第四十五話 「集合」
すみません。
更新が滞りました。
もうそろそろ完結するかと思います。
桃太郎の左腕はひしゃげていた。
捻じれて曲がって押しつぶされて、袖は焦げて弾け飛んでおり、見るも無残なものとなっていた。
しかし、言ってしまえばそれだけだ。
拳で腹を貫かれた怪物よりは幾分かマシだろう。
「がぁあッ⁉」
怪物の口からリットル単位で血が流れだし、足元を真っ赤に染めた。内臓に骨が刺さっている状態で、更に腹を貫かれたのだ。臓物はミンチのように潰され、砕けた肋骨の破片が体の内側から突き刺さっていた。
桃太郎が血に濡れた拳を引き抜くと、怪物はゆっくりと膝をついて倒れこんだ。
「な、何故だ……?」
「あ? 何って何が?」
「俺の拳の方が先に届いたはずだ。たとえ致命傷にはならなくとも、雷撃でお前の身体を麻痺させることが出来るはずだった。なぜ、お前の攻撃が俺に届いたのだ……?」
息も絶え絶えに、倒れこんだままの怪物は尋ねる。
彼の言葉に、桃太郎は黙ってひしゃげた左腕を指で指し示した。よく見れば、彼の腕には何かが巻いてある。
「……なるほど、竹か」
「そういうこと」
桃太郎が左腕に巻いていたのは、竹の籠手だった。細い竹を何本も腕に巻き付け、紐で固定しておいた。この竹は猟師小屋においてあったものであり、これもまた罠か何かに使うものだったのだろうが、それを失敬させてもらったのだ。
この竹はもちろん、ただの防具として身に着けたのではない。
竹というのは、絶縁体なのだ。
「全身に装備するには竹が少なくてな。とりあえず腕だけ守っておいてんだけど、それでも雷はある程度は防げたよ。……ただ、普通にパンチが効いた。左腕が死んだよ」
左腕をプラプラと垂れ下げて、桃太郎は肩をすくめた。
この光景を見ていたハンプティダンプティは、そこでやっと姿を現した。
「おお、よくやったな! 桃太郎!!」
「ああ、ハンプティダンプティか」
「ふん、お前もいたな」
ハンプティダンプティの姿を見た怪物は忌々し気に吐き捨てる。だが姿を現したのは、ハンプティダンプティだけではない。
「あれ? もうそっちも終わったんですかな?」
「何だ? みんな集まっていたのか」
同じタイミングで、瑚白とエルもやってきた。瑚白はその胸に濡れて毛並みが倒れた子どもの狼を抱っこしていた。
「そうか……。みんな負けたか」
その様子を見て、怪物は力なくそんな言葉を落とした。
だが彼の声は誰にも届くことはなく、代わりに桃太郎の怪我を見た瑚白が慌てて駆け寄った。
「うわわ! ご主人、大丈夫ですかな!?」
「めっちゃ痛い。痛すぎて漏らしそう」
「いや、漏らされるのは勘弁ですなー……」
「それよりも、瑚白君。その狼の子どもは?」
「ああ、これですかな? あの人狼ですぞー」
戦いを終え、勝利した三人は油断したのか談笑を始めた。その様子を、倒れ伏した怪物はまるでヘドロのように濁った目で見つめていた。
怪物は勝負に負けた。
だが、まだ息はある。
倒れたまま桃太郎の足首を掴むべく、その太い腕を伸ばす。
「おっと、あぶね」
しかし、桃太郎は軽く足を上げて回避した。この程度の速さでは桃太郎を捉えることはできない。
エルが咄嗟に銃口を怪物の頭に向けるが、しかし桃太郎がそれを制した。
「いや、待ってください。エルさん」
「……何で? こいつ、全身を燃やしても、腹を貫かれてもまだ生きているのよ? 今の内に止めを刺すべきじゃないの?」
「どうせアンタは人を撃てないでしょう」
図星だったのか、桃太郎の言葉にエルはおとなしく銃口を下げた。
だが代わりに口を開いたのは、怪物だった。
「なら、桃太郎。お前が俺を殺せ。……今の内に殺しておかないと、後悔するぞ」
「……」
桃太郎は何も答えず、かろうじて左腕に残っていた竹の籠手を剝ぎ取った。
何も言わない彼に対し、怪物は更に続けた。
「お前、俺に同情しているのか? 俺たちを憐れんでいるのか? だから殺さないのか? ならばその考えは即刻に捨てろッ!! 俺は人間に拒絶された!! そこのヴェラヴォルフもそうだ!! 化け物だからと迫害されてそいつは一人ぼっちになった!! 錫の兵隊もそうだ!! アイツは自分の主君に見捨てられ、惚れていた女にも死なれた。だが、そんな俺たちを受け入れてくれたのが、王妃様だった!! その王妃様に傷でもつけたら、俺はどんな手を使ってでも、貴様らを殺しに行くぞ!!」
「……はあ、五月蠅いよ。お前」
激高する怪物に対し、桃太郎は冷たい視線を向けた。




