。兄貴はこういうの作れるんかァ?」


 「そうだな…。補強をするのもいいがこれはもう作り変えるしかない。この頑丈な柵が壊されたんだ。また来られたら困るからな。作物(さくもつ)の被害状況はどんな感じなんだ?」


 「それがよォ、全くと思って不思議なんだがなァ。見てくれよこの畑ェ。全く被害がないんだぜェ!足跡も柵が壊された所までだァ!」


 確かに奇妙だ。まるで柵を壊すことが目的みたいな進路だな。この柵に何かあったとかか…。触ってみる限り一見ただの木の枝だ。何が目的で壊されたんだ。足跡をたどろうとするも畑の外は地面が固いため足跡はたどれなかった。


 「まぁいい。何はともあれさっさと作っちまおう。その物の怪に限らず、他の生物だっているんだろ?まだ熟していない野菜を漁られたら叶わん。魔王様もきっと悲しむことだろうし」


 「おうおう!随分と板についてきたなァ!魔王様のためだとよォ!カッカッカ!」


 う、うるさいやい!俺だって恩返しの一つや二つしたっていいじゃないかい!


 「できるの?」


 イリーナは心配そうに見つめてきたが俺は堂々と答えてやった。


 「任せておけ」


 ようやく俺の能力(ちから)が役に立つ時が来たみたいだ。木材を縄やハンマーで細工するのは組織で教わっている。サバイバル知識だけでなく、銃を固定する際の木材の置き方や、拳銃の銃身を伸ばして安定させるために、木材で手製の銃床(じゅうしょう)を作成したりもした。

 専門職ほどの期待はしないでほしいが、魔王様がさっき行った自然破壊の産物を使えば十分に事足りるはず。

 早速作業に取り掛かった。まず手始めに古い柵は全部取り除き、以前より太く高い支柱となる木片を均等に深く地面へ突き刺した。そのあとは、横梁(よこばり)の張り方、より強固になる結び方を教授しながら作成し、ギンやイリーナが一人でもできるように成長させた。

 そして、俺たち三人は協力してようやく畑を囲う柵を作り上げた。まさかあの木片たちがこんなところで役に立つとは思わなかったし、魔王様も喜んでくれるだろう。

 気が付くと太陽の一部は山の陰に隠れ、気が付けば反対側に月が昇り始めていた。


 「はぁはぁ…兄貴ィやりましたぜェ…」


 「すごいよツカサ君!!」


 「今までの経験も無駄にならなかったってことだな。」


 俺たちは出来上がった柵に寄りかかり談笑していた。朝の気まずい雰囲気なんて嘘みたいに。

 イリーナも俺の前で普通に笑ってくれるようにもなったし、どうやらこの柵を一緒に作ったのは間違いじゃなかったみたいだ。

 今朝から目を合わせることすらしてくれなかったイリーナが俺と初めて目を合わせて会話することができたんだから十分な進歩と見ていいだろう。


 「やっと、目を合わせてくれたな」


 「あっ…」


 何かを一緒に作り上げるっていうのはこういうことなんだな、と一人しみじみと思う。

 今まで一人でそつなく、いや、一人でするしかなかったと思いこんでいた俺にとってこういう多数で何かを成し遂げるということは新鮮で面白みがあった。

 俺もまだまだ人間的に成長する余地が有るということだ。


 「アハハ、うん。ツカサくん、改めて宜しくね!」


 「あぁ、これからよろしく。」


 なんだか照れくさいな。人間はこういうことを繰り返して成長していくんだろうな。


 「んじゃ、魔王様とアンもあと少しで帰ってくるだろうし、今日のパーティの準備でもして待ってよう!」


 「へへっ、楽しみだぜェ…久しぶりのパーティだァ…」


 ギン、お前がそれを言うとなんとなく不気味だ。俺たちは不格好な柵を背にして、ボロ屋へと向かった。









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