第三十七話 銃撃戦
エルは銃を手に持ったまま山を駆け巡り、その後を追うようにして兵士達が地面に落ちた枝葉を踏みつぶしつつ追跡している。
走りながらエルは弾丸を装填し、前方の木の幹に向かって引き金を引いた。
銃声が森の中で反響し、跳弾した弾丸は的確に錫の兵隊の頭部を破壊した。
森の中は当然ながら木々が生い茂っており、それはつまりさせるために必要な足場が無数に存在しているということだ。
その点においてはエルの方が有利ではある。
しかし錫の兵隊もエルの戦法には慣れてきた。
「……ちッ!! やっぱり散開してくるか!!」
錫の兵隊たちは集団として行動するのでなく、できる限り距離を開けて散った状態でエルを追う。
着弾後に爆発を起こすエルの攻撃は、直撃せずとも爆発の余波でダメージを負いかねないため、できる限りばらけたほうがいいのだ。
勿論それだけというわけでもなく、的を散らしたほうがエルにとって狙いにくいということもある。事実、エルは三発に一度ほどの割合で弾を外してしまっている。
「撃てッ!!」
逆に相手方は集団で弾をばら撒いているようなものだ。走りながら腰だめの状態で売っている上、障害物の多い森であることも加わって碌に弾が当たることはないが、逆に言えば彼らにとってはそれでいいのだ。
撃ちまくってどこかで一発でも当たれば、足を止めることができれば、あとは寄ってたかって銃床——肩に当てて銃の照準を安定させるための部分——で殴れば勝てる話だ。
個ではエルの方が強くても、数というのはこの力を容易くひっくり返すのだ。
「まあ、そのくらいは我としても予想していたが」
そう言うと、エルは小銃を背負い その代わりにポケットから何やらS字フックの取りつけられたワイヤーを取り出し、すれ違いざまに近くの枝にフックを引っ掛けた。
すると彼女はジグザグに走って木の枝から枝へとワイヤーを引っ掛けて走っていく。
「……うん? 何だ?」
彼女が何をしているのかまでは良く見えなかった錫の兵隊は必死に目を凝らし、そして狭まった視界では足元のワイヤーの存在に気が付けなかった。
「うおおあッ!?」
兵隊のうちの一人が派手に転んだ。
さすがにその程度で壊されはしないが、一人が転べば集団の足は鈍る。
「なんだ!? 何だこれは!?」
「ワイヤーだ!! あちこちにワイヤーが張られている!!」
「きちんと周りを見ろ!! 見えないほどのものじゃないぞ!!」
いつの間にやら森の木々のあちこちにワイヤーが張られていた。
これは昨晩、エルが瑚白に言われて作ったものだ。
彼女たちが隠れていた地下室の上には、カモフラージュ用の猟師小屋が建てられていたが、いくらカモフラージュといえども中に何もなければ不審がられる。
罠を作るためのワイヤーや丈夫な針金は用意されていたため、それらの素材をかき集めて簡易な罠を張るための準備をしていたのだ。
とはいえ、罠といってもワイヤーを張り巡らせるだけのもの。
目を凝らせば簡単に見つけられるようなものだ。この程度では時間稼ぎにしかならない。
だが、エルにとってはそれでいいのだ。
「あれ? おい、エル・フォスケットはどこだ?」
兵隊のうちの一体がやっと彼女の姿が消えていることに気が付いた。
森の中に銃声が木霊した。
同時に、一体の兵隊の頭が吹っ飛んだ。
「……うおぉおおおおおッ!? 全員しゃがめ!!」
咄嗟に一体の兵隊が周囲に声をかけ、他の兵隊たちも地面にしゃがみ込み、木の幹の陰など近くに姿を隠した。
彼らの動揺した姿を見て、離れた茂みから顔をのぞかせたエルは薄く微笑みようにして笑った。




