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ハッピーエンドにはまだ早い。  作者: 世野口秀
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第五十話 「家族」

 その声に驚いたエルは一瞬 体を硬直させ、桃太郎は銃を手にした彼女の右腕を下から跳ね上げるように裏拳で弾いた。エルの指が引き金を引くが、銃口が上を向いていたため弾丸は天井を貫きかけた石材が床に落ちた。

 その間に小さな影がシンデレラの元へと走り寄り、庇うようにして立ちふさがった。

「お、お母様から離れろッ!!」

「……スキナー!! 何故ここに⁉」

 そこに現れたのは、現フェアリーテイルの第一王子であるスキナー王子だった。

「お母様を傷つけたら、容赦しないぞッ!!」

 威勢よく叫んではいるが、スキナーは人見知りが激しく引っ込み思案な性格だったはずだ。いや、よく見れば彼の膝は笑い 歯は恐怖でガチガチと震え、今にも泣きだしそうになっているのを必死で堪えている。

だが、それでも彼は立っていた。

最愛の母を守るために。

「驚いた……。スキナー王子、某は貴方を過小評価していたようです」

 彼のとった行動に、桃太郎は感服したように笑みを浮かべた。ただ守られるだけでなく、守ろうとした彼の姿勢に桃太郎は尊敬の念を覚えていたのだ。

 だが部屋の出入り口には錫の兵隊が居たはずだが、と思ってシンデレラが目を向けると。

「……申し訳ありません。勝手なこととは思いましたが、止められるのは王子だけかと」

 錫の兵隊は深く頭を下げ、そう言った。

 シンデレラは彼の言葉に困ったような、しかし優し気な笑みを浮かべた。

「やれやれ、子どもの成長というものは早いな。驚いたよ」

 それだけでない。

錫の兵隊の背後にもう一人 現れた。

「国王……ッ!! あなたまで」

 姿を現した国王にハンプティダンプティは驚嘆の声を漏らすが、王自身は当然のようにシンデレラの元に歩み寄る。

「何があったのか、私にはわからん。だが、シンデレラが何か秘密を抱えていたことは知っている。裏でよくないことをしていたのもな。

「……ッ!!」

 王の言葉にシンデレラは体を震わせる。気付かれているとは思っていなかったのだろう。

 しかし、王はシンデレラを責めているわけではない。

「でも、それでも私はお前を信じている。たった一人の妻だからな」

「あ、あなた……ッ!!」

 王の言葉に堪え切れなくなったのか、シンデレラは一層 大きな涙の粒を落とした。

 そして国王は、エルや桃太郎たちの方へと向き直した。何があったのかは知らないが、しかし硝煙の燻ぶる銃を手にしたエルと、自分が知っている限りのシンデレラの行いを考えれば予想はついた。

「頼む。この通りだ。望むものなら何でもやる。だから妻だけは助けてくれないか」

 王のとった行動もまた、土下座であった。

 一国の王が床に頭を擦りつけるというものが、どれだけのものかは桃太郎も琥珀もハンプティダンプティも、エルもよく分かっていた。

「……お願いします。どうかお母様を助けてください」

 同じように、スキナーもまた頭を床につけた。

 その光景にエルは顔を蒼褪めさせ、銃を握る手を震えさせていた。呼吸は荒く、体温は異様に低いのに汗だけは大量に掻いていた。

「エルさん。……今ここでシンデレラを殺したら、本当にあなたは加害者になりますよ。もう泣いて喚いて『私が被害者なんです』なんて言えなくなりますよ。どうしますか?」

「わ、分かってる。……分かってる!! でも、どうしたら良い⁉ どうしたら良いんだ!? 十年もこの女を殺したくて復讐したくて嘲笑い返してやりたくてここまで来たのにッ!! 何で……何でお前ばっかり、幸せになるんだ」

 いつの間にかエルの目からは涙が溢れていた。

 ずっと待っていたのに、こうやって引き金を引く日をずっと待っていたのに。

 もう彼女には撃てなかった。

「……エルさん。別に某は善人じゃない。シンデレラがどうしようもない悪党で、あなたがどうしようもない処まで堕ちても構わない人間なら、止めなかった。でも、あなたはそっち側に行くべきじゃない」

「う、うあああ……」

 エルは自分の涙をぬぐおうとして、銃を取り落とした。

 いや、落としたわけではなかった。

「エルさん……。手が、……無くなってますぞ?」

 瑚白が声を震わせてそう言った。

 その場にいた全員の視線がエルの右手に集まる。

 すると確かに、彼女の右手首から先が消えてなくなっていた。

「……え?」

 間の抜けたような声を、エルは漏らした。


本当にもう少しなのですが、学会発表が近づいているため場合によっては明日明後日の更新が1話もしくは更新できないかもしれません。

すみませんが、ご了承ください。

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