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ハッピーエンドにはまだ早い。  作者: 世野口秀
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第三十六話 「再戦開始」

 トレーラーが横転するよりも前に、ヴェラヴォルフは車から飛び降り軽やかな着地を決めていた。

 彼は横転したトレーラーのコンテナをノックすると、「おーい、無事か?」と声をかけた。

 するとその中からパパパパパン!! と連続した銃声が鳴り響き、コンテナを銃弾が打ち抜いた。

 そして銃弾が貫通して脆くなったコンテナは内側から蹴破られ、その中からぞろぞろと錫の兵隊たちが姿を現した。

「ああ、無事だ。二体ほど損失したが、大きな問題ではない。本体さえ無事ならどうにでもなるしな」

 確かに、多少ひび割れや凹みなどダメージを負った様子ではあるが、錫の兵隊はそれでも二十体近くは存在している。

 まだ十分な数は残っている。

「で、何があった。怪物は?」

「……俺ならここだ」

 そう言って近くの茂みからむくりと上半身を起こした怪物が姿を現した。

 なぜ彼が外にいるかというと、横転した際に車の外に投げ出されたのだ。シートベルトも何もしていなかったので仕方がない。

「あー、痛え」

 この状況を引き起こした張本人(ももたろう)はというと、呑気に腰をさすってトレーラーのかつてフロントガラスがあった部分を潜って外に出た。

 すると、トレーラーに取り付けられていた刃のすぐ前に小銃を抱いたエルがへたり込んでいた。

 あともう一歩分エルが前に出ていれば切られていただろう。

「……何やってんですか? エルさん」

「わ、我が逃げた方向に車が横転してきたから驚いて動けなかったのだ!! もう少し気を遣え!!」

「あ、すみません」

 こんな事態でもマイペースな桃太郎。

 しかしエルに手を貸して立ち上がらせ、怪物に目を向けた時には もうふざけた雰囲気はなかった。

「よお、一日振り。ちょっと王妃様のところに行かせてもらいたいんだけど」

「生かせると思うか?」

 桃太郎と怪物は向き合うようにして睨み付け合う。

 同じように小銃を肩に乗せたエルは、錫の兵隊たちと向かい合う。

「君の相手はボクですぞー」

 コンテナの上に立つ煙を纏った瑚白がヴェラヴォルフに対しそう言い放った。

 琥珀の言葉にヴェラヴォルフは犬歯をむき出しにして笑った。

「はッ!! 昨日の敗北じゃあ懲りなかったみたいだな」

 彼もまた全身に炎を纏って狼の姿と化した。

 最初に動いたのは瑚白とヴェラヴォルフだった。瑚白がヴェラヴォルフを誘うように顎をしゃくり、別の場所へ移るために駆け出した。

 次にエルも銃を両手に持ち直して地面を蹴った。木々の隙間を縫うようにして走る彼女の後を追い、錫の兵隊たちも規則的な足音を立てて駆け出した。

 その場に残ったのは、相対するように構えた桃太郎と怪物。

 ——そして一人残され、木の陰に隠れて二人の様子を見ているハンプティダンプティであった。

(おいおい、大丈夫なのかぁ。もう負けないとか言っていたが、策はあるのか?)

 あまりにも自信満々であったため深くは追及しなかったが、しかし桃太郎はどうやって怪物に勝つ気なのだろうか。

 心配そうにハンプティダンプティが見つめる中、怪物が口を開いた。

「何か策でも考えてきたのか? 俺とお前が戦えば俺が勝つ。昨日のことでそれは分かっているはず——」

「五月蠅ぇよ。汚い顔面でべらべら喋るな。その面も見たくない」

 桃太郎はそう言って、あろうことか本当に目を瞑った。

 彼のその態度に怪物のこめかみに血管が浮き出、激しく怒っている様子が離れた位置のハンプティダンプティからでもはっきりと見て取れた。

「……そうか、お前のことは武道家としては認めていたんだがな。せめて痛めつけることなく死なせてやろうと思ったが、話は別だ。無様に死ね」

 紫電が弾け、怪物の姿が消えた。

 本当に一瞬で姿を消した怪物に対し、ハンプティダンプティは周囲に目を凝らす。すると、桃太郎の背後に怪物が姿を現した。

「桃太郎ッ!! 後ろ——」

「遅いわッ!! 死ねッ!! 桃太郎!!」

 桃太郎の首を刎ねるような怪物の手刀による一撃。

 それはもはや単なる打撃ではなく、斬撃にも等しい威力を持つ。為す術なく桃太郎の首が胴体から刎ね飛ばされた。

 ——ようなことはなかった。

「四木々流 冬の型ッ!! 脇刺(わきざ)しッ!!」

 手刀が振り下ろされるよりも前に、桃太郎が右足を軸にして背中側に体を回転させ、右肘を怪物の脇腹に叩き込んだからである。

 力でなく速さに重点を置いたナイフのように鋭い肘の攻撃が、怪物の肋骨を的確に砕き、その痛みが怪物の脳を貫く。

 よりもさらに速く、桃太郎は僅かに肘を引き代わりに右拳をハンマーのように握り固めて、先ほどへし折った怪物の肋骨に拳の側面を叩きつけた。

 肋骨というのは内臓を守るための鎧だ。しかし折れた肋骨は最早 防御力を無くし自らの内臓をも傷つける刃となる。

 つまり、怪物の内臓は自らの骨によって貫かれた。

「がはッ!?」

 怪物は口から血を吐き散らした。

 肘の一撃で肋骨を折り、二撃目の拳で折れた肋骨を敵の内臓に突き刺す。

 四木々流の数ある技の中でも特に殺傷能力の高い技。

 それが『脇刺し』である。

「策? そんなものは要らねえよ。お前の性格と戦法は把握した。同じ相手に二度も負けるほど、やわな鍛え方はされてねえよ」

 桃太郎はそう言って不敵に笑った。


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