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ハッピーエンドにはまだ早い。  作者: 世野口秀
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第三十九話 「ウルフ/ドッグファイト」

「ははははッ!! 何か策でも立ててきたかと思えば、何もできないなあ!! 犬っころめ!!」

 瑚白を追い立て、ヴェラヴォルフは声をあげて笑う。

 先ほど戦い始めてから、瑚白は防戦一方に追い込まれていた。というのも、ヴェラヴォルフが『ダメージをくらうほどに強くなる』という特性を有している以上は、不用意にダメージを与えることはできない。

 かと言って、攻撃よりも防御に秀でた瑚白にはヴェラヴォルフを一撃で倒せるような攻撃手段はない。

 それは瑚白自身が分かっていたことだ。

「びゃあびゃあ五月蠅いですぞー。そんなに吠えると狼よりも犬っぽいから、自制したほうがいいと思いますぞ?」

「ああ!? 何だとおま——」

「ていやッ!!」

 からかうような言葉の後に、瑚白は尻尾で地面の砂を『掴んで』ヴェラヴォルフの顔面に投げ掛けた。

 如何にヴェラヴォルフの身体が炎で出来ているとは言え、目は目でしかない。目に砂が入れば彼の動きも止まる。

「ぐわッ!? 狡い真似をッ!!」

「ちょっと失敬しますぞー」

 更に動きの止まったヴェラヴォルフに対し、瑚白は自分の尻尾を絡めて口と鼻を締め付け、それだけでなく分解された瑚白の煙状の体組織が口周りや鼻の穴を完全に塞いだ。

それはつまりヴェラヴォルフの呼吸するための空気の通り道を完全に塞いだということだ。

「ん!? んんんんん!?」

「ああ、呼吸はやっぱりしてるんですなー? それは良かった。一撃で君を倒せる方法が思いつきませんでしたので、まあこういうことになりますぞー」

 口調は軽いが、瑚白のやっていることはえげつない。

 一発で殴って倒さないと相手はドンドン強くなる。しかし一発で倒せるほどのパンチ力はない。

ならば、ジワジワと絞め落とすのが一番良いというのが瑚白の出した結論だ。

「さーて、このまま落ちてくれると助かりますがなー」

「ん、んんんんんんんッ!!」

 しかし、そう上手くはいかない。

 ヴェラヴォルフは、まるで巨大な線香花火にでもなったかのように辺りに火花をまき散らす。

 それはやがて火花というよりも小さな爆発といえるものになっていき、咄嗟に瑚白が尾の拘束を解いて離れた後に、辺り一帯を巻き込む爆発を起こした。

「……やれやれ、相変わらずとんでもない火力ですなあ」

「げほッ! ごほッ! 貴様ッ!! 窒息だなんて卑怯な手を狙いやがって!!」

 いまだ呼吸が辛そうなヴェラヴォルフは、瑚白に向かって怒鳴り散らした。しかし、瑚白は尻尾を振って楽しそうに笑う。

「えへへー、君は不思議なことを言いますなあ。ここは戦場ですぞ? 卑怯もクソもあるものか。負けるか勝つか、死ぬか生きるか、引くか推すかのどちらかしかないんですぞ? たかだか首を絞められた程度で怒るんじゃあないですぞ」

 その笑みは本当に心から楽しそうな笑みで、しかしだからこそヴェラヴォルフは怯えたのだった。

 こいつは、この状況で笑うような奴だったのかと。

 しかし、それも当然といえば当然のことなのだ。

 瑚白は戦場で生まれた狼煙神。

 とどのつまり本来は悪妖なのである。桃太郎の下にいることで温厚な性格にはなったが、好戦的な面が残っていることは否定できない。

「……ッ!!」

 気圧され、ヴェラヴォルフの足が止まっているうちに、瑚白は背を向けて駆け出した。

 慌ててヴェラヴォルフも地面を蹴ってその後を追う。

「ま、待てッ!!」

「いや待ちませんぞー。……さて、絞め落とされてくれれば一番楽だったのですがなー。こうなったら、二番目に楽な方向で行きますかな」

 後半は漏らすように小さな声で呟くと、瑚白はこれまで以上に地面を力強く蹴った。


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