第四十三話 「圧倒的忠誠心」
「……このッ!!」
「しゃアッ!!」
踏みこみ拳を放つ怪物に対し、桃太郎は確実に攻撃を返せるようになっていた。一発一発はジャブのように軽く、怪物としてはダメージを負うことはないが、うっとうしいことに変わりはない。
「ぬぅうあッ!!」
気が急いた怪物は咄嗟に右フックを放ったが、スイングが大きくなり桃太郎に容易く見切られる。
「シャアおらッ!!」
刺すような左、右、左。
顎を弾くような左ジャブで怪物の脳を揺らし 彼の動きを一瞬 遅くすると、右ストレートが怪物の顔を貫き、最後のおまけと言わんばかりに左フックで怪物の脇腹を叩く。
「かはッ!?」
内臓に突き刺さった骨が体内で跳ね、臓物を引っ掻き回す。怪物の口から血がこぼれ、鉄臭さが口一杯に広がる。
そもそも内臓に骨が刺さった状態でこれだけ動けるだけでも異常なのだが、怪物は通常の人間よりも痛覚が鈍いのだ。そのお陰でこれほどの重傷でも戦っていられるが、しかし痛覚が全くないわけではない。
いくら何でも内臓をかき混ぜられれば足は止まる。
(怪物の動きが止まった!? もう一発 打てる!!)
硬直したように動きを止める怪物に対し、桃太郎は更にもう一発の拳を放つべく、腰を落とし足を肩幅に開いてバネのように筋肉を縮めて力を溜めると、穿つような一撃を——。
「があああああああッ!!」
「危ねぇ!?」
しかしそこで切り払うような怪物の手刀。
桃太郎が思考するよりも早く、体に叩き込まれた技が桃太郎の身体を動かす。仰け反るように上半身を後ろに倒し、手刀を回避した。
しかし手刀が桃太郎の頸を掠め、鮮血が舞う。
危うく頸動脈を切断されるところだったが、何とか首の表皮をそぎ落とされる程度で済んだ。
「はー、今のは本気で危なかったな。お前、なんでその傷で動けるわけ?」
額の冷や汗をぬぐい、桃太郎が言葉を漏らす。
対する怪物は明らかにダメージが重く、顔は青くなっているのに汗だけは異様に掻いている。怪物は確実に追い込まれているはずだ。
「はー……はー……」
しかしその目は死んでいない。死人の身体を継ぎ接ぎして作られた 濁った黄色い目には、爛々と輝く光が見える。
「お、俺は負けん。王妃様に命令を受けたのだ……。仕事をくれたのだ。役割をくれたのだ。俺を、必要としてくれたのだ。ならば、負けるわけにはいかん!!」
血で赤く染まった歯を食いしばり、両足をやや広めに開いて腰を落とすことで、力の入らない下半身でも身体を支える。
いまだに折れない怪物の精神に、桃太郎は楽しそうに笑う。
「……はは、嫌いじゃないぜ。そういうの」
「笑っていられるのも今の内だ。俺はお前に対し……二つのことに気が付いた」




