009 傭兵エヴァン
その後俺たちは、なんとか警備の人たちを撒き、街の中心の噴水広場にやってきた。この広場は東西南北へ続く道があり、俺たちが逃げて来たのは西側のエリアで、反対の東側の小高い丘の上に領主の館と思しき建物が堂々と建っていた。そして4つの道が交差する広場なだけあって人通りも多かった。
「ふぅ…どうやら撒いたみたいだね…」
「お主らが蒔いた種じゃがな」
「お前ガキのくせにつまんねえな~」
ゲラゲラと笑うシスターの女に、悔しそうな魔王様。
俺は今この女に対して怒りを覚えている。なぜ魔王様のギャグを馬鹿にするのか意味が分からなかった。もしここで馬鹿にしたせいで魔王様のギャグが二度と聞けなくなったら一体どうするというのだ。俺はこの女の発言が全く理解できない。
「ゴホン。えーっと、さっき奴隷がどうとかいう話をしていたよね。まだ話す気にならない?」
エヴァンは場を持ち直して、改めて先程の続きを口にした。俺たちは確かに奴隷についての話をしていた。が、それをここで言う必要があるのか?魔王様を横目で見ると、何かを考えているようだった。
「なぜお前たちに言う必要がある。お前たちが俺たちの敵で証拠はない。」
一部性格に問題あるが、こいつらはたしかに身なりはきちんとしており、シスターの女であれだけのパワーがあるんだから、他のメンバーも力も相当あるということが分かる。だからこそ情報を提供するのは危ないんだ。
貴族や領主が暗躍しているとなると当然権力そのものが信用できない。こいつらみたいな身なりのきちんとした奴ら程警戒しなければならないのだから。だが、こいつらの話しぶりや態度から予想するに目的は同じで奴隷商人を追っているのだろう。
ここで情報交換をして協力するのも手だが、魔王様がGOと言わない以上俺は話を濁らせる他ない。
「ははっ、確かにそうだ。だがこちらも同じだ。君たちも僕らの敵じゃないと立証できるかい?事は緊急を要する。そうだな…」
男はウンと頷き続けた。
「結構話も長くなりそうだし、あそこの喫茶店で一杯お茶でもしながら情報交換といこうじゃないか。」
「矛盾しておるぞ。時間がないのだろ。そんな悠長にお茶などしてる場合ではないのはないかの。」
「言葉の綾さ。時間はないが『それ』について話す時間はある。僕の仲間がこんな広場で立っていたら目立っちゃうし、それに…こんな一通りの多いところじゃ誰に聞かれているかわからないだろ」
まるで俺たち二人があの路地で話しているのは愚行だったと言ってるような言い方だ。まあ実際こいつらに話を聞かれてしまっていたのだから、それは事実であり反省すべき点であるな。
「それもそうじゃ、かふぇーでお茶でもしながら、『ゆっくり』話そう。」
魔王様はかふぇーと言った。
――喫茶店
六人がけのテーブルに俺たちは案内された。無口女と俺と魔王様、反対側にエヴァン、モル、大男。大男は席から半分はみ出ている。
「さて、飲み物も手元に来たみたいだし、自己紹介からはじめよー」
合コンのようなノリに違和感を感じながらも自己紹介はスタートした。男女比率も適当だしもしかしたらこれから魔王様と合コンができるのかもしれない。
「私はモルミーレ。25歳。見ての通り神職だ。」
見ての通りと言われてもあの戦いの後ではコスプレをしたヤンキーにしか見えない。コスプレを楽しむのはいいけど自分の性格に合ったコスプレをしてくれることを切に願う。スケバンとかがにあってるんじゃないか。ハッハッハ。
「今なにか失礼なこと考えなかった?」
「「いや・・・」」
魔王様と声が重なったということは、多分同じようなことを考えていたのだろう。
次に大男が口を開いた。
「俺のことはメルと呼んでください。歳は34。見ての通り魔法使いです」
「お前もかよ!」と危うくツッコミを入れそうになってしまった。どうみても魔王使いには見えない。その棒はなんだ?鈍器じゃないのか?その棒振り回して暴れるんだろ?しかもなんだよその可愛い名前は。メルちゃんって呼べばいいのか?赤ちゃん人形か。
「この杖は万年樹の枝から作った特製の杖です」
その太さは枝っていうより幹だと思う。「ガーッハッハッハ」とか豪快に笑いそうな顔しているのに意外と無口な大男。しかも言葉使いがメチャ丁寧である。
俺の右隣に座っている女はさっきから全く表情筋が動いていない。何故さっきから何もしゃべらない。
「シャル。17歳。この剣は飾り。使うのはこれ。」
抑揚のない話し方は特徴がないという特徴があった。
それにその剣が飾りってそんなレベルじゃなかった。その大きさ。戦闘相手を確実に騙しに来てる。
シャルがスカートをめくるとダガーナイフのような小型ナイフがずらりと太ももに巻きつけてあった。うわあ…近くで見るとえっちな足だなあ…。なんて思ったりするが俺は真顔だ。
魔王様はその脚を見せるのが気に食わなかったらしく、いつになく突っかかってきた。
「そうやって足を見せびらかすのは下品だからやめたらどうかの」
「なんで。私の足綺麗だよ。男の人ってこういうの好きなんでしょ」
「そういう問題じゃないのだ。こういう場で見せるのはおかしいと言っておるのだが?」
「負け惜しみ。自分が持っていないのもを妬むのは人間の業」
だんだんとヒートアップしていつの間にか、睨むように顔を見合わせて口論をしていた。
その睨み合いは俺の前で展開している。魔王様のフローラルな香りが漂ってきている。それにとても顔が近い。近くにいたいということは好き。魔王様は俺のことが好きだ。(Q.E.D)
エヴァンが二人を宥めて、どうにか収まった。お前さっきシャルの足ちらちら見てただろ。
俺も危うくロリコンになるところだったがその危険を回避した。
「俺の名前はツカサ。えーっと21歳。訳あって、7日ほど前からこのお方と共に、暮らしている。」
大和司という名前があるがこの世界でダイワツカサって名前は違和感がある。名乗る度「変な名前だね!」って突っかかられても困るためこれからツカサってだけ名乗ることに決めた。
こいつらもファミリーネームは言っていないみたいだし。
「私は…。うぬ、私は…少女とでも呼んでくれ。」
魔王様は自らの名前を濁した。『魔王と呼び給え』と言わないと言うことは今回の事件に何か支障をきたす、もしくは他人に言えないわけがあるってわけか。
「なるほどね。なにか言えないわけがあるのか。なら僕たちも考慮してそう呼ばせてもらうとしよう。」
「少女っていうより幼女。」
「お主、さっきから私に突っかかってきておるがなにか恨みでもあるのか!?」
「最初に突っかかってきたのはあなた。」
「ムキーッ」
怒る魔王様を見るのは新鮮だ。どうやら魔王様は幼女と呼ばれるのがいやらしい。子供はみんな大人になりたいというが大人の自分としては子供に戻りたい。あわよくば魔王様の幼馴染になりたい。
それにしても話が一向に進まない。エヴァンは二人を止めるのに必死でヤンキーのモルミーレはニコニコ見ているだけ、大男のメルは寡黙を貫いている。このパーティ大変そうだと客観的視点から思う。
あのボロ屋のメンツも意外とキャラ濃いけど。
「話が進まないのだが、そろそろ始めないか。」
俺は見切りをつけて切り出した。今この状態を仕切れるのは俺しかいないのだから。
「そうだね、早くはじめよう。でもその前に…。」
エヴァンは俺たちに顔を近づけて、できる限り小さな声で話し始めた。
「もう隠さず、話を円滑に進めるために言っちゃうと。」
エヴァンは懐から紋章が書かれた金属片を取り出して俺たちに見せつけるように机に置いた。
「これ見たことある?僕たち、いや、僕は勇者なんだ」
魔王様の眉が微かに動いたのを俺は見逃さなかった。
勇者というのは王様のため、この国グロニカ王国のために動く義勇兵団のことだ。王国の騎士団とは別にこの国を思い、信念、大義、信仰のために動く傭兵のこと。主に国王の命令によって動く存在であることは騎士団と変わりないのだが、性質は全く異なるため一般に騎士団とは分けて捉えらていれる。
勇者たちは13人存在し、個の力が優れた者から順にその座に座ることが出来る。勇者は二権分立の役割を有し、王様が間違った判断をした際の抑止力にもなる。
勇者が見せたその金属片が本物かどうかはわからないが、魔王様の反応を見るに多分本物なのだろう。
「勇者じゃと?何故、国王の犬っころがこんなところで人身売買の情報を集めておるのじゃ」
魔王様の口が悪くなっている。
「これは王様直々の依頼でね。人身売買のことは今まで本当に知らなかったみたいだけど、どうやら王様の友人の友人が攫われちゃったのが引き金になったらしく、勇者の一人である僕に協力を求めてきたんだ。僕も特に断る理由もなかったし、人身売買なんていう負の遺産が今もなお行われているなんて僕も許せなかったしね。」
この発言で勇者と王様の関係性を正しく把握することができた。勇者は王様の依頼を断るくらいの権力はあるということだろう。
それ先程魔王様と話していたときは王様はこの事件に関知していないと話していたはずなのに…。魔王様の怪訝な表情から察するに王様が動いていたことは知らなかったらしい。事は秘密裏に動いていたということか。
するとヤンキーのモルミーレが思い出したかのように、口を開いた。
「そういえばエヴァン、昔言うこと聞かないからってガチで家の外に締め出されていたよなあ~。アッハッハ思い出すだけで笑える~」
「それって今する話!?」
エヴァンとモルミーレは昔から仲良しという情報をまず手に入れた。どうでもいいが。




