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【終わり】女王陛下のシークレットサービス  作者: わんこ
Spy And Princess Of Magica
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0013 策士魔王様



 少々お待ちくださいというと、先ほど男性が刺繍をしていた所の反対側の奥のカウンターで店員夫婦は、何やら作業を始めた。先程採寸で使った木の棒を見てノートにメモをしている。

 魔王様は採寸したところにあった椅子に座って何やら難しい顔をしており、俺はその顔を見つめていた。

 シャルはというと、興味があるのかドレスを見て回っていた。

 暫くすると作業を終えた店員たちが俺たちにサイズが会う服を見繕って並べて見せてくれた。


 「こちらが、今店にある中でおふたりのサイズに合う服です。」


 紳士服は色合いに対した差はなく、白か黒かくらいだった。俺はもしもの時を考えて夜でも目立たない黒のタキシードに紺色のリボンを選択した。

 シャルはというと、かなり悩んでいた。パーティみたいなのが嫌いと言ってたし、シャルはこういうのに興味がないとばかり思っていたが、違うらしい。いつもどおり表情をほとんど変えずに選定している。

 どれにしようかどれにしようかと生地を触ったり裏地を見たりしていたが、ようやく決まったみたいだ。

 シャルが選んだのは、黒色を基調としたドレスに、5cmの青のヒール。

 ドレスといっても魔王様が来ているような末広がりのドレスではなく、膝の上五センチくらいの短いドレスだった。

 シャルがそのスカートを選んだのは太ももに装着している短剣が取り出しやすいようにという機能性を重視してだろう。青のヒールはシャルの髪色のような空色をしていた。

 その後俺たちは店員さんに勧められて奥の試着室で試着をした。

 俺が先に姿を見せると魔王様は笑顔で似合ってるぞと言ってくれた。あー幸せ。これがしたかったんだよこれが。

 シャルはというと、お決まりの無表情でその場でくるりと回ってみせた。スカートがぱっ舞うも「おっおっ、脚がエロい!」とはならず太ももから物騒なものが見えたせいで俺は心底萎えぽよだった。さっきみたときはエロく感じたはずなんだが…。


 着替えて思ったんだが黒率が高い。魔王様も黒いドレス着てるし俺も黒のタキシード、シャルも装飾が少ない真っ黒のドレスだ。

 これからどうやって社交パーティに参加するのかわからないが、闇に紛れる場合は黒の方が最適だしこれはこれでいいのかもしれない。


 「うむ、二人共似合っておる!これでいいな!店員さん!これくださーい!」


 「お買い上げありがとうございます!2000グランになります。」


 「少女、高価なものをありがとう」


 「ふん、いいのじゃ。活動経費じゃ」


 二つで2000グランは高価らしい。未だに貨幣の価値がつかめない。

 俺は魔王様にお金の入った布袋を渡した。硬貨を一枚一枚手渡しで店員に渡していく。


 「んじゃ、俺着替えてきますね」


 「待つのじゃツカサ。」


 更衣室に向かう足を止めて振り返る。


 「面倒だからそのままでおれ。青髪の少女、お主もじゃ。」


 なんと魔王様、俺にこの姿で歩けというのか。この真夏に。シャルは涼しげでいいだろうけど、俺は滅茶苦茶暑い。だがまて、これもプレイの一環だと思えば…。

 上着は脱げばいいだけではというノリツッコミは野暮か。

 魔王様は裏で後片付けをしている店員の方へ歩いて行き、唐突に話を切り出した。


 「ところで、店員さんよ。人攫いの噂聞いたことがあるかの?」


 俺は思わず魔王様のほうを向いてしまった。

 シャルも訝しげにその様子を見ている。


 「人攫いだってぇ?なんだってまあアンタってみたいな子供が・・・」


 子供じゃないわい!と言いたげだが、魔王様は話の腰を折らずに続けた


 「実はの、私の姉が行方不明なんじゃ…それでの…グスッ」


 「誘拐されたのは魔王様のお姉さまだったのかッ!」なんてはずがなく見たところただの泣き落しだ。


 「そうかいそうかい。あんたもそこのお兄さんお姉さんも大変だねぇ…。私も力になってやりたいけど…。そういえば、今日来る貴族が人身売買に関わっているって噂聞いたけど、まさかあんた!?パーティに行ってなにかしようとしてるんじゃないでしょうね!?」


 「ま、まさかそそんなことはー」


 魔王様の演技はへたくそでめちゃくちゃ棒読みだった。なぜそこまで下手になれるのか。


 「あんたはそれなりの家柄であのパーティに参加できるんでしょうけど、あの館で騒ぎを起こすようなことはやめなさい!!!あそこの領主は最近どうも怪しいんだ!夜に館の前を通った人が怪しい集団が館の中に入っていったのを見たとか…」


 「それってどんな格好だったとか聞いたのかの!?」


 魔王様は店員に詰め寄って聞いた。


 「お、落ち着いて。聞いた話だけどね、フードをかぶってはいたけど体格や様子を見るにどうやら魔族らしいんだよ。嫌だねぇ~。私は別に魔族に対して抵抗はないんだけど、魔族嫌いで有名なあの領主が家に魔族を入れるなんてどう考えても怪しいじゃない。」


 「そうなのか…うぬ!感謝するぞ店員さん!」


 「あんたたちも無理はしないでねぇ。」


 「案ずる必要はない!私はこう見えて強いかなら!」


 呆けた顔で魔王さまを見た後ふふっ、と笑った店員の表情はとても優しかった。

 俺たちはその後店を出てまた南側に向かって歩いていた。太陽もさらに少し傾き建物の影も伸びており、人も先程より多くなっているようだ。それに人が端により真ん中の道に馬車が通れる蔵のスペースが出来ていた。もうそろそろ貴族がくるのだろう。


 「先程の店で聞いたのは思いつきだったのですか?」


 「いや、前々から計画しておったのだ」


 魔王様…策士だった。

 話を聞くとボロ屋に住んでから3か月、毎日交代交代であの街へ行き情報収集をしていたとのこと。毎日誰かしらいなかったのはそういうことか。

 今までは領主が怪しいとか、昨日人攫いらしき人が馬車(ここでいうドラグノが引く荷車)に人や魔族をつめていた。とかそう言う噂は度々耳にしていたらしい。

 しかし、先程野菜屋の店主の話は貴族が今日来ないと知りえない情報でもあり、さっき聞いた店での情報はあそこで高価な服を買わないと得ることができない情報だった。

 俺は青果店で魔王様は、店主の口車に乗せられて野菜を買ったとばかり思っていたが、よく考えればあれは情報を聞き出すために使う常套(じょうとう)手段だった。

 買う買わないの押し問答、所謂(いわゆる)緊張状態を意図的に作り上げ、その緊張状態が弛緩(しかん)した時に店員は顧客に対して心を開いて色々なことをしゃべってしまうという心理的戦術だ。嗜好品のような高い物を売っている店では悩むより、パッと買って自らの財力を誇示することのほうがこの心理的な戦術はより有効になるという。

 青果店などの小売商はお互いに情報交換をし最新の市場の状態を把握して、仕入れの数などを調整するから頻繁に情報が行き交う。そのため常に新しい情報が入ってくる。

 それに高級な店はそれなりの身分の人が買いに来るから、身分の高い人からの情報がよく集まる。領主の館に夜出向くような人間は招待されるような偉い人だろう。

 これらの偶然、いや魔王様による必然が重なってこれらの情報が得られたというわけか。


「少女賢い」


「私を誰だと思っている!ナーッハッハッハ」


 その笑い方悪く見えるからやめませんかね。

 すると、遠く、街の入口の方で歓声のようなものが聞こえてきた。貴族が来たのだろう。

 俺たちは急いでそのまま狭い道を南側の方、つまり貴族がやってくる方へ進んでいった。少し行くと、10人くらいの集団がドラグノに乗ってやってくるのが群衆の頭の隙間から見えた。観衆はワーワーと旗を振ったり、ただぼーっと見ている人から様々だった。日本だったら写真からツイッターへのダブルコンボだろう。

 魔王様は身長が小さいから俺が肩車をしてその光景を見せてあげた。

 俺の目の前にあるのは魔王様の太もも。俺は正直言って貴族なんてどうでもよくなっていた。これはやばい。

 俺の事情など(つゆ)しれず、魔王様はひとりの男を指差した。


 「あいつだ…」


 魔王様が(ゆび)()したのはきっとあそこの貴族だ。

 青の上着に白のフリフリのシャツ。ズボンは腰まで上げており、その腰には剣が帯刀されていた。金色の髪の毛は後ろで縛っているが肩甲骨あたりまで伸びており、あいつが貴族だなとひと目でわかる容姿だった。

 手を振って愛想を振りまいているが、その奥に潜む悪魔の姿を知る住人はほとんどいない。

 ここから魔王さまの表情は伺えなかったが、太ももに力が入り俺の首を締め付けている様子を肌で感じる限り、相当ご立腹の様子だ。やったぜ。

 150cm程のシャルも自力で見ることはできず、重い剣を置いてピョンピョンと俺の肩に掴まりながらはねていた。


 「おいツカサ!見えるか!あれを見ろ!」


 そのさらに後方、魔王様が指をさしたのは明らかに怪しげなフードをかぶった奴がドラグノの列の最後尾でそのあとに続いていた。どうやらあの貴族が黒なのは決定的みたいだ。

 その深くかぶったフードからは魔族かどうかというのは確認することはできなかったが、そいつらは領主、貴族、そして人身売買に関与している。

 魔王様、怒りに震えるのはわかるけど首を絞めないでほしい。いやもっと締めてほしい。

 それからというもの貴族が過ぎ去りこの通りにいた人はすっかり霧散した。歩きやすくなってはいたが俺たちは建物と建物の小さな路地で先ほどの様子から得られていた情報を制していた。


 「みたか、ハレンチ娘。私が見たといったのはあの最後尾にいたフードの奴だろ!」


 「あまり良く見えなかったけどその姿は確認した。」


 「あいつのような格好をした奴が私の家の近くに潜んでおるのだ。奴らは一人ではなく複数おる。」


 「覚えておく」


 「ムキーッ!お主さてはさっきの話全く聞いておらんかったであろう!!」


 まーた始まったよ。気が済むまでそのやり取りを傍観していた。

 それにしても、今まで魔王様たちが掴めなかった情報がこう次々と出てくるものなのか、あの黒いフードをかぶった奴らだっていままでは姿を見せること極力控えてきたはず。なぜこのタイミングで大衆に晒した。意図がわからない。


 「だーかーらー!私の作ったトマの実は格別なのじゃ!!!」


 いつの間にか話が脱線していた魔王様とシャルに、俺は次の行動を促した。





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