第四十八話 「王妃」
重厚な鎧に身を包み、巨大な盾と円錐状のランスを持った重騎兵である。立ち居振る舞いや纏っている雰囲気が、どう見ても先ほどまでの十把一絡げの雑兵とはわけが違う。
「おーおー、何か強そうなのが来たなあ。……王様直属の近衛騎士団とかそういうやつでしょうかな?」
桃太郎の視線の先、重騎兵達のその奥で豪奢な装飾の施された鎧を纏い、剣先を地面に突き刺して杖のように持った男。
フェアリーテイル国王に対し、桃太郎は薄く笑って訪ねた。
国王のそばには、おそらく近衛騎士隊の隊長と思しき真っ赤な装束を身に着けた男性が立っている。
「こんにちは、国王陛下。ちょっとそこを通りたいのですが、よろしいですかな?」
「逆に聞くが桃太郎。よろしいと思うか?」
互いに口調は落ち着いており、平静を保っているように見える。
しかし、その心の内は大きく異なる。
(国王直属の騎士か。まあ強いが鬼ヶ島の鬼ほどじゃない。国王自身もそれなりに鍛えてはいるが……手負いの某でも軽く勝てるな)
(まさかここまで容易く突破されるとは……。わが精鋭でも勝てるかどうか)
これまでの経験から冷静に敵を『値踏み』し、ただ勝てるからという余裕で落ち着きを持っている桃太郎に対し、王のそれは虚勢だった。ここまで容易く城まで攻め込まれたことは、フェアリーテイルの歴史上一度もないことだった。王が動揺するのも当然だ。
そして桃太郎は王が動揺していることに気が付いていた。
「陛下。某たちは、他国の間者などではない。間者があれほど目立つマネをするものか。考えればわかるはずだ。何故、某たちが間者などというデマで我らを攻撃した?」
だから彼は揺さぶる。
何も桃太郎たちは戦いに来たわけではない。
王妃を、シンデレラを引きずり出せればよいだけなのだ。そのためにここまでやって来たのだ。
「わが妻が、そう言うたのだ。シンデレラがお前らは敵だといった。そして私は彼女を信じている。ならば、お前らは敵だ」
だが桃太郎の読みは外れた。
揺さぶる目的で放った桃太郎の言葉に、国王ははっきりとした口調で返した。その目からは迷いが消え、桃太郎を見据えている。
「おいおいおーい、奥さん大好きパパかよ。そういうのは嫌いじゃないけどな。仕方ない、一国の王を敵に回したくはないけど、推し通ります」
桃太郎、瑚白、エルの三人と王が率いる近衛騎士隊。
彼らは同時に動き出し、両陣営が激突――。
「お待ちなさい」
しなかった。
ある人がその場を阻んだからだ。
「……王妃ッ!!」
一本足の錫の兵隊を伴い、姿を現したシンデレラに周囲がざわつき、国王は慌ててその傍へと駆け寄る。
「何をしているんだ、シンデレラッ!! 此処は危険だ!!」
「分かっています。だからこそ、です。桃太郎、瑚白、エル・フォスケット。あなた方の用件は私にあるのでしょう。ついておいでなさい」
シンデレラはそう言って城の中へと戻っていく。
国王や周りの兵たちも予想だにしなかった王妃の行動に目を丸くしていた。
ただ一人だけ、エルは目を細めて王妃の方をじっと見つめていた。
「……エルさん、いきなり撃ちそうだから銃 預かりますよ」
しかし彼女の剣呑な目に気が付いた桃太郎が、サッとエルの持っていた小銃を奪い取った。
「あ⁉ 何をする⁉」
「言ったろ? 殺させませんよ。とにかく、王妃と話してみらんことにはどうにもなりませんし」
小銃を肩に担いだ桃太郎と瑚白が先に歩き出し、エルは考え込むように親指の爪を噛んでいた。
しかし観念したのか、彼女は走って桃太郎たちを追い抜いた。
「良いだろう。あいつの話を聞いてからどうするか考える。だが、我は恨みを忘れてはいないぞ。……ほら、お前も退け」
エルは困惑したように立ち尽くしていた近衛隊長の胸を押して退かせ、王妃の後を追っていき、そのあとを瑚白と桃太郎がゆっくりと歩いてついていった。
「あ、ハンプティダンプティ。お前も来いよ」
「え!? ああ、分かってるよ」
桃太郎の呼びかけに、戦いに巻き込まれないように後からついてきたハンプティダンプティも慌てて駆け出す。
あとに残されたのは、何が何だか分かっていない様子の国王と兵たちだけだった。




