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ハッピーエンドにはまだ早い。  作者: 世野口秀
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第三十八話 「薬莢排出」

 それこそ、桃太郎が初めてエルと戦った時に言っていた。

 エルの能力は正面から戦うよりも、一方的に狙撃したほうが確実に強い、スナイパー向きの能力なのだ。

 例え射線が通っていなくとも、跳弾させることで物陰に隠れた相手すらも狙撃できる彼女の能力は、スナイパーとしては驚異的な力だ。

 もしこれで相手が生身の人間ならば、エルは引き金を引くことに罪悪感をお覚えて、あるいは撃つことができなかったかもしれなかった。

 しかし相手は分身で作られた人形であり、破壊することに躊躇いはない。

 加えてこれまでは狙撃するような状況がなかったが、しかし今回は違う。錫の兵隊たちを振り払い、姿を隠して虎視眈々と彼らを狙えるような状況を作ったのだ。

「悪いな。だがこうなったら、最早 鴨撃ちだ」

 彼女の銃に照準器はついていないが、そんなものは彼女には必要ない。彼女の肉眼で捉えることができ、跳弾させるための足場が存在してさえいればエルは何でも撃てる。

 それだけに、それが出来るようになるためだけにこの十年を費やしてきたのだから。

 パン!! パン!! パァン!! 立て続けに銃声が響き、錫の兵隊たちが的確に撃ち取られていく。

「クソ!! 耳を澄ませろ!! 見えなくても銃声である程度の方向は探れるはずだ!!」

「む、無理だ!! 森の中で銃声が木霊するせいで、音源がどこか分からない!!」

「なら全員で円形に広がって、目を凝らせ!! 銃を撃った時の発砲炎がチカっと光るはずだ!!」

 その指示を受け、兵士たちは匍匐前進で移動し円形に広がると必死に発砲炎を探した。

 数発の銃声が響き、地面に倒れこむような姿勢をとっているおかげで弾は危うい所を掠めて外れるのだが、しかしそれでもさらにもう一人の兵隊が撃ち抜かれ、もう残っている兵隊たちは十人を切った。

「ええい!! まだ見えんのか、発砲炎は!?」

 焦れたように叫ぶ兵隊の声に、他の兵隊が声を張り上げて答える。

「……見えた!! 見えた!! あそこだ!!」

 彼が指さした先では、確かに発砲炎が光っているのが見えた。

 同時に発砲炎を指さしていた その兵隊は頭部を撃ち抜かれて破壊されたが、それでもエルがどこにいるか分かれば十分だ。

「行くぞ!! 一気に突っ込んで叩き潰す!! もう逃がさんぞ!!」

「「「「「おおおおおおッ!!」」」」」

 怒号を上げて兵隊たちは突っ込んでいく。

 その姿を見たエルは「おやおや、怖いものだな」と嘯くようにして呟き、ボルトを引いて空になった薬莢を排出して次弾を装填すると、隠れていた茂みから姿を現した。

「ほう!! いい度胸だな!! 逃げることをあきらめたか!!」

「いいや、もうこれで終わりになっただけさ」

 ボルトを戻して再装填を終えたエルはゆっくりと銃を目の高さに合わせて、照準を錫の兵隊の一体に合わせた。

 彼女の落ち着き払った様子を見て、錫の兵隊の内の一体だけが慌てたように声を上げる。

「ま、まさか!! お前ら、壁になって私を守——」

「遅い」

 静かに動いたエルの人差し指と、響き渡る一発の銃声。

 先ほどまで声を上げていた錫の兵隊は心臓を破壊され、バラバラにその体を砕いて地面に倒れこんだ。

 同時にほかの兵隊たちの目から光が消え、攻撃を受けていないはずの彼らも足を止めた。

「……瑚白君の言っていた通りだったな」

 エルが思い出していたのは、昨晩の瑚白との作戦会議の会話だ。


「ちょっと見ていて思ったんですがなー、あの兵隊ってみんな独立して動いてますよなー?」

 瑚白の質問に対し、エルは首肯を返す。

 すると彼は思った通りだといわんばかりに、納得したような表情を浮かべた。

「瑚白君? どうしたの?」

「ああ、はい。ちょっと思ったんですがなー、それだけの数の兵隊をそれぞれ全て操作するって、たった一人の本体に出来ると思いますかな?」

「……そうか! あの分身は完全にコントロールされてるわけじゃないのか!!」

「恐らくですけどなー。すべての分身が自我を持っている可能性もありますが、日本じゃそんなのは相当に巧妙な陰陽師くらいにしか出来んことでしたからな。この国でも、そんな芸当ができるやつはまずおらんでしょう」

「なるほど、つまり分身は遠隔操作ではなくある程度のプログラムに則っての自動操縦。それも全ての個体が自分で考えて動いているわけじゃないということか」

「はい、だから戦っているときに敵の様子をよく見ていてほしいのですな。敵の中に『仲間に指示を出す奴』が居れば、そいつがその集団の核ですぞ」


 そして瑚白の言葉通り、居た。

 時折 仲間の兵隊たちに声をかけている個体が。

「ま、そいつを撃ったらほかの奴らも止まるとまでは思ってなかったが。まあ全部 片づける手間が省けたな」

 ジャキッ!! と音を立てて、エルは銃のボルトを引き 空になった薬莢を捨てた。


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